第136話 狭き門とロッゲンブロート(2)
文字数 1,370文字
ミサキは、メイクアップスタジオを後にすると、自宅の最寄駅に直行した。
自宅は、穂麦市という土地にあった。都心から電車で一時間ぐらいでつく中核市だ。駅のそばは、新しいマンションや商業施設が建てられ、最近はだいぶ栄えていた。確かに意外と交通の便は良く、スーパーもコンビニもチェーン店など何でもある。
一歩住宅街に入ると、駅前の賑やかさは嘘のように静香だった。ミサキの住む家の周りは、老人も多く住んでいて、子供の姿もあまり見かけなかった。
ミサキは駅を出ると、住宅街の近くにあるスーパーに向かう。もう夕方だったので、豆腐やカット野菜なども割引になっているかもしれない。本当はお惣菜コーナーの弁当を買って帰りたい気分だったが、妹の夕飯の準備をしなければならなかった。両親は仕事で忙しくて、中学生の妹・美嘉の食事の世話を任されていた。
スーパーでネギ、豆腐、豚肉などを買う。夕方のスーパーは、混んでいる。みんなマスクをつけ、表情も暗い人も多い。スーツ姿でマスクをつけていると、人間というよりはロボットのように見えてしまった。
ミサキはカゴに買う物を全部入れると、レジに向かう。このスーパーは、ほとんどセルフレジになっていた。有人レジは混んでいるので、仕方なくセルフレジで会計を済ませる。夕方の疲れた中でのセルフレジは、意外と面倒だった。そう言えば、スーパーだけでなく百均やコンビニもセルフレジが増えているように見えた。AIの技術も進んでいるし、人が要らない社会が進んでいるのかもしれない。
そう思うと、どっと憂鬱にもなってきた。急いでスーパーを後にし、住宅街に入って自宅へ向かう。
「あれ? こんな所にパン屋なんてあった?」
夕暮れの住宅街を歩いていると、見た事も無いパン屋があった。毎日歩いている道だったが、こんなパン屋はあっただろうか。パン屋の隣には教会や依田という金もちの家もあった。確か空き地だったはずだが、いつの間にパン屋なんて出来たのだろうか。
首を傾けつつ、パン屋の外観を見てみる。赤い屋根で、クリーム色の壁が印象的な小さなパン屋だった。看板も出てて福音ベーカリーという名前のパン屋らしい。夕方でもう暗くなってきたせいか、パン屋の窓から見えるオレンジ色の灯りが柔らかく感じてしまった。
灯だけではなく、パン屋から漏れるいい香りも柔らかい。春風にに乗ってミサキの鼻に、良い香りが届いていた。
ちょうど、そこから店員が出てきた。もう店じまいでもするのだろうか。店の前にある黒板状に立て看板をしまっていた。
若い男性の店員だった。黒髪で、少し前髪が長めのせいか落ち着いた雰囲気がある。パン屋らしく背が高く体格も良いが、どことなく知的な印象がする男だった。今は何もしていないが、メガネをかけたら似合いそうだった。
「あれ? お客さん?」
ぼーっと店員を見ていたら、話しかけられてしまった。
声も見た目通りで、かなり落ち着きがあった。楽器で例えたらベースのような落ち着いた声だった。
「ごめんね、今日はパンは全部売り切れなんだよ」
「あ、そうですか」
ミサキは、そう言い残すと逃げるように自宅へ向かった。ルックスは地味だが、声は低く優しげだった。別に色気などはないが、声を聞いていたらドキドキとしてきてしまった。
あのパン屋は何?
少し気になってきた。
自宅は、穂麦市という土地にあった。都心から電車で一時間ぐらいでつく中核市だ。駅のそばは、新しいマンションや商業施設が建てられ、最近はだいぶ栄えていた。確かに意外と交通の便は良く、スーパーもコンビニもチェーン店など何でもある。
一歩住宅街に入ると、駅前の賑やかさは嘘のように静香だった。ミサキの住む家の周りは、老人も多く住んでいて、子供の姿もあまり見かけなかった。
ミサキは駅を出ると、住宅街の近くにあるスーパーに向かう。もう夕方だったので、豆腐やカット野菜なども割引になっているかもしれない。本当はお惣菜コーナーの弁当を買って帰りたい気分だったが、妹の夕飯の準備をしなければならなかった。両親は仕事で忙しくて、中学生の妹・美嘉の食事の世話を任されていた。
スーパーでネギ、豆腐、豚肉などを買う。夕方のスーパーは、混んでいる。みんなマスクをつけ、表情も暗い人も多い。スーツ姿でマスクをつけていると、人間というよりはロボットのように見えてしまった。
ミサキはカゴに買う物を全部入れると、レジに向かう。このスーパーは、ほとんどセルフレジになっていた。有人レジは混んでいるので、仕方なくセルフレジで会計を済ませる。夕方の疲れた中でのセルフレジは、意外と面倒だった。そう言えば、スーパーだけでなく百均やコンビニもセルフレジが増えているように見えた。AIの技術も進んでいるし、人が要らない社会が進んでいるのかもしれない。
そう思うと、どっと憂鬱にもなってきた。急いでスーパーを後にし、住宅街に入って自宅へ向かう。
「あれ? こんな所にパン屋なんてあった?」
夕暮れの住宅街を歩いていると、見た事も無いパン屋があった。毎日歩いている道だったが、こんなパン屋はあっただろうか。パン屋の隣には教会や依田という金もちの家もあった。確か空き地だったはずだが、いつの間にパン屋なんて出来たのだろうか。
首を傾けつつ、パン屋の外観を見てみる。赤い屋根で、クリーム色の壁が印象的な小さなパン屋だった。看板も出てて福音ベーカリーという名前のパン屋らしい。夕方でもう暗くなってきたせいか、パン屋の窓から見えるオレンジ色の灯りが柔らかく感じてしまった。
灯だけではなく、パン屋から漏れるいい香りも柔らかい。春風にに乗ってミサキの鼻に、良い香りが届いていた。
ちょうど、そこから店員が出てきた。もう店じまいでもするのだろうか。店の前にある黒板状に立て看板をしまっていた。
若い男性の店員だった。黒髪で、少し前髪が長めのせいか落ち着いた雰囲気がある。パン屋らしく背が高く体格も良いが、どことなく知的な印象がする男だった。今は何もしていないが、メガネをかけたら似合いそうだった。
「あれ? お客さん?」
ぼーっと店員を見ていたら、話しかけられてしまった。
声も見た目通りで、かなり落ち着きがあった。楽器で例えたらベースのような落ち着いた声だった。
「ごめんね、今日はパンは全部売り切れなんだよ」
「あ、そうですか」
ミサキは、そう言い残すと逃げるように自宅へ向かった。ルックスは地味だが、声は低く優しげだった。別に色気などはないが、声を聞いていたらドキドキとしてきてしまった。
あのパン屋は何?
少し気になってきた。