第178話 トルチリオーネと誘惑(1)
文字数 2,815文字
小森絵名が生まれた家は、貧乏だった。父は精神疾患があり、仕事も休みがちだった。母は介護士として働いていたが、労働時間の割には稼いでいないようにみえた。父が休職するたびに会計は悪化し、絵名も巻き込まれていた。また、昼間に父が寝転がり、酒を飲んでいるシーンを度々見て育つと、男性への信頼感もすり減り、お金は自分で稼がなければならないと、思い込むようになっていった。
同級生は可愛い文房具や洋服を着ていると、内心歯軋りしていた。絵名は、そんなものを買ってもらえる様子はなく、メモ帳もチラシ裏を利用したり、お菓子の空き箱をペン立てにしていた。本も買って貰った事はない。いつも図書館に行ったり、姉が使っていた古い参考書を活用するしかなかった。服も常に姉のお下がりで、子供の頃は、サイズがブカブカな服を着せられた事もあった。
学校では、貧富の差なんてない、皆んな平等と習う。特に道徳では、性別や家柄、年齢や容姿で差別しちゃいけないと書いてあったが、そうとは思えなかった。現に、同級生の中でも格差がある。綺麗な洋服を着て可愛い文房具を持っている同級生がいる一方、絵名のようにそんなものに縁のない人間もいる。
校則では髪の毛を染めたり、メイクも禁止だった。特にメイクは貧富の差が出るから、禁止だという。しかし、実際のクラスの様子を見れば、普通に貧富の差がある。大人達のいう綺麗事と、現実は全く違うと感じていた。このまま大人の言う綺麗事を鵜呑みにしていたら、人生詰むとも思っていた。綺麗事なんて建前。人間の本音なんて、そんな綺麗なものではない。容姿とお金、それと学歴でだいたい人生が決まると思っていた。大人の言う差別のない平等の世界は、絵空事だろう。
絵名は、子供の頃から図書館に通い、稼ぐ方法なども調べていた。今生きている世界はお金と容姿はかなりの武器になる。これだけあれば、生きやすくなるのは確実だった。父が精神疾患なのも、結局この二つが足りていないのが原因だろう。父は色々と綺麗事を言っていたが、「お金がなくデブでハゲなのが病気の原因ではないですか?」と喉元まで出そうになっていた。
稼ぐ方法は色々と本を読んでみたが、学歴をとって良い会社に行くのは、コスパが悪い気がした。安定はしてるが年収額は決まっているし、学費と時間をかけた割には回収額も少なく見えた。大きく稼ぐためには、学歴コースに行かない方が良いかもしれない。そもそも家計の状態からいって大学に行ける可能性も低そうだった。
資格を取る事も考えたが、それも金と時間の割には、どうもコスパが悪い。手に職がある美容師などの年収を調べると、かなり驚いてしまった。技術の割に稼げ無いようにみえた。他にもシェフやパン職人も労働時間が長く、体力を使う割には、年収が抑えられていて、絵名は理不尽にも感じてしまった。
一方、投資家などは、家で寝ていても収入が入ってくる。投資家も良いと思ったが、これは元手が無いと難しそうだった。やはり、生まれた家でこの後の人生や収入が決まりやすい現実の直面し、しばらく不貞腐れていた。特に高校生の時は、いわゆるヤンキーになり、自堕落な生活もしていた。
そんな時、ヤンキー仲間から、絵名はルックスがいいんだから、身体売って稼げば良くないと言われた事があった。それも確かに考えていたが、本当にコスパが良いのかわからなかった。ネットでキャバ嬢などのSNSを見ると、なぜかメンヘラ率が高い。顔は綺麗だが、どうも不幸そうな雰囲気の女も多かった。総合的見て、コスパよくお金を回収できるかわからない。もっとも売春は最古の女の職業だ。本当にお金に困ったら、やっても良いなどと電卓を叩いているところもあった。
そんな絵名だったが、確かの自分でもルックスは良い方という自覚はあった。子供の頃から、世の中は金か容姿だと気づいていた絵名は、スキンケアやヘアケアはもちろん、自力で二重跡を無理矢理つけていた。やはり、二重の方が目が大きく見え、コスパが良いと考えた絵名は毎日マッサージを繰り返し、自力で二重跡をつけてしまった。
「そうか、私はルックスだけは悪く無いわな……」
それに気づいた絵名は、容姿を生かして稼ぐ事を考えた。ただ、性的に搾取される系はコスパが悪いと考え、もっと同性受けしやすい戦略も練り、動画サイトで稼ぐようになった。最初はメイク道具や服の紹介などをし、そこそこ再生回数も稼いでいた。
