第100話 愛と種無しパン(2)
文字数 1,394文字
飽田市の駅周辺は、パチンコ屋や風俗、占い師のオフィスなどもあり、あまり治安が良い雰囲気はしなかった。そこを通り抜け、瑠偉の家がある方に向かう。駅から少し離れた住宅街だったが、古い家や貧困そうな家も立ち並んでいた。隣にある穂麦市は、治安もよく、駅前は新しいマンションなども立ち並ぶが、この辺りはそんな発展している様子もなかった。
愛美は穂麦市の住人だが、正直なところ、飽田市には住みたいと思えない。
「おぉ、愛美ちゃんか」
瑠偉の部屋のチャイムを鳴らすと、すぐにでてきた。おでこには冷えピタを張り、ジャージの上には半纏を羽織っていた。長い前髪は、いかにも不健康そうで、顔色も真っ青だった。明らかに風邪を引いているようだった。
「これ、教会から。缶詰やカップラーメンなんだけど、食べる?」
「うーん、ありがとう。っていうか、面倒だから、ラーメン作ってくれね?」
なんと図々しいとは思ったが、いかにも具合が悪そうな瑠偉を放っておけず、台所で作ってやった。ほとんど自炊している雰囲気のない台所だった。鍋はかろうじてあったが、どんぶりがない。冷蔵庫のもろくなものがないので、ラーメンのトッピングは生玉子一個、缶詰の鯖になってしまった。しかも鍋ごとのラーメンだったが、瑠偉は、何が嬉しいのか、美味そうに食べていた。ミニマリストでも目指しているのか、ワンルームのアパートは、テレビや本棚もなく、ベッドと小さなちゃぶ台しか無い。服はベッドの上に無造作に積み上げられていた。枕元には古い聖書が数冊置いてあり、一応クリスチャンである事はわかる。
「ねえ、愛美ちゃん。女子高生が、フリーターの男の家に入るのは、ちょっと微妙じゃないかね?」
「そうかな。瑠偉くんって、全く色気が無いからなあ」
「酷い、この女子高生!」
瑠偉は、薄ら笑いを浮かべながら、ラーメンをすすっていた。鍋ごとラーメンを食べる男は、やはり、何の色気もない。そうでなくても、瑠偉は本当に全く色気のない男だった。男というよりは、猫や犬といるような気分にさせられた。それに教会に通っているクリスチャンだろうし、おかしな事をする雰囲気も全くなかった。瑠偉以外の男には、こんなラーメンを作ってやる気分にはなれない。
「愛美は、教会の奉仕とか、楽しい?」
「うん、楽しいけど?」
「本当?」
長い前髪で、よく見えないが、瑠偉の黒い目を見ていたら、なんとなくゾワゾワとしてきた。
「うちらの神様は、こういう行いで救う方かい? だとしたら、愛美ちゃん、けっこう舐めてる」
「そんな事知ってるよ。聖書にも行いでは、救わないって書いてあるね」
「頭ではわかってるじゃん?」
「どういう意味?」
瑠偉といると、愛美はだんだんといイライラもしてきた。何か無造作に核心をついてくる事を言ってきそうで、不安にもなってきた。
「ラーメン、うまかったよ。もう、お家に帰りなさい」
「う、うん…」
本当は家に帰りたくない気持ちが強かったが、窓から見える空は、オレンジ色から藍色に変わっていた。もう、そろそろ夜になりそうな時間だった。
「私、何か間違ってたりした?」
「どうだろうね?」
何となく瑠偉に聞いてみたが、彼は答えは言わなかった。
「答えなんて書いてあるのは、学校の勉強だけだぜ。後は自分で考えて見つけなきゃな」
瑠偉は、珍しく大人らしく真面目な顔を見せていたが、愛美の表情はだんだんと曇っていった。
愛美は穂麦市の住人だが、正直なところ、飽田市には住みたいと思えない。
「おぉ、愛美ちゃんか」
瑠偉の部屋のチャイムを鳴らすと、すぐにでてきた。おでこには冷えピタを張り、ジャージの上には半纏を羽織っていた。長い前髪は、いかにも不健康そうで、顔色も真っ青だった。明らかに風邪を引いているようだった。
「これ、教会から。缶詰やカップラーメンなんだけど、食べる?」
「うーん、ありがとう。っていうか、面倒だから、ラーメン作ってくれね?」
なんと図々しいとは思ったが、いかにも具合が悪そうな瑠偉を放っておけず、台所で作ってやった。ほとんど自炊している雰囲気のない台所だった。鍋はかろうじてあったが、どんぶりがない。冷蔵庫のもろくなものがないので、ラーメンのトッピングは生玉子一個、缶詰の鯖になってしまった。しかも鍋ごとのラーメンだったが、瑠偉は、何が嬉しいのか、美味そうに食べていた。ミニマリストでも目指しているのか、ワンルームのアパートは、テレビや本棚もなく、ベッドと小さなちゃぶ台しか無い。服はベッドの上に無造作に積み上げられていた。枕元には古い聖書が数冊置いてあり、一応クリスチャンである事はわかる。
「ねえ、愛美ちゃん。女子高生が、フリーターの男の家に入るのは、ちょっと微妙じゃないかね?」
「そうかな。瑠偉くんって、全く色気が無いからなあ」
「酷い、この女子高生!」
瑠偉は、薄ら笑いを浮かべながら、ラーメンをすすっていた。鍋ごとラーメンを食べる男は、やはり、何の色気もない。そうでなくても、瑠偉は本当に全く色気のない男だった。男というよりは、猫や犬といるような気分にさせられた。それに教会に通っているクリスチャンだろうし、おかしな事をする雰囲気も全くなかった。瑠偉以外の男には、こんなラーメンを作ってやる気分にはなれない。
「愛美は、教会の奉仕とか、楽しい?」
「うん、楽しいけど?」
「本当?」
長い前髪で、よく見えないが、瑠偉の黒い目を見ていたら、なんとなくゾワゾワとしてきた。
「うちらの神様は、こういう行いで救う方かい? だとしたら、愛美ちゃん、けっこう舐めてる」
「そんな事知ってるよ。聖書にも行いでは、救わないって書いてあるね」
「頭ではわかってるじゃん?」
「どういう意味?」
瑠偉といると、愛美はだんだんといイライラもしてきた。何か無造作に核心をついてくる事を言ってきそうで、不安にもなってきた。
「ラーメン、うまかったよ。もう、お家に帰りなさい」
「う、うん…」
本当は家に帰りたくない気持ちが強かったが、窓から見える空は、オレンジ色から藍色に変わっていた。もう、そろそろ夜になりそうな時間だった。
「私、何か間違ってたりした?」
「どうだろうね?」
何となく瑠偉に聞いてみたが、彼は答えは言わなかった。
「答えなんて書いてあるのは、学校の勉強だけだぜ。後は自分で考えて見つけなきゃな」
瑠偉は、珍しく大人らしく真面目な顔を見せていたが、愛美の表情はだんだんと曇っていった。