第97話 天使の休日と素敵な夕食(3)
文字数 3,080文字
飽田市の駅周辺は、悪霊の門がガバガバなので、治安も悪いが、少し離れた公園は、自然に囲まれ、雰囲気の良い場所だった。
まず、中央の広場にあるドッグランに向かい、ヒソプを走らせた。緑も芝生の上で、駆け回るヒソプは、水を得た魚のようだった。他の芝犬達と駆け巡り、実に楽しそうだった。紘一は、これだけでも今日は公園に来て良かったと思うほどだった。
一応秋にはずだが、今日は気温が高く、紘一も柊も上着を脱ぎ、ドッグランの近くにあるベンチに座った。二人とも走り回るヒソプを見ながら、目尻が下がりっぱなしだった。
特に柊は、スマートフォンを取り出して、ヒソプの画像や動画を撮っていた。その姿は完全に授業参観中の保護者で、紘一も思わずニコニコと笑っていた。他の犬の飼い主も、似たような感じで、微笑ましい光景だった。
「喉乾いたな。なんか飲みものとか買ってくるよ」
紘一は、ヒソプの画像や動画撮影に熱中している柊に声をかけ、公園にある売店の方に向かった。もう、そろそろお昼の時間であるし、お腹も減ってきた。自動販売機で飲み物を買い、売店の方に向かったが、フードトラックも出店していたので、そこでお昼でも買う事にした。
フードトラックは、サンドイッチ也唐揚げなどの軽食を売っているらしい。青空の下で、そんな軽食を食べるのも、良いだろう。美味しそうな匂いもする。普段は、パンを作って売る立場だが、こいして客として買うのも楽しい。店員の苦労もわかり、お釣りた買ったものを受け取る時「わー、ありがとうございます!」と涙目でお礼を言ってしまった。フードトラックの店員はキョトンとしていたが、紘一は気にせずもう一度お礼を言った。
聖書にも「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい。 Ⅰテサロニケ5:16より」と書いてある。ただ単に目の前にいる人への感謝も大切だが、その奥にある神様への事を考えると、もっと感謝したくなるものだ。そんな事を考えつつ、柊のいるベンチに戻り、さっき買ったサンドイッチや唐揚げを食べる事にした。
「柊、ヒソプの撮影は一旦やめて、少し休憩しよう」
「オッケー!」
二人で、食前の祈りも捧げた。
「愛する天のお父様、イエス様。今日も美味しいご飯、ありがとうございます。今日は休日ですので、柊とヒソプと公園にきまして……」
食前のお祈りは長々と5分近くやってしまったが、紘一も柊も満足して、食べ始めた。ちょいどそこへ、知ったかおが近づいてくるのが見えた。
「ミルル、ルルルじゃん!」
天界にいた時の同僚天使のチルだった。今は、人間の肉体をもち、飽田市のコンビニに潜入していると聞いていたが。
「うわー、懐かしいな!」
チル、いや、人間の肉体の時の橋本瑠偉は、紘一達の隣の座った。瑠偉はパット見大学生ぐらいの若い男にしか見えない。前髪が長い、もやし体型の男だが、天使の時は凄腕のスナイパーで、バサバサと悪霊や悪魔をボコボコにしていた。今は研修中なので、こうして人間の肉体で仕事をしているは、おそらく研修が終わったら、悪霊の門番の仕事を専門的に行うだろう。
瑠偉と柊は、あまり面識はないが、お同じ天使という事で、すぐ打ち解けていた。軽食も一緒のつまみ、買ったものは、あっという間なくなってしまった。
「瑠偉は、仕事どうよ?」
柊が砕けた口調で聞く。一応瑠偉の方が先輩だ。天使でも階級はあるが、ここにいる天使達はさほど地位は高く無いので、上下関係もあやふやだった。
「いや、コンビニの仕事も大変さー。エリート風のサラリーマンの方が態度悪いんだもーん」
瑠偉も砕けた口調で、しばらく仕事の愚痴をこぼしていた。今のところ、クリスチャンで、瑠偉に対して態度の悪かったものはいないそうだが、いき場合は、即天界に情報がいくようになっていた。
「あと、食品ロスがきついね。まだ食べられるもの捨てるのはさ。紘一や柊のところはどう?」
「うちは、ほぼゼロだよ!」
柊は胸をはってドヤ顔をしていた。食品ロスを出すと、神様に叱られるので、売れ残りは近所に配ったり、客にサービスしていた。蒼もパンの耳も工夫し、ラスクやフレンチトーストにしていたので、紘一達も工夫してパンの耳レシピも生み出したりしていた。最近は、クルトンにしてスープやサラダにも入れたり、パン粉にして揚げ物の材料にしたり、日々の料理にも活用していた。