しかし、ネットの世界はシビアだ。飽きられればすぐに、人気も落ちる。賭け事のような気分だったが、いわゆる炎上商法のような事もやってもた。最初は叩かれて病みそうにもなったが、動画再生回数はみるみる伸び、コスパは悪くなさそうだった。絵名はたびたび炎上を意図的におこし、すっかりネットの有名人になっていた。
親は泣いていたが、もうどうでも良かった。タワーマンションに引っ越し。動画サイトで稼いだ金を元手に事業も立ち上げた。高級路線のパン屋も作ったが、メディアに取り上げられたり、売り上げも伸び続けていた。
動画サイトを運営している時、引き寄せの法則やスピリチュアル系のメゾットのハマり、これがよく効果があった。特にスピリチュアルリーダーの山田一子の言う通りの行動すると、ビジネスで成功したり、チャンスが舞い込む事が多く、すっかり信頼して高額セミナーやセッションにも通っていた。一子のアドバイス通りにオフィスの神棚を飾り、パワーストーンも腕に巻きつけた。
不思議な事に絵名のような事業主や経営者は、スピリチュアルにハマっている人も多かった。経営者が副業とてスピリチュアル系のカウンセリング業などをやってるケースもみた。また、カルトにハマっている事業主や経営者も多く、何か秘密か効果があるのか、気になってはいた。
絵名は元々コスパが悪い事が嫌いだ。事業主や経営者だってもっとそうだろう。そう思うと、世間では評判の悪いスピリチュアルやカルトも何んらかのご利益はあるようで、ますますのめり込んでいった。
そう言った見えな力も借りて、順調に成功していくだろうと思い込んでいた。一子に頼っていれば大丈夫。時々理不尽な命令もあったが、何も考えずに従っていた。それぐらい絵名は、一子にハマっていた。
そんな折、秘書の小夜に退職届けを突きつけられた。それを皮切りに、店のスタッフも続々とやめていき、ネットでも絵名の悪い評判が流れていた。想像もしていないような不運が重なり、事業も傾き始めた。店も閉店する事になり、絵名は追い込まれていた。
「一子先生、どうしましょう!」
絵名はドラえもんに頼るのび太のように、一子に泣きついていた。その姿は本当に小学生のようだった。金髪で派手な見た目の絵名だが、弱々しくなっていた。
「大丈夫、絵名。私の言う通りにすれば」
一子は、女神のように微笑み、やっぱりこの人しか頼れないと思った。
同級生は可愛い文房具や洋服を着ていると、内心歯軋りしていた。絵名は、そんなものを買ってもらえる様子はなく、メモ帳もチラシ裏を利用したり、お菓子の空き箱をペン立てにしていた。本も買って貰った事はない。いつも図書館に行ったり、姉が使っていた古い参考書を活用するしかなかった。服も常に姉のお下がりで、子供の頃は、サイズがブカブカな服を着せられた事もあった。
学校では、貧富の差なんてない、皆んな平等と習う。特に道徳では、性別や家柄、年齢や容姿で差別しちゃいけないと書いてあったが、そうとは思えなかった。現に、同級生の中でも格差がある。綺麗な洋服を着て可愛い文房具を持っている同級生がいる一方、絵名のようにそんなものに縁のない人間もいる。
校則では髪の毛を染めたり、メイクも禁止だった。特にメイクは貧富の差が出るから、禁止だという。しかし、実際のクラスの様子を見れば、普通に貧富の差がある。大人達のいう綺麗事と、現実は全く違うと感じていた。このまま大人の言う綺麗事を鵜呑みにしていたら、人生詰むとも思っていた。綺麗事なんて建前。人間の本音なんて、そんな綺麗なものではない。容姿とお金、それと学歴でだいたい人生が決まると思っていた。大人の言う差別のない平等の世界は、絵空事だろう。
絵名は、子供の頃から図書館に通い、稼ぐ方法なども調べていた。今生きている世界はお金と容姿はかなりの武器になる。これだけあれば、生きやすくなるのは確実だった。父が精神疾患なのも、結局この二つが足りていないのが原因だろう。父は色々と綺麗事を言っていたが、「お金がなくデブでハゲなのが病気の原因ではないですか?」と喉元まで出そうになっていた。
稼ぐ方法は色々と本を読んでみたが、学歴をとって良い会社に行くのは、コスパが悪い気がした。安定はしてるが年収額は決まっているし、学費と時間をかけた割には回収額も少なく見えた。大きく稼ぐためには、学歴コースに行かない方が良いかもしれない。そもそも家計の状態からいって大学に行ける可能性も低そうだった。
