第49話 閉店間際
文字数 1,430文字
今日は、ゴスペル歌手も翠さんがお客様としてやってきた。私は何もしていないが、何か閃いたようで、猛ダッシュで帰っていってしまったが。
今日は隣の教会にもパンをたくさん作って届けた。隣の教会は、生活に困っている人の食糧や衣服を届ける支援をしていて、ぜひ協力したいと申し出たら、大量にパンを作る事になった。急遽、後輩天使のミルルやルルルも来てもらい、どうにか朝にパンを作り終えて届けられた。
そんな事もあり、今日は珍しく暇ではない1日だった。本業の依田光のお守りだが、相変わらず全く祈らないので、パン屋の仕事が本業化しつつある。
「マルちゃーん、余ってるパンない?」
閉店間際の時間、織田春歌がやってきた。春歌は昔の担当だったクリスチャンで、よく子守をしていた。春歌は霊的なものが見える体質なので、私のことは蒼とは呼ばず、マルちゃんと本名で呼んでくる。
正体がバレたので、あまり接触は出来ないが、こうして客として時々やってくる。多くは閉店間際、余ったパンを引き取ってくれる。食品ロスを出すと神様に怒られるとボヤいていたら、協力してくれるようになってしまった。
「残念。今日は種無しパンしかないけど、いい?」
「うん、いいよ。もしかして種無しパンは人気ないの?」
「どうやって食べたらいいかのかわかんないみたい。前に珍しく外国の人が来て、びっくりしてたけど」
「そりゃ、びっくりするでしょ」
そんな会話をしつつ、余った種無しパンを紙袋に包み、春歌に手渡した。
「うん? 春歌、霊的なものが見えて困ってたりする?」
一見普通の女子高生の春歌だが、霊的なもの、特に悪霊が見えてしまうのは、困った事もあるらしい。ただ、こんな体質も神様が意味があって与えているので、精神病院などに連れて行くのは、絶対にダメだ。病気も人間の自分勝手なジャッジで、そういったレッテルが貼られているものもある。医者という仕事は素晴らしいが、所詮人間がしている事なので、完璧ではない。神様の視点では、人間は全員心が死んでる精神疾患だなんて言っても医者に言っても通じないだろう。
「いや、別にそれでは困ってないんだけど、最近占いの悪霊多くない? どっかで門が開いてる?」
その情報は、後輩天使から聞いていた。出来る限りの事はしているが、人間が祈らない限り、私どもも動けない面があった。
「祈ってはいるんだけど、どうやら友達の一人が占いの悪霊に馴染んじゃってるようで……」
「え?」
「うん、依田光ちゃんって子。不真面目だけど、一応クリスチャンだったはずだけど、私はどうしたら良いか……」
春歌は困っているのが伝わってきたが、私も平常心ではいられない。本心では、そんな悪霊はボコボコにしたいが、光が自ら選んでいたとしたら止められない。自由意思を尊重する神様で、光が「神様より占いがいい!」と言ったら、その意思は尊重はされる。
「うーん、それは祈るしかないね。あと、春歌、悪霊祓いはやったら、ダメだよ。それはご両親に聞いてね」
「う、うん……。祈るしかないね」
春歌は泣きそうな顔を見せながら、店から出ていった。
私はイートインスペースの方へいき、すっかりリラックスしているヒソプの背中を撫でる。モフモフな手触りに少しは癒されてくるが。
「光、祈れ!」
ついつい口にしてしまうが、結局強制する事などは出来ない。
気づくと、窓の外は夜になっていた。窓からは、爪の先のように細い月が出ていた。その光だけでは小さく、夜闇が広がっていた。
今日は隣の教会にもパンをたくさん作って届けた。隣の教会は、生活に困っている人の食糧や衣服を届ける支援をしていて、ぜひ協力したいと申し出たら、大量にパンを作る事になった。急遽、後輩天使のミルルやルルルも来てもらい、どうにか朝にパンを作り終えて届けられた。
そんな事もあり、今日は珍しく暇ではない1日だった。本業の依田光のお守りだが、相変わらず全く祈らないので、パン屋の仕事が本業化しつつある。
「マルちゃーん、余ってるパンない?」
閉店間際の時間、織田春歌がやってきた。春歌は昔の担当だったクリスチャンで、よく子守をしていた。春歌は霊的なものが見える体質なので、私のことは蒼とは呼ばず、マルちゃんと本名で呼んでくる。
正体がバレたので、あまり接触は出来ないが、こうして客として時々やってくる。多くは閉店間際、余ったパンを引き取ってくれる。食品ロスを出すと神様に怒られるとボヤいていたら、協力してくれるようになってしまった。
「残念。今日は種無しパンしかないけど、いい?」
「うん、いいよ。もしかして種無しパンは人気ないの?」
「どうやって食べたらいいかのかわかんないみたい。前に珍しく外国の人が来て、びっくりしてたけど」
「そりゃ、びっくりするでしょ」
そんな会話をしつつ、余った種無しパンを紙袋に包み、春歌に手渡した。
「うん? 春歌、霊的なものが見えて困ってたりする?」
一見普通の女子高生の春歌だが、霊的なもの、特に悪霊が見えてしまうのは、困った事もあるらしい。ただ、こんな体質も神様が意味があって与えているので、精神病院などに連れて行くのは、絶対にダメだ。病気も人間の自分勝手なジャッジで、そういったレッテルが貼られているものもある。医者という仕事は素晴らしいが、所詮人間がしている事なので、完璧ではない。神様の視点では、人間は全員心が死んでる精神疾患だなんて言っても医者に言っても通じないだろう。
「いや、別にそれでは困ってないんだけど、最近占いの悪霊多くない? どっかで門が開いてる?」
その情報は、後輩天使から聞いていた。出来る限りの事はしているが、人間が祈らない限り、私どもも動けない面があった。
「祈ってはいるんだけど、どうやら友達の一人が占いの悪霊に馴染んじゃってるようで……」
「え?」
「うん、依田光ちゃんって子。不真面目だけど、一応クリスチャンだったはずだけど、私はどうしたら良いか……」
春歌は困っているのが伝わってきたが、私も平常心ではいられない。本心では、そんな悪霊はボコボコにしたいが、光が自ら選んでいたとしたら止められない。自由意思を尊重する神様で、光が「神様より占いがいい!」と言ったら、その意思は尊重はされる。
「うーん、それは祈るしかないね。あと、春歌、悪霊祓いはやったら、ダメだよ。それはご両親に聞いてね」
「う、うん……。祈るしかないね」
春歌は泣きそうな顔を見せながら、店から出ていった。
私はイートインスペースの方へいき、すっかりリラックスしているヒソプの背中を撫でる。モフモフな手触りに少しは癒されてくるが。
「光、祈れ!」
ついつい口にしてしまうが、結局強制する事などは出来ない。
気づくと、窓の外は夜になっていた。窓からは、爪の先のように細い月が出ていた。その光だけでは小さく、夜闇が広がっていた。