第47話 一つの道といのちのパン(3)
文字数 1,625文字
数日後、緑は穂麦市駅に降り立っていた。駅前は商業施設もあり、学校も見える。そこそこ栄えているようだが、住宅街に一歩足を踏み入れると、老人が多そうな静かなところだった。
平日の昼間に行ったせいかもしれないが。緑の仕事は不定期、日曜日も礼拝に行くので、休日は平日になる事が多かった。
慣れない土地という事もあり、福音ベーカリーまで迷ってしまった。
「すみません、福音ベーカリーって知りませんか?」
道を行く老人に話しかけた。
「あぁ、あのパン屋は、この道のまっすぐ行って教会と大きな依田さんちの家の近くにあるよ。風子、いやうちの孫が食パンを買ってきたんだが、素朴で美味しいパン屋だよ。店長もイケメンさ」
老人は少し顔を赤ながら去っていった。確かにお婆さんでもイケメンは、何か元気になれる要素があるのかもしれない。緑の母も韓国の俳優にハマってから更年期障害が緩和されていた。確かに偶像視し、恋愛感情を持つのは聖書的ではないが、孫や子供を愛するように芸能人を応援したりするのは、特に問題はない。要は何を最優先にするかが問題だった。今、緑の通っている教会の牧師は、神様を第一にすれば、他のものも過剰に興味がなくなるし、適度に楽しめるようになるとは言っていた。
そんな事を考えつつ足を進めると、福音ベーカリーがあった。緑の想像以上に可愛らしい雰囲気のパン屋だった。クリーム色の壁に赤い屋根。小さなパン屋という事もあり、イケメンではなく小人でも住んでそうな雰囲気だった。白雪姫に出てきそうな雰囲気だ。
店の前のベンチには、柴犬が座っていた。おそらく看板犬だろう。可愛らしい芝犬で翠もほっこりとした気分になる。
「こんにちは」
なぜか芝犬に挨拶し、隣に座った。住宅街を彷徨っていたので、少し疲れてしまった。そばで見る芝犬の尻尾はくるくるとし、シナモンロールのようだった。
店の前にある黒板式の立て看板を見てみる。聖書の御言葉が書いてあった。店主がクリスチャンというのは、間違い無いだろう。
「私は道であり、真理であり、命である。ヨハネの福音書14章6節より」
何度も聖書で読んだ箇所だが、いつ見てもその真っ直ぐさに体が震えそうだ。一方、自分は真っ直ぐに生きられているだろうか。讃美歌の新曲も出来ず、投げつけられた言葉の毒にやられていた。聖書の御言葉を見ているだけで、なぜか泣きたくなってくる。あまりにも自分が情けなくて。
「こんにちは! いらっしゃい!」
そこに店から店主が出てきた。確かのイケメンだった。二十五歳ぐらいで、おそらく自分と同じ歳ぐらいだろう。ふわふわの栗系がよく似合ってるいたが、コックコートがよく似合い、手も職人のものだった。顔だけはビジュアル系バンドマンでもいけそうだが、他はそうでも無いようだった。
「緑さん、こんにちは! うちの看板犬が吠えちゃって、うるさかったでしょ?」
「いえ、そうじゃなくて、なんで私の名前知ってるの?」
店主の名前は天野蒼という名前らしい。これは翠がエスパーしたのではなく、コックコートの胸元に名前が刺繍されていたからだ。一方、店主はなぜ碧の名前を知っているんだろう。
「ゴスペル歌ってる緑さんでしょ。いつも配信見てるよ。僕は社畜、じゃなかった、クリスチャンだから緑さんの歌好きだよ」
「え、ああ。ありがとう」
ゴスペルシンガーとしてのファンは、別にそんなに多く無いので、戸惑ってしまう。隣に座る芝犬はすっかりリラックスして、眠そうにしていたが、緑は緊張してきてしまった。相手は妙にニコニコとし、愛想がいい。何か裏がある気がした。
「ちょっと、待ってて。実は新作の試食があるんだよ」
蒼は、そう言って一旦店に戻ると、フードパックに入った試作品を持ってきた。
「新商品の試作品なんだ。食べてみて、で、感想聞かせて?」
