第112話 御翼とヴェックマン(1)
文字数 1,589文字
白川真雪は、昔から結婚願望の強い女だった。その為に、料理などの家事も完璧にこなし、いわゆる女子力が高い状態をキープしていた。
高卒後は、地元・穂麦市にあるの佃煮メーカーの経理兼事務員をしていたが、休みの日は婚活パーティーに繰り出し、いわゆるハイスペ男子を漁っていた。婚活パーティーでテレビのインタビューに答え「医者か経営者としか結婚したくありません!」と発言し、ネットで炎上した事もあったが、本人はメンタルは太い方でけろっとしていた。
そんな真雪だったが、目当てのハイスペ男子とは縁ができず、高校の時に付き合っていた彼氏となかなか縁が切れず、ズルズルと同棲していた。
この男・古川晴人だって悪い男ではない。一応学校の職員で、聖マリアアザミ学園というお嬢様学校で数学の教師をしていた。見た目は全く冴えず、まだ三十歳なのに禿げかけていたが、親や友達は「いい人そう、結婚したらいいのに」とけしかける事も多かった。
もう真雪も二十八歳だったし、ハイスペ男子とじゃ付き合えそうに無いので、晴人でもいっかーと考えているところだった。さりげなく部屋にゼクシィなどを置いたり、弁当を作ってやったり、せっせと女子力をアピールしていた。また、友達に生まれた子供の写真などを見せていた。いわゆる匂わせである。
しかし、晴人には真雪の匂わせアピールなどは全く通じず、日々の会話も野球やサッカーの話題ばかりだった。仕事はつまらなそうで、ぎ愚痴も多かったが。
一方、真雪は趣味でネット小説を書いていた。今はシンデレラストーリーが人気のようで、自分の願望を滲ませた医者と冴えないOLのシンデレラストーリーが、小説投稿サイトで上位にランクインしていたりした。全部妄想と言っていい代物だが、なぜか「リアル」「共感する」などと言う感想を受け取る事も多かった。結婚願望の強い真雪は、世にある女性向けのシンデレラストーリーを読み尽くしているので、読者が求めているものが何となくわかったりした。意外と執筆は楽しく、晴人との煮え切らない関係にも折り合いがつけるかもと考えていた時だった。
突然、晴人から話がしたいと呼び出された。これはついにプロポーズかとウキウキしながら、待ち合わせ場所の近所のカフェに行ってみた。
何故かそこには晴人だけでく、四十歳近い地味な女もいた。女子力も低そうで、事故の後遺症なのか片足も障害が残っていそうな女性だった。
「じ、実はさ。彼女に子供ができたんだ……」
「は?」
晴人が言っている事が全く理解できなかった。晴人は淡々と事情を説明した。この地味なアラフォー女性とは、ずっと二股をかけていた事を告白。晴人的には真雪ともどちらも本命に選べず、ズルズルと楽しい関係を続けたらしい。
「え、意味わからない」
寝耳に水とはこの事だった。真雪は、晴人が浮気していた事など全く知らなかった。そもそも晴人自体にも浮気の認識がなさそうだったが。
「で、彼女に子供ができちゃったんだよね。これは、もう彼女が本命って事だと思うんだ」
晴人はそう言うと、しばし地味なアラフォー女性と見つめあっていた。確かに年齢より老けて見える晴人と彼女の雰囲気はお似合いだったが。
「え?」
全く意味がわからない。あの数々の匂わせ工作が無駄だった事だけは、辛うじて理解できていた。
「ま、真雪は女子力高いし、他に良い男がいるって」
「そうですよ。真雪さんは美人で若いですもの」
なぜか浮気相手(?)のアラフォー女性にも応援されてしまい、真雪は脱力しきっていた。
「はあ?」
あろう事か二人はイチャイチャしはじめて、真雪は怒る気分も失せてきた。薄汚い中年カップルが目の前でイチャイチャされると、逆にこちらが恥ずかしくなってきた。
