第10話 優しい蒸しパン(1)

文字数 1,123文字

 長谷部美紅は、風呂上がり、体重計の上にそっとのった。

 五十五キロだった。身長は百五十なので、確かに痩せてはいない体型だった。

 風呂場の鏡には、ややポッチャリした体型の十六歳の少女の姿が写っていた。確かに超デブではない。しかし、モデル体型かと言われればそうでもない。

「あぁ、いやだ!」

 美紅は、イライラしながら体重計から降りて、ボディクリームを塗って、服を着込んだ。このボディクリームもちょっとでも綺麗になれる為に塗っているワケだが、特に変化があった感じがしない。

 一応ダイエットはしている。糖質制限のパンを食べたり、カロリーゼロの飲料を飲んで、軽いストレッチもやっているわけだが、これといった効果は現れない。

 テレビや雑誌を見ると、細くて可愛い子たちがいっぱい出ている。親友の依田光もモデルみたいに美人で細い。一方、自分はどう見てもポッチャリ体型で、コンプレックスを募らせていた。

 風呂から上がった美紅は、自分の部屋に直行し、ベッドの上に寝転んだ。女子高生らしく、ぬいぐるみやアイドルのポスターで彩られた部屋だった。アイドルのポスターは、戸田美穂子という女性シンガーのものも貼ったりしている。美紅は、美穂子の長年のファンだった。歌は微妙だが、細くて妖精のように可愛らしいルックスだった。ふわふわの金髪に、折れそうな身体、白い肌は、日本人離れしていて、美人過ぎるシンガー、天使のようなアイドルと世間を騒がせていた。

 美紅は、ついつい美穂子のSNSをチェックしてしまう。本当は勉強をすべきだが、何となく見てしまう。美穂子のSNSは今日も更新され、折れそうな腕にボディクリームを塗っている写真が投稿されていた。偶然にも、美紅が使っているものと同じだった。美紅は、思わず自分の腕と比べてしまうが、雲泥の差があった。自分の二の腕は、ムチムチしていて膨張しているように見えた。

「やっぱり痩せたいな」

 思わず呟いてしまう。

 美紅は現在、ほぼ一人暮らしの状況だった。両親とも医者で、疫病の影響もあり、かなり多忙な生活を送っていた。そのおかげでついついデリバリーを頼っていたが、それが問題だったのかもしれない。何しろ、プロのお店の料理は美味しく、どんどん食べてしまう。それに、両親からお金もいっぱい貰っていた事も、拍車をかけていた。

「明日からは、食べるのはやめようかな……」

 部屋に飾ってある美穂子のポスター。天使のような微笑みで、美紅の考えに同意しているような表情に見えてしまった。

 さっき塗ったボディクリームの香料の匂いがキツい。ベタベタしてちょっと気持ち悪い。

「美穂子ちゃんみたいになりたい……」

 この時の美紅は、本気で美穂子のようになりたいと考えていた。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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