第115話 御翼とヴェックマン(4)完
文字数 1,449文字
その夜、珍しく夢を見た。
自分は小さい小人になっていた。それこそヴェックマンぐらいのサイズになっていた。小さな真雪は、大きなカラスに襲われそうになったが、白くて大きな翼を持った誰かに助けられた。白くて大きな翼の下に隠れていると、すっかり安心しきっていた。
どこからが声も聞こえた。
「主こそ 狩人の罠から
破滅をもたらす疫病から
あなたを救い出される。
主は 自分の羽であなたをおおい
あなたは その翼の下に身を避ける。
主の真実は大盾 また砦」(旧約聖書・詩篇91より)
その声を聞いていたら、もしかしたら、この大きな翼の持ち主は、神様ではないかと思い始めた。宗教は気持ち悪いが、大きな存在に守られている気がし、すっかりと肩の力が抜けていた。婚活も、必要以上に焦らなくても良い気がした。
夢に神様が出てくるなんて、信じられない気持ちだが、ヴェッグマンを食べた後だし、全く有り得ない事でも無い気がした。このパンで祝われている聖マルティンも、神様の幻を見たと柊が言っていた。
目覚めると、気分はスッキリとしていた。婚活は全く上手くいってはいないが、だんだんと、どうでも良くなっていた。あの、大きな唾の下にいる安心感を思い出すと、恐怖心は消えてしまっていた。
その後、再び福音ベーカリーに行ってみた。店の前のベンチに、柊がいた。休憩中のようで、芝犬と一緒に座って、リラックスしたような表情を見せていた。
「って夢を見たんだけど、どういう事だと思う? 夢に神様が出てくる事ってあり得る事?」
「あるあるだよ。聖マルティンだって神様の幻も見たし、聖書でも普通に神様と会話するシーンとかもあるからね。うん、たぶん、神様が大丈夫って伝えたかったんじゃないかな」
そうかもしれない。宗教は気持ち悪いが、神様という存在だけは、いるような気がしていた。
「私、婚活上手くいかなくて悩んでたの。昔から結婚願望だけは強くてね」
「結婚に憧れ持つのなんて健全だよ。聖書でも結婚は尊いものとして書かれてる。というか聖書ってね、神様と人の結婚の話なんだよ」
「えー? 本当?」
「うん! 結婚をつくったのも神様だよ」
柊のいかにも純粋そうな黒い目を見ていると、嘘をついているようには見えなかった。
「そう言えば私、ネットでシンデレラストーリー書いてるんだけど、聖書って参考になる?」
「それだったら、絶対読んだ方がいいよ。結婚の真理も書いてあるからね」
そんな事を言われると、聖書も気になってきた。側にある黒板式の立て看板を見てみた。前と同じように、若い女性と神様らしき男性のイラストが描かれていた。若い彼女の表情は幸せそうで、見ているこっちも心が穏やかになっていた。たぶん、自分は結婚したいのではなく、こんな笑顔になりたかっただけなのかもしれない。笑顔になる事だったら、結婚を待たずに今からでも出来るのではないか。
「今年のクリスマスは、キリストの花嫁になりませんか?」
看板にあるそんな言葉を読みながら、それも悪く無い気がしていた。
「ねえ、キリストの花嫁ってどういう意味?」
真雪は笑顔を向けながら、柊に聞いていた。
新しくパンが焼けたのか、店の方から良い香りもしてきた。
「ま、パンでも食べながら、ゆっくり教えてあげるよ。今の時間は、カレーパンやピザパンなんかが焼けたから、どう? うちの兄ちゃんが焼いた美味しい天使のパンだよ」
美味しそうな匂いに負けた。
真雪は頷くと、柊と一緒に店に入った。看板犬もくっついてきて、小さな声で吠えていた。
自分は小さい小人になっていた。それこそヴェックマンぐらいのサイズになっていた。小さな真雪は、大きなカラスに襲われそうになったが、白くて大きな翼を持った誰かに助けられた。白くて大きな翼の下に隠れていると、すっかり安心しきっていた。
どこからが声も聞こえた。
「主こそ 狩人の罠から
破滅をもたらす疫病から
あなたを救い出される。
主は 自分の羽であなたをおおい
あなたは その翼の下に身を避ける。
主の真実は大盾 また砦」(旧約聖書・詩篇91より)
その声を聞いていたら、もしかしたら、この大きな翼の持ち主は、神様ではないかと思い始めた。宗教は気持ち悪いが、大きな存在に守られている気がし、すっかりと肩の力が抜けていた。婚活も、必要以上に焦らなくても良い気がした。
夢に神様が出てくるなんて、信じられない気持ちだが、ヴェッグマンを食べた後だし、全く有り得ない事でも無い気がした。このパンで祝われている聖マルティンも、神様の幻を見たと柊が言っていた。
目覚めると、気分はスッキリとしていた。婚活は全く上手くいってはいないが、だんだんと、どうでも良くなっていた。あの、大きな唾の下にいる安心感を思い出すと、恐怖心は消えてしまっていた。
その後、再び福音ベーカリーに行ってみた。店の前のベンチに、柊がいた。休憩中のようで、芝犬と一緒に座って、リラックスしたような表情を見せていた。
「って夢を見たんだけど、どういう事だと思う? 夢に神様が出てくる事ってあり得る事?」
「あるあるだよ。聖マルティンだって神様の幻も見たし、聖書でも普通に神様と会話するシーンとかもあるからね。うん、たぶん、神様が大丈夫って伝えたかったんじゃないかな」
そうかもしれない。宗教は気持ち悪いが、神様という存在だけは、いるような気がしていた。
「私、婚活上手くいかなくて悩んでたの。昔から結婚願望だけは強くてね」
「結婚に憧れ持つのなんて健全だよ。聖書でも結婚は尊いものとして書かれてる。というか聖書ってね、神様と人の結婚の話なんだよ」
「えー? 本当?」
「うん! 結婚をつくったのも神様だよ」
柊のいかにも純粋そうな黒い目を見ていると、嘘をついているようには見えなかった。
「そう言えば私、ネットでシンデレラストーリー書いてるんだけど、聖書って参考になる?」
「それだったら、絶対読んだ方がいいよ。結婚の真理も書いてあるからね」
そんな事を言われると、聖書も気になってきた。側にある黒板式の立て看板を見てみた。前と同じように、若い女性と神様らしき男性のイラストが描かれていた。若い彼女の表情は幸せそうで、見ているこっちも心が穏やかになっていた。たぶん、自分は結婚したいのではなく、こんな笑顔になりたかっただけなのかもしれない。笑顔になる事だったら、結婚を待たずに今からでも出来るのではないか。
「今年のクリスマスは、キリストの花嫁になりませんか?」
看板にあるそんな言葉を読みながら、それも悪く無い気がしていた。
「ねえ、キリストの花嫁ってどういう意味?」
真雪は笑顔を向けながら、柊に聞いていた。
新しくパンが焼けたのか、店の方から良い香りもしてきた。
「ま、パンでも食べながら、ゆっくり教えてあげるよ。今の時間は、カレーパンやピザパンなんかが焼けたから、どう? うちの兄ちゃんが焼いた美味しい天使のパンだよ」
美味しそうな匂いに負けた。
真雪は頷くと、柊と一緒に店に入った。看板犬もくっついてきて、小さな声で吠えていた。