緑は戸惑っていたが、フードパックを受け取る。
「は!? 何これ……」
フードパックの中には、緑の予想外のものが入っていた。
平日の昼間に行ったせいかもしれないが。緑の仕事は不定期、日曜日も礼拝に行くので、休日は平日になる事が多かった。
慣れない土地という事もあり、福音ベーカリーまで迷ってしまった。
「すみません、福音ベーカリーって知りませんか?」
道を行く老人に話しかけた。
「あぁ、あのパン屋は、この道のまっすぐ行って教会と大きな依田さんちの家の近くにあるよ。風子、いやうちの孫が食パンを買ってきたんだが、素朴で美味しいパン屋だよ。店長もイケメンさ」
老人は少し顔を赤ながら去っていった。確かにお婆さんでもイケメンは、何か元気になれる要素があるのかもしれない。緑の母も韓国の俳優にハマってから更年期障害が緩和されていた。確かに偶像視し、恋愛感情を持つのは聖書的ではないが、孫や子供を愛するように芸能人を応援したりするのは、特に問題はない。要は何を最優先にするかが問題だった。今、緑の通っている教会の牧師は、神様を第一にすれば、他のものも過剰に興味がなくなるし、適度に楽しめるようになるとは言っていた。
そんな事を考えつつ足を進めると、福音ベーカリーがあった。緑の想像以上に可愛らしい雰囲気のパン屋だった。クリーム色の壁に赤い屋根。小さなパン屋という事もあり、イケメンではなく小人でも住んでそうな雰囲気だった。白雪姫に出てきそうな雰囲気だ。
店の前のベンチには、柴犬が座っていた。おそらく看板犬だろう。可愛らしい芝犬で翠もほっこりとした気分になる。
「こんにちは」
なぜか芝犬に挨拶し、隣に座った。住宅街を彷徨っていたので、少し疲れてしまった。そばで見る芝犬の尻尾はくるくるとし、シナモンロールのようだった。
店の前にある黒板式の立て看板を見てみる。聖書の御言葉が書いてあった。店主がクリスチャンというのは、間違い無いだろう。
「私は道であり、真理であり、命である。ヨハネの福音書14章6節より」
何度も聖書で読んだ箇所だが、いつ見てもその真っ直ぐさに体が震えそうだ。一方、自分は真っ直ぐに生きられているだろうか。讃美歌の新曲も出来ず、投げつけられた言葉の毒にやられていた。聖書の御言葉を見ているだけで、なぜか泣きたくなってくる。あまりにも自分が情けなくて。
「こんにちは! いらっしゃい!」
そこに店から店主が出てきた。確かのイケメンだった。二十五歳ぐらいで、おそらく自分と同じ歳ぐらいだろう。ふわふわの栗系がよく似合ってるいたが、コックコートがよく似合い、手も職人のものだった。顔だけはビジュアル系バンドマンでもいけそうだが、他はそうでも無いようだった。
「緑さん、こんにちは! うちの看板犬が吠えちゃって、うるさかったでしょ?」
「いえ、そうじゃなくて、なんで私の名前知ってるの?」
店主の名前は天野蒼という名前らしい。これは翠がエスパーしたのではなく、コックコートの胸元に名前が刺繍されていたからだ。一方、店主はなぜ碧の名前を知っているんだろう。
「ゴスペル歌ってる緑さんでしょ。いつも配信見てるよ。僕は社畜、じゃなかった、クリスチャンだから緑さんの歌好きだよ」
「え、ああ。ありがとう」
ゴスペルシンガーとしてのファンは、別にそんなに多く無いので、戸惑ってしまう。隣に座る芝犬はすっかりリラックスして、眠そうにしていたが、緑は緊張してきてしまった。相手は妙にニコニコとし、愛想がいい。何か裏がある気がした。
「ちょっと、待ってて。実は新作の試食があるんだよ」
蒼は、そう言って一旦店に戻ると、フードパックに入った試作品を持ってきた。
「新商品の試作品なんだ。食べてみて、で、感想聞かせて?」
緑は戸惑っていたが、フードパックを受け取る。
「は!? 何これ……」
フードパックの中には、緑の予想外のものが入っていた。