第177話 閉店間近

文字数 1,188文字

 羊の形をした砂糖菓子、パスクワの羊はかなり好評だった。先輩天使の蒼からは「砂糖菓子職人に転職したら?」と言われるほどだった。蒼は本業で忙しいが、面倒見はよく、時々手伝ってくれていた。元々蒼はこの店を営んでいたし、何かあれば相談したりしていた。

 今日もほぼパンは完売して嬉しいね。パスクワの羊を目当てに他のパンも買って貰えるから、良い副産物だ。

 もう閉店時間が近い。もう売るパンもないので、閉店準備をはじめる。表に出している黒板式の立て看板もしまう事にした。この看板には聖書の御言葉を引用して書いてる。これもパンっていうか、俺らからしたら、これがパンなんだよね。

 今日は看板にイザヤ書の六十一章一節を書いてみた。

「心の傷ついた者をいやすために、わたしを遣わされた。捕らわれ人には解放を、囚人には釈放を告げる」

 思わず御言葉を口に出してしまった。心の傷やトラウマを治す方法はいろいろとあるが、クリスチャンはやっぱり神様に頼って欲しいよね。

 本来ならクリスチャンでずっと精神疾患とかおかしいんだよ。厳しいことを言うけど、長年病院に行って、栄養状態や生活習慣を改善しても完治していなかったら、霊的な問題も疑ってみて欲しい。

 あと病名も呪いになる。聖書に書いてある通り言葉には力があるから。病名をプロフィールに書いてSNSとかやるのも良くはない。精神科医でも病名を調べる事に否定的なものもいる。本当の事を言うと嫌われるけど、事実そうだから仕方がない。俺は決して「いつまでも病気でもいいよ。ありのままで変わらなくてもいいよ。薬も安心して一生飲んでいいよ、病気で可哀想だね」なんて甘ったるい嘘は言えない。優しさも度が過ぎれば毒になる。

 そもそも抗うつ薬や日本の精神医学はいろいろ問題があってさ……。

 おっと話がズレてしまった。

 お客様の一人、江崎歩美も心の傷があったが、神様に癒されたようだ。パスクワの羊も美味しそうに食べてくれて嬉しいね。

 さて、次のお客様は誰かな。歩美のように傷ついている人は、他にいなかいか気になるね。罪もこれが原因になってしてしまう事もあるから。スピリチュアルや占いもご利益宗教的に楽しんでいる人も多いが、解消出来ない心の傷を抱えた人はハマりやすいものでもあるんだよ。

 ふと、スピリチュアルリーダーの山田一子の顔が浮かぶ。スピリチュアルも背後には悪霊がいる。今は良いかもしれないが、滅びの道だ。悪霊と契約していた魔術師アレイスター・クロウリーも死ぬ間際に、悪魔への恨み言を呟いていたらしい。クロウリーは良い死に方ではなかった。最後の最後に悪魔も悪霊も裏切るのだ。

「わん!」

 そこにヒソプが尻尾を振ってやってきた。そろそエサをくれと言う事だろう。

「わかった、わかった。閉店準備終わったら、2階行こうな」

 俺はヒソプのモコモコの背中や顎を撫でた後、閉店準備をすすめた。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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