「わー、そこまでしてるのか」
瑠偉は、紘一達の工夫にかなり驚いていたが、また別の愚痴もこぼした。
「飽田市は、悪霊の門がガバガバでさ。昨日もウチに悪霊が取り憑いた占い師が、攻撃してきて参ったよ。それで寝不足さ。人間の祈りも何にも無いから、勝手に動く事もできないしねー」
瑠偉が深いため息をした時だった。そこに一人の老婆が近づいてきた。いや、単なる老婆ではなく、占いの悪霊に乗っ取られていた。本人の人格は悪霊に眠らされ、それが全面に出ている状態だった。確か前にも似たような悪霊つきの老婆から攻撃を受けた事もあり、天使達三人は思わず、視線を鋭くしていた。
『お前達、天使だろう?』
老婆、いや悪霊の皺がれた声が、ガンガンと紘一の耳にも届いいた。
『お前ら、人間よりも低い身分とは情け無いねぇ。私達みたいにルシファーに従っていればねえ』
悪霊は、ここでクスクスと笑い始めた。悪魔や悪霊達は、元々天使だった。それが「自分達が神になる!」と反抗し、今のように地に落ちされ、人間に嫌がらせを繰り返していた。
悪霊が言う通り、天使はさほど身分は高くない。神様と人間のサポートの仕事をしている。基本的には、神様からの命令が無いと動けない仕事ばかりだった。
『そんな、社会の底辺みたいな店員なんかやっていて、楽しい? ね? 私達と一緒に、神に反抗しようじゃないの』
こういう緊急時は、すぐに追い払う事もできたが、柊も瑠偉も、弱いところをつかれて固まっていた。
紘一も、全く悩みが無いわけでも無い。地上で暮らしていると、人間の愚かさを目の当たりにする事もある。本来なら、こんな雑魚の占いの悪霊など、すぐ追い払いたいが、勝手な判断もできない。
「うるさい!イエスの御名で命令するぞ、今すぐ出ていけ!」
しかし、これは緊急時だと思い、すぐに追い払った。
『その名前を出すんじゃないよ!』
悪霊は尻尾を巻いて逃げていったが、瑠偉や柊は、そこそこダメージを受けているようだった。
「まあ、確かに俺たち身分低いですから」
「だよね、瑠偉。好き勝手に悪霊やっつけるとか出来ないから」
二人とも明らかにしゅんとしており、ここは少し紘一も引っ張られないようにしたいと思ってしまった。
「ほら、二人とも! 元気だせ。ヒソプもこっち帰ってきたぞ」
いつの間にかドッグランからヒソプも帰ってきて、柊の手をペロペロ舐めていた。
「うん、そうだね。ヒソプが居るね」
「この子、可愛いわ」
柊と瑠偉は、しばらくヒソプに癒されていた。この様子では、大丈夫そうだが、何か二人に元気づける方法などは無いかと紘一は考えていた。
先輩の蒼も、こういった悪霊の攻撃があったが、あの時は神様からスペシャルなご褒美があった。研修中の身の自分達には、まだそういったものは無い。
「そうだ、明日さ、瑠偉もうちの店こない? 夕食作って奢ってやるよ。柊も明日は、閉店後はゆっくりしていて、いいから」
「本当?」
「本当ですか?」
「うん、肉食おう!」
紘一の提案に、二人とも目がきらっとしてきた。全く現金なものだが、これで二人が元気になれるのなら、安いものだと思った。
まず、中央の広場にあるドッグランに向かい、ヒソプを走らせた。緑も芝生の上で、駆け回るヒソプは、水を得た魚のようだった。他の芝犬達と駆け巡り、実に楽しそうだった。紘一は、これだけでも今日は公園に来て良かったと思うほどだった。
一応秋にはずだが、今日は気温が高く、紘一も柊も上着を脱ぎ、ドッグランの近くにあるベンチに座った。二人とも走り回るヒソプを見ながら、目尻が下がりっぱなしだった。
特に柊は、スマートフォンを取り出して、ヒソプの画像や動画を撮っていた。その姿は完全に授業参観中の保護者で、紘一も思わずニコニコと笑っていた。他の犬の飼い主も、似たような感じで、微笑ましい光景だった。
「喉乾いたな。なんか飲みものとか買ってくるよ」
紘一は、ヒソプの画像や動画撮影に熱中している柊に声をかけ、公園にある売店の方に向かった。もう、そろそろお昼の時間であるし、お腹も減ってきた。自動販売機で飲み物を買い、売店の方に向かったが、フードトラックも出店していたので、そこでお昼でも買う事にした。
