第14話 優しい蒸しパン(5)完
文字数 1,366文字
翌日、美紅は、バスケットと魔法瓶を持って福音ベーカリーというパン屋の門をくぐってた。
店はなんと光の家の隣にあった。メルヘンな雰囲気のパン屋で、なぜ今まで気づかなかったのか不思議なほどだった。
店の前のベンチには、看板犬なのか可愛らしい柴犬もいて、思わず和んでいた。
「おぉ、いらっしゃいませ! 美紅ちゃんだね」
店員はなぜか美紅の名前を知っていた。それに胡散臭いほどのイケメンだった。ふわふわの栗毛に、色素の薄い白い肌。琥珀色の目は意外と違和感がなく、美穂子なんかより彼の方こそ天使みたいだった。二十五歳ぐらいの男性だが、どうしても天使の姿がチラチラと見え、思わず凝視してしまった。
この人が天使だとすれば、色々と不思議な事に辻褄があう。もしかしたら光が祈り、神様が願いを聞いて、この天使を実際動かした、とか?
光の入っているキリスト教はよくわからないけれど、そう思うと意外と違和感はない。
「え? 何か? 何か問題?」
しかし、店員はこれ以上追求しないで欲しいといった空気を醸し出していた。美紅は、この空気を読む事にした。
店の大きなテーブルの上には、カレーパン、シナモンロール、塩バターパンなどの人気商品、食パンやあんぱんなどの定番商品も置いてあった。辺な薄焼き煎餅のようなパンや、輪型パン、三つ編み型したパンもあり、普通のパン屋とはちょっと違うようだった。大きめな三つ編み型のパンも見たことが無い。
「光のお友達には、特別。好きなパン持っていっていいよ」
「えー、いいんですか?」
「うん。これで口止め料って事でいい? 特に光には、私の事バレるとしばらく消えて無いといけないんだよなー」
「光はバカ舌ですから、普通のパン屋になんて来ないと思うなぁ」
「それはそれで寂しいよー。お守り役の私としては泣いちゃいそうだよね。天のパパも光のこと大好きなんだけどな」
これは、相当訳ありっぽい。単なる不思議くんである可能性も高いが。空気を読み、店員の言う事を従う事にした。
「じゃあー、カロリー高いけど、あんぱんとかクリームパンもらっていい?」
「オッケー!」
店員は美紅が選んだ甘い系のパンを袋に包み、お持ち帰り用の袋に入れてくれた。袋には赤ちゃん天使と柴犬の絵が印刷されていた。やっぱり、彼が天使という可能性は、捨てきれない。
「美紅ちゃんも、教会来たら?」
「えー、勧誘ですか。嫌です」
いくらイケメンといえども、こういう誘いは、ちょっと嫌だ。
「いやいや、光も日曜日だけは来てるし。実は日本の教会って高齢化がすごくて、若い美紅ちゃんがいるだけでハーレム状態だよ。可愛がってくれると思う。気晴らしにどう?」
「ま、光と一緒なら……」
教会は何となく怖いけれど、ハーレムという言葉には、ちょっと惹かれてしまった。それに蒸しパンの恩もあるし、一度教会に行っても良い気がした。
店員が言った通り、教会はお爺さんやお婆さんだらけで、美紅がいるだけであっという間ハーレム状態になってしまった。
誰も美紅にポッチャリ体型などは言わない。可愛い、可愛いとしか言われない。
美の基準は環境、それに人の価値観によって変わるのかもしれない。時代でも変わるのだろう。
やっぱり、美穂子になろうとしたり、SNSにいる誰かと自分を比べる事は、改めて馬鹿馬鹿しいと思う美紅だった。
店はなんと光の家の隣にあった。メルヘンな雰囲気のパン屋で、なぜ今まで気づかなかったのか不思議なほどだった。
店の前のベンチには、看板犬なのか可愛らしい柴犬もいて、思わず和んでいた。
「おぉ、いらっしゃいませ! 美紅ちゃんだね」
店員はなぜか美紅の名前を知っていた。それに胡散臭いほどのイケメンだった。ふわふわの栗毛に、色素の薄い白い肌。琥珀色の目は意外と違和感がなく、美穂子なんかより彼の方こそ天使みたいだった。二十五歳ぐらいの男性だが、どうしても天使の姿がチラチラと見え、思わず凝視してしまった。
この人が天使だとすれば、色々と不思議な事に辻褄があう。もしかしたら光が祈り、神様が願いを聞いて、この天使を実際動かした、とか?
光の入っているキリスト教はよくわからないけれど、そう思うと意外と違和感はない。
「え? 何か? 何か問題?」
しかし、店員はこれ以上追求しないで欲しいといった空気を醸し出していた。美紅は、この空気を読む事にした。
店の大きなテーブルの上には、カレーパン、シナモンロール、塩バターパンなどの人気商品、食パンやあんぱんなどの定番商品も置いてあった。辺な薄焼き煎餅のようなパンや、輪型パン、三つ編み型したパンもあり、普通のパン屋とはちょっと違うようだった。大きめな三つ編み型のパンも見たことが無い。
「光のお友達には、特別。好きなパン持っていっていいよ」
「えー、いいんですか?」
「うん。これで口止め料って事でいい? 特に光には、私の事バレるとしばらく消えて無いといけないんだよなー」
「光はバカ舌ですから、普通のパン屋になんて来ないと思うなぁ」
「それはそれで寂しいよー。お守り役の私としては泣いちゃいそうだよね。天のパパも光のこと大好きなんだけどな」
これは、相当訳ありっぽい。単なる不思議くんである可能性も高いが。空気を読み、店員の言う事を従う事にした。
「じゃあー、カロリー高いけど、あんぱんとかクリームパンもらっていい?」
「オッケー!」
店員は美紅が選んだ甘い系のパンを袋に包み、お持ち帰り用の袋に入れてくれた。袋には赤ちゃん天使と柴犬の絵が印刷されていた。やっぱり、彼が天使という可能性は、捨てきれない。
「美紅ちゃんも、教会来たら?」
「えー、勧誘ですか。嫌です」
いくらイケメンといえども、こういう誘いは、ちょっと嫌だ。
「いやいや、光も日曜日だけは来てるし。実は日本の教会って高齢化がすごくて、若い美紅ちゃんがいるだけでハーレム状態だよ。可愛がってくれると思う。気晴らしにどう?」
「ま、光と一緒なら……」
教会は何となく怖いけれど、ハーレムという言葉には、ちょっと惹かれてしまった。それに蒸しパンの恩もあるし、一度教会に行っても良い気がした。
店員が言った通り、教会はお爺さんやお婆さんだらけで、美紅がいるだけであっという間ハーレム状態になってしまった。
誰も美紅にポッチャリ体型などは言わない。可愛い、可愛いとしか言われない。
美の基準は環境、それに人の価値観によって変わるのかもしれない。時代でも変わるのだろう。
やっぱり、美穂子になろうとしたり、SNSにいる誰かと自分を比べる事は、改めて馬鹿馬鹿しいと思う美紅だった。