第26話 捨てるところが無いパンの耳(3)
文字数 1,382文字
マリは、福音ベーカリーの前に立っていた。マリの予想通りに可愛い外観のパン屋だった。赤い屋根にクリーム色の壁は、絵本の中で描写しても違和感はない。
それに店の前に柴犬がちょこんと座っていた。マリの姿を見つけると、近づいてきて小さな声で吠えていた。何かのパンの色みたいに綺麗な茶色の柴犬で、ちょっと撫でたくなるのをぐっと堪える。
前、パンの耳を貰った時は、近所のおばちゃんが群がり、騒がしく、犬の存在は全く覚えていない。たしか店主は若い男だった記憶があるが、それもよく覚えていない。薬の副作用でボーとしている事も多く、明らかに記憶力も低下しているようだった。最近食べた食事の内容も思い出せないが、一人で食べて、すごく不味かった事だけは覚えている。
「私もこの店入っていい?」
柴犬に許可など必要ないだろうが、何となく聞いてみた。
「わん……」
小さな声だが、一応吠えていた。歓迎されているかは微妙なところだが、ドアを開けて入店した。
ふわりとパンの焼ける良い香りが届く。店主は厨房の方にいるのか、見当たらない。小さなパン屋だが、一応イートインスペースがあり、そこはちょっとカフェっぽい居心地が良い雰囲気が流れていた。
とりあえずトレイとトングをつかみ、パンを選ぶ事にした。
大きなテーブルの上には、あんぱん、カレーパン、メロンパンなど日本風の定番商品が並んでいたが、 他には珍しいパンもあった。平べったい煎餅のようなパン、三つ編み型のパン、輪型パンなど少し変わっている。特に三つ編み型の変なパンは、一体なんだろう。
それに「パンの耳で作りました! 食品ロスをなくしたい!」というポップとともに、ガーリックトーストや黒糖ラスク、フレンチトーストやバームクーヘンがあった。一見、パンの耳をアレンジした商品には全く見えなかった。マリが作った砂糖まみれのパンの耳をあげたものとは、様子が違う。さすがプロの手によるものだと感心する。
ポップをよく見ると、さらに細かい文字で何か書いてあった。
「神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。(新改訳聖書 ローマ人への手紙8:28)より。捨てるはずだったパンの耳だって神様に益にして貰いたいね! by福音ベーカリー店主」
聖書の言葉を引用しているようだが、これを見ていると、パンの耳で作ったバームクーヘンやフレンチトーストが気になり、トレイの上にのせた。値札がついていないのが気になったが。
ふと、パン屋の壁を見上げると、ラベンダー畑の絵があった。あの夢で見た天国と全く同じものだった。空の色や小鳥、天使のような生き物も描かれている。
偶然の一致に少し怖くなった時、厨房から店主が出てきた。
「マリさんじゃないですか。お待ちしていました。どうぞ、いらっしゃいませ」
なぜか店主はマリの名前を知っていた。
「え、何で私の名前を?」
その質問には答えず、店主はニコニコと笑っていた。
ふわふわの栗毛に、かなり色素の薄い若い男だった。いわゆるイケメンだが、浮ついた雰囲気は全くなく、パン屋らしい職人気質のようなものは透けて見えていたが。
「ねえ、このポップは何?」
マリは、あのパンのポップを指さして、店員に尋ねたが、彼はニコニコと笑っているだけだった
それに店の前に柴犬がちょこんと座っていた。マリの姿を見つけると、近づいてきて小さな声で吠えていた。何かのパンの色みたいに綺麗な茶色の柴犬で、ちょっと撫でたくなるのをぐっと堪える。
前、パンの耳を貰った時は、近所のおばちゃんが群がり、騒がしく、犬の存在は全く覚えていない。たしか店主は若い男だった記憶があるが、それもよく覚えていない。薬の副作用でボーとしている事も多く、明らかに記憶力も低下しているようだった。最近食べた食事の内容も思い出せないが、一人で食べて、すごく不味かった事だけは覚えている。
「私もこの店入っていい?」
柴犬に許可など必要ないだろうが、何となく聞いてみた。
「わん……」
小さな声だが、一応吠えていた。歓迎されているかは微妙なところだが、ドアを開けて入店した。
ふわりとパンの焼ける良い香りが届く。店主は厨房の方にいるのか、見当たらない。小さなパン屋だが、一応イートインスペースがあり、そこはちょっとカフェっぽい居心地が良い雰囲気が流れていた。
とりあえずトレイとトングをつかみ、パンを選ぶ事にした。
大きなテーブルの上には、あんぱん、カレーパン、メロンパンなど日本風の定番商品が並んでいたが、 他には珍しいパンもあった。平べったい煎餅のようなパン、三つ編み型のパン、輪型パンなど少し変わっている。特に三つ編み型の変なパンは、一体なんだろう。
それに「パンの耳で作りました! 食品ロスをなくしたい!」というポップとともに、ガーリックトーストや黒糖ラスク、フレンチトーストやバームクーヘンがあった。一見、パンの耳をアレンジした商品には全く見えなかった。マリが作った砂糖まみれのパンの耳をあげたものとは、様子が違う。さすがプロの手によるものだと感心する。
ポップをよく見ると、さらに細かい文字で何か書いてあった。
「神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。(新改訳聖書 ローマ人への手紙8:28)より。捨てるはずだったパンの耳だって神様に益にして貰いたいね! by福音ベーカリー店主」
聖書の言葉を引用しているようだが、これを見ていると、パンの耳で作ったバームクーヘンやフレンチトーストが気になり、トレイの上にのせた。値札がついていないのが気になったが。
ふと、パン屋の壁を見上げると、ラベンダー畑の絵があった。あの夢で見た天国と全く同じものだった。空の色や小鳥、天使のような生き物も描かれている。
偶然の一致に少し怖くなった時、厨房から店主が出てきた。
「マリさんじゃないですか。お待ちしていました。どうぞ、いらっしゃいませ」
なぜか店主はマリの名前を知っていた。
「え、何で私の名前を?」
その質問には答えず、店主はニコニコと笑っていた。
ふわふわの栗毛に、かなり色素の薄い若い男だった。いわゆるイケメンだが、浮ついた雰囲気は全くなく、パン屋らしい職人気質のようなものは透けて見えていたが。
「ねえ、このポップは何?」
マリは、あのパンのポップを指さして、店員に尋ねたが、彼はニコニコと笑っているだけだった