フードトラックは、サンドイッチ也唐揚げなどの軽食を売っているらしい。青空の下で、そんな軽食を食べるのも、良いだろう。美味しそうな匂いもする。普段は、パンを作って売る立場だが、こいして客として買うのも楽しい。店員の苦労もわかり、お釣りた買ったものを受け取る時「わー、ありがとうございます!」と涙目でお礼を言ってしまった。フードトラックの店員はキョトンとしていたが、紘一は気にせずもう一度お礼を言った。
聖書にも「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい。 Ⅰテサロニケ5:16より」と書いてある。ただ単に目の前にいる人への感謝も大切だが、その奥にある神様への事を考えると、もっと感謝したくなるものだ。そんな事を考えつつ、柊のいるベンチに戻り、さっき買ったサンドイッチや唐揚げを食べる事にした。
「柊、ヒソプの撮影は一旦やめて、少し休憩しよう」
「オッケー!」
二人で、食前の祈りも捧げた。
「愛する天のお父様、イエス様。今日も美味しいご飯、ありがとうございます。今日は休日ですので、柊とヒソプと公園にきまして……」
食前のお祈りは長々と5分近くやってしまったが、紘一も柊も満足して、食べ始めた。ちょいどそこへ、知ったかおが近づいてくるのが見えた。
「ミルル、ルルルじゃん!」
天界にいた時の同僚天使のチルだった。今は、人間の肉体をもち、飽田市のコンビニに潜入していると聞いていたが。
「うわー、懐かしいな!」
チル、いや、人間の肉体の時の橋本瑠偉は、紘一達の隣の座った。瑠偉はパット見大学生ぐらいの若い男にしか見えない。前髪が長い、もやし体型の男だが、天使の時は凄腕のスナイパーで、バサバサと悪霊や悪魔をボコボコにしていた。今は研修中なので、こうして人間の肉体で仕事をしているは、おそらく研修が終わったら、悪霊の門番の仕事を専門的に行うだろう。
瑠偉と柊は、あまり面識はないが、お同じ天使という事で、すぐ打ち解けていた。軽食も一緒のつまみ、買ったものは、あっという間なくなってしまった。
「瑠偉は、仕事どうよ?」
柊が砕けた口調で聞く。一応瑠偉の方が先輩だ。天使でも階級はあるが、ここにいる天使達はさほど地位は高く無いので、上下関係もあやふやだった。
「いや、コンビニの仕事も大変さー。エリート風のサラリーマンの方が態度悪いんだもーん」
瑠偉も砕けた口調で、しばらく仕事の愚痴をこぼしていた。今のところ、クリスチャンで、瑠偉に対して態度の悪かったものはいないそうだが、いき場合は、即天界に情報がいくようになっていた。
「あと、食品ロスがきついね。まだ食べられるもの捨てるのはさ。紘一や柊のところはどう?」
「うちは、ほぼゼロだよ!」
柊は胸をはってドヤ顔をしていた。食品ロスを出すと、神様に叱られるので、売れ残りは近所に配ったり、客にサービスしていた。蒼もパンの耳も工夫し、ラスクやフレンチトーストにしていたので、紘一達も工夫してパンの耳レシピも生み出したりしていた。最近は、クルトンにしてスープやサラダにも入れたり、パン粉にして揚げ物の材料にしたり、日々の料理にも活用していた。
「わー、そこまでしてるのか」
瑠偉は、紘一達の工夫にかなり驚いていたが、また別の愚痴もこぼした。
「飽田市は、悪霊の門がガバガバでさ。昨日もウチに悪霊が取り憑いた占い師が、攻撃してきて参ったよ。それで寝不足さ。人間の祈りも何にも無いから、勝手に動く事もできないしねー」
瑠偉が深いため息をした時だった。そこに一人の老婆が近づいてきた。いや、単なる老婆ではなく、占いの悪霊に乗っ取られていた。本人の人格は悪霊に眠らされ、それが全面に出ている状態だった。確か前にも似たような悪霊つきの老婆から攻撃を受けた事もあり、天使達三人は思わず、視線を鋭くしていた。
『お前達、天使だろう?』
老婆、いや悪霊の皺がれた声が、ガンガンと紘一の耳にも届いいた。
『お前ら、人間よりも低い身分とは情け無いねぇ。私達みたいにルシファーに従っていればねえ』
悪霊は、ここでクスクスと笑い始めた。悪魔や悪霊達は、元々天使だった。それが「自分達が神になる!」と反抗し、今のように地に落ちされ、人間に嫌がらせを繰り返していた