第139話 全く罪じゃないバターブレッド(1)

文字数 1,351文字

 結城蘭子は、いわゆる自然派ママだった。食品はもちろん、洗剤や歯磨き粉なども気を使う。家族には強制はしていないが、ベジタリアンもやっていて肉も食べない生活を何年か続けていた。

 きっかけは、色々あったが、出産後、心身ともに不調があり、産後鬱のような状況になっていた。香水メーカーで広報の仕事もしていたが、産休のまま、そのまま退職してしまった。当時の同僚や上司はさぞイライラしているだろうが、蘭子は出産が此れほど大変だとは予想がつかなかった。色んな医者にかかったが、特に大きな改善もなく、「ストレスでしょう」「様子を見ましょう」と言われる事が多かった。

 そんな中、図書館で食べ物や健康を独学していくうち、身の回りは毒だらけと気づいた。お世話になっている電子レンジや化粧品も毒だらけと知った時の衝撃は計り知れない。スマートフォンの電磁波もかなり危険で癌になる事もあると聞き、恐怖しか感じなかった。

 それでも、コツコツと電磁波を減らしやり、電子レンジを捨てたり、玄米菜食にしていたら、だんだんと健康になってきた。子供の食事やおやつも手作りしている。今のところ、七歳にんsる息子もなんの健康被害もなく、すくすくと成長していた。夫も蘭子のこうした生活に理解があり、食事も合わせてくれる事が多かった。といっても夫はベジタリアンでは無いので、彼のためにわざわざ肉料理を作ってあげる事もあったが。

 しかし、どうもまた体調が悪くなってきた。自然派ママ界隈の情報を総合すると、疫病対策のあの注射が原因では無いかと囁かれていた。なんでも接種した人から、毒物が伝播されると噂されている。蘭子もその可能性が高いと考え、解毒作用のある松葉茶や生姜なども接種していたが、どうも心身共に調子が悪かった。

 この原因は、何かわからない。自然派ママ界隈にいる蘭子は、全く原因がわからなかった。それどころか、ちょっとでも添加物入りの食品やドリンク、化学物質入りの化粧品などを見てしまうと不安になってきた。

 それでも何故か、相反する気持ちもあったりする。ファストフード、コンビニのチキン、添加物まみれの袋に入ったパンを異様に食べたくなったりした。コンビニやスーパーで、数十分も迷い、結局、何も買わずに出てきた事もある。

 人は、あまりにも縛られると、その反動で、突飛な行動に出てしまう事もあるのかもしれない。過保護に育てられた子供が、将来ヲタクになって散財する事はよく聞く。自然派ではなく一般人の友達は、子供の頃に禁止されていたハンバーガーやドーナツが好物だと言っていた。それに加えていかにも添加物が入った色鮮やかなキャンディやアイスもついつい買ってしまうらしい。昔のカトリック教会で孤児院があった理由も、あまりにも神父が清く正しい生活をしていた反動で、子作りしまくった結果という噂も聞いた事がある。

 とりあえず、今は子供にはある程度好きなお菓子やジュースを与えていた。反動で将来、お菓子中毒になるのも困る。

 ただ、自分は相変わらず縛っていた。少しでもコンビニのスイーツや肉でも食べたら、死ぬかもしれないという恐れもあったり、思いと反して食べる事はできなかった。

 今のところ、体調は良いが、何か、恐れのようなものに縛られ、食事も全く楽しくなかった。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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