資格を取る事も考えたが、それも金と時間の割には、どうもコスパが悪い。手に職がある美容師などの年収を調べると、かなり驚いてしまった。技術の割に稼げ無いようにみえた。他にもシェフやパン職人も労働時間が長く、体力を使う割には、年収が抑えられていて、絵名は理不尽にも感じてしまった。
一方、投資家などは、家で寝ていても収入が入ってくる。投資家も良いと思ったが、これは元手が無いと難しそうだった。やはり、生まれた家でこの後の人生や収入が決まりやすい現実の直面し、しばらく不貞腐れていた。特に高校生の時は、いわゆるヤンキーになり、自堕落な生活もしていた。
そんな時、ヤンキー仲間から、絵名はルックスがいいんだから、身体売って稼げば良くないと言われた事があった。それも確かに考えていたが、本当にコスパが良いのかわからなかった。ネットでキャバ嬢などのSNSを見ると、なぜかメンヘラ率が高い。顔は綺麗だが、どうも不幸そうな雰囲気の女も多かった。総合的見て、コスパよくお金を回収できるかわからない。もっとも売春は最古の女の職業だ。本当にお金に困ったら、やっても良いなどと電卓を叩いているところもあった。
そんな絵名だったが、確かの自分でもルックスは良い方という自覚はあった。子供の頃から、世の中は金か容姿だと気づいていた絵名は、スキンケアやヘアケアはもちろん、自力で二重跡を無理矢理つけていた。やはり、二重の方が目が大きく見え、コスパが良いと考えた絵名は毎日マッサージを繰り返し、自力で二重跡をつけてしまった。
「そうか、私はルックスだけは悪く無いわな……」
それに気づいた絵名は、容姿を生かして稼ぐ事を考えた。ただ、性的に搾取される系はコスパが悪いと考え、もっと同性受けしやすい戦略も練り、動画サイトで稼ぐようになった。最初はメイク道具や服の紹介などをし、そこそこ再生回数も稼いでいた。
しかし、ネットの世界はシビアだ。飽きられればすぐに、人気も落ちる。賭け事のような気分だったが、いわゆる炎上商法のような事もやってもた。最初は叩かれて病みそうにもなったが、動画再生回数はみるみる伸び、コスパは悪くなさそうだった。絵名はたびたび炎上を意図的におこし、すっかりネットの有名人になっていた。
親は泣いていたが、もうどうでも良かった。タワーマンションに引っ越し。動画サイトで稼いだ金を元手に事業も立ち上げた。高級路線のパン屋も作ったが、メディアに取り上げられたり、売り上げも伸び続けていた。
動画サイトを運営している時、引き寄せの法則やスピリチュアル系のメゾットのハマり、これがよく効果があった。特にスピリチュアルリーダーの山田一子の言う通りの行動すると、ビジネスで成功したり、チャンスが舞い込む事が多く、すっかり信頼して高額セミナーやセッションにも通っていた。一子のアドバイス通りにオフィスの神棚を飾り、パワーストーンも腕に巻きつけた。
不思議な事に絵名のような事業主や経営者は、スピリチュアルにハマっている人も多かった。経営者が副業とてスピリチュアル系のカウンセリング業などをやってるケースもみた。また、カルトにハマっている事業主や経営者も多く、何か秘密か効果があるのか、気になってはいた。
絵名は元々コスパが悪い事が嫌いだ。事業主や経営者だってもっとそうだろう。そう思うと、世間では評判の悪いスピリチュアルやカルトも何んらかのご利益はあるようで、ますますのめり込んでいった。
そう言った見えな力も借りて、順調に成功していくだろうと思い込んでいた。一子に頼っていれば大丈夫。時々理不尽な命令もあったが、何も考えずに従っていた。それぐらい絵名は、一子にハマっていた。
そんな折、秘書の小夜に退職届けを突きつけられた。それを皮切りに、店のスタッフも続々とやめていき、ネットでも絵名の悪い評判が流れていた。想像もしていないような不運が重なり、事業も傾き始めた。店も閉店する事になり、絵名は追い込まれていた。
「一子先生、どうしましょう!」
絵名はドラえもんに頼るのび太のように、一子に泣きついていた。その姿は本当に小学生のようだった。金髪で派手な見た目の絵名だが、弱々しくなっていた。
「大丈夫、絵名。私の言う通りにすれば」
一子は、女神のように微笑み、やっぱりこの人しか頼れないと思った。