第23話 隣人と黒パン(4)完

文字数 778文字

「江崎さん、おはよう!」

 翌日、教室で一人、隅にいる江崎に挨拶をした。案の定無視され、同じクラスの光や美紅には、「あんな奴に挨拶しない方がいいって」と釘を刺されてしまったが。

「でも光。柔らかくて美味しいパンだけというのも物足りなくない? たまには、硬くて頑固そうな黒いパンも食べるのもいいと思う。神様からのチャレンジだよ」
「えー、春歌いったい何言ってるの?」

 光には、ドン引していたが、休み時間や昼食事に江崎に話しかけた。丸っと無視されていたが、神様だったらきっと諦めないとも思う。

 そして午後、体育の時間がはじまった。体育館で、ダンスの練習がある。事前に二人組を組み、軽くストレッチをする。

「はい、二人組作ってー」

 先生の言葉に緊張感が走る。江崎はすみの方で体育座りをし、不貞腐れた表情を見せていた。案の定、誰も話しかけないが、悪霊だけは話しかけている。

『どうせお前なんか、誰も組んでくれないよ』
『いじめなんてした悪いヤツ!』
『存在意義とかあるの?』

 春歌は、そんな悪霊を睨んだ後、江崎に声をかけた。

「江崎さん、一緒に組もう?」

 精一杯、明るい表情を作り、江崎に声をかけた。

「う、うん……」

 春歌の気持ちが伝わったのかは不明だが、江崎はちょっと泣きそうな顔をし、春歌の手をとった。

『いや、隣人愛とかってやめてくれね?』
『普通、ここでは差別するシーンでしょー』
『偽善者〜!』

 なぜか悪霊達は、春歌のこの行為にビビり、勝手に逃げていった。

「江崎さん、学校の近くの住宅街に変なパン屋があるんだけど、今度行ってみない?」
「変なパン屋? パンなんて太るから、食べたくない!」

 ストレッチをしながらも、江崎は文句を言う。気の強い性格は、そう簡単には変わらないようだったが。

「食べても太らない天使のパンだから、大丈夫だよ」

 春歌は、笑顔で蒼のパン屋について語っていた。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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