第180話 トルチリオーネと誘惑(3)
文字数 1,174文字
蛇は人間の言葉を話していた。どう見ても非科学的だったが、目が離せない。これもご利益に繋がるかと思うと、無視もできない。
頭上の空は曇っていき、今にも雨が降りそうだったが、無視する事は出来なかった。
『絵名、絵名。お前のことは知ってる』
蛇の声は、中年男性のようだった。深みがあるイケボである。こんな声の上司がいたら、思わず信頼してしまうだろう。それぐらい良い声だった。
『このまま一子を信じているのは、リスクがあるよ』
「どういう事よ?」
蛇を睨みつけてしまった。信頼している一子を悪く言われるのは、気分が悪い。
『俺は未来が見えるんだが、一子は将来全てを失う予定だ』
「本当?」
『スピリチュアルや占い師というのは、そういう職業なのさ』
「?」
言っている意味がわからなかったが、蛇にそんな事を言われると怖くなってきた。このまま一子を信じるのは、コスパが悪い?
強い風が吹き、木々のざわめきが聞こえる。その音を聞いていたら、不安にもなってきた。
『俺と契約した方がいいよ』
「そしたら、どうなるの?」
絵名の声は少し震えていた。ファンタジーのようだが、ここは神社だし、嘘には全く見えなかった。
『お金も、異性も、容姿も全部あげるよ。この世の栄華も全部、絵名にあげる』
ハチミツのように甘い声だった。絵名が欲しいものは、全部そこにあるような気がした。
「で、でも。契約って何?」
『私と一心同体になってもらう。つまり、夫婦にように、財産や健康、将来も全て共有する。契約とは、こういう事さ』
蛇は、なぜか「将来」という言葉を強調していた。
「会社経営もたち直せる?」
『もちろんさ』
甘い声で、判断力が狂っていた。自分は明らかに蛇に誘惑されていた。ここで契約とやらをしてしまえば、願いが叶う?
喉元まで「契約する」と言いかけていた。それでも、何かが頭に引っかかっていた。なぜかSNSで見た風俗嬢の呟きなどを思い出す。
「魂売る仕事なんてするんじゃなかった。気が狂いそう。一晩で何万も稼ぐ仕事って魂売ってたんだね。もう辞めたい」
そんな事を語っていた。かなり昔に調べた事だったのに、なぜか頭に浮かんでいた。
『成功できるよ。どうだい?』
揺れている絵名の本心を見透かすように、蛇はさらの誘惑してきた。
確かに成功、富を求めていた。実際、動画や高級食路線のパン屋は成功したところがあった。でも、何か捨てている感覚はあった。魂を売っていたのだろうか。その証拠に、別に幸せではない。子供の頃から夢見ていたお金も手に入ったのに、親には泣かれた。
何か間違っているような気がしてきた。特にべったりと一子に依存している状況は幸せではない。蛇と契約とやらをしても、同じように支配されるような予感もあった。
「い、嫌です!」
絵名は絞り出すように、叫ぶ。目の前にいる蛇を無視し、走って神社から逃げた。
頭上の空は曇っていき、今にも雨が降りそうだったが、無視する事は出来なかった。
『絵名、絵名。お前のことは知ってる』
蛇の声は、中年男性のようだった。深みがあるイケボである。こんな声の上司がいたら、思わず信頼してしまうだろう。それぐらい良い声だった。
『このまま一子を信じているのは、リスクがあるよ』
「どういう事よ?」
蛇を睨みつけてしまった。信頼している一子を悪く言われるのは、気分が悪い。
『俺は未来が見えるんだが、一子は将来全てを失う予定だ』
「本当?」
『スピリチュアルや占い師というのは、そういう職業なのさ』
「?」
言っている意味がわからなかったが、蛇にそんな事を言われると怖くなってきた。このまま一子を信じるのは、コスパが悪い?
強い風が吹き、木々のざわめきが聞こえる。その音を聞いていたら、不安にもなってきた。
『俺と契約した方がいいよ』
「そしたら、どうなるの?」
絵名の声は少し震えていた。ファンタジーのようだが、ここは神社だし、嘘には全く見えなかった。
『お金も、異性も、容姿も全部あげるよ。この世の栄華も全部、絵名にあげる』
ハチミツのように甘い声だった。絵名が欲しいものは、全部そこにあるような気がした。
「で、でも。契約って何?」
『私と一心同体になってもらう。つまり、夫婦にように、財産や健康、将来も全て共有する。契約とは、こういう事さ』
蛇は、なぜか「将来」という言葉を強調していた。
「会社経営もたち直せる?」
『もちろんさ』
甘い声で、判断力が狂っていた。自分は明らかに蛇に誘惑されていた。ここで契約とやらをしてしまえば、願いが叶う?
喉元まで「契約する」と言いかけていた。それでも、何かが頭に引っかかっていた。なぜかSNSで見た風俗嬢の呟きなどを思い出す。
「魂売る仕事なんてするんじゃなかった。気が狂いそう。一晩で何万も稼ぐ仕事って魂売ってたんだね。もう辞めたい」
そんな事を語っていた。かなり昔に調べた事だったのに、なぜか頭に浮かんでいた。
『成功できるよ。どうだい?』
揺れている絵名の本心を見透かすように、蛇はさらの誘惑してきた。
確かに成功、富を求めていた。実際、動画や高級食路線のパン屋は成功したところがあった。でも、何か捨てている感覚はあった。魂を売っていたのだろうか。その証拠に、別に幸せではない。子供の頃から夢見ていたお金も手に入ったのに、親には泣かれた。
何か間違っているような気がしてきた。特にべったりと一子に依存している状況は幸せではない。蛇と契約とやらをしても、同じように支配されるような予感もあった。
「い、嫌です!」
絵名は絞り出すように、叫ぶ。目の前にいる蛇を無視し、走って神社から逃げた。