こういう時、テレビや漫画みたいに相手に水でもかけてやるべきだろうか。真雪はすっかり脱力し、何のヤル気も出なかった。
高卒後は、地元・穂麦市にあるの佃煮メーカーの経理兼事務員をしていたが、休みの日は婚活パーティーに繰り出し、いわゆるハイスペ男子を漁っていた。婚活パーティーでテレビのインタビューに答え「医者か経営者としか結婚したくありません!」と発言し、ネットで炎上した事もあったが、本人はメンタルは太い方でけろっとしていた。
そんな真雪だったが、目当てのハイスペ男子とは縁ができず、高校の時に付き合っていた彼氏となかなか縁が切れず、ズルズルと同棲していた。
この男・古川晴人だって悪い男ではない。一応学校の職員で、聖マリアアザミ学園というお嬢様学校で数学の教師をしていた。見た目は全く冴えず、まだ三十歳なのに禿げかけていたが、親や友達は「いい人そう、結婚したらいいのに」とけしかける事も多かった。
もう真雪も二十八歳だったし、ハイスペ男子とじゃ付き合えそうに無いので、晴人でもいっかーと考えているところだった。さりげなく部屋にゼクシィなどを置いたり、弁当を作ってやったり、せっせと女子力をアピールしていた。また、友達に生まれた子供の写真などを見せていた。いわゆる匂わせである。
しかし、晴人には真雪の匂わせアピールなどは全く通じず、日々の会話も野球やサッカーの話題ばかりだった。仕事はつまらなそうで、ぎ愚痴も多かったが。
一方、真雪は趣味でネット小説を書いていた。今はシンデレラストーリーが人気のようで、自分の願望を滲ませた医者と冴えないOLのシンデレラストーリーが、小説投稿サイトで上位にランクインしていたりした。全部妄想と言っていい代物だが、なぜか「リアル」「共感する」などと言う感想を受け取る事も多かった。結婚願望の強い真雪は、世にある女性向けのシンデレラストーリーを読み尽くしているので、読者が求めているものが何となくわかったりした。意外と執筆は楽しく、晴人との煮え切らない関係にも折り合いがつけるかもと考えていた時だった。
突然、晴人から話がしたいと呼び出された。これはついにプロポーズかとウキウキしながら、待ち合わせ場所の近所のカフェに行ってみた。
何故かそこには晴人だけでく、四十歳近い地味な女もいた。女子力も低そうで、事故の後遺症なのか片足も障害が残っていそうな女性だった。
「じ、実はさ。彼女に子供ができたんだ……」
「は?」
晴人が言っている事が全く理解できなかった。晴人は淡々と事情を説明した。この地味なアラフォー女性とは、ずっと二股をかけていた事を告白。晴人的には真雪ともどちらも本命に選べず、ズルズルと楽しい関係を続けたらしい。
「え、意味わからない」
寝耳に水とはこの事だった。真雪は、晴人が浮気していた事など全く知らなかった。そもそも晴人自体にも浮気の認識がなさそうだったが。
「で、彼女に子供ができちゃったんだよね。これは、もう彼女が本命って事だと思うんだ」
晴人はそう言うと、しばし地味なアラフォー女性と見つめあっていた。確かに年齢より老けて見える晴人と彼女の雰囲気はお似合いだったが。
「え?」
全く意味がわからない。あの数々の匂わせ工作が無駄だった事だけは、辛うじて理解できていた。
「ま、真雪は女子力高いし、他に良い男がいるって」
「そうですよ。真雪さんは美人で若いですもの」
なぜか浮気相手(?)のアラフォー女性にも応援されてしまい、真雪は脱力しきっていた。
「はあ?」
あろう事か二人はイチャイチャしはじめて、真雪は怒る気分も失せてきた。薄汚い中年カップルが目の前でイチャイチャされると、逆にこちらが恥ずかしくなってきた。
こういう時、テレビや漫画みたいに相手に水でもかけてやるべきだろうか。真雪はすっかり脱力し、何のヤル気も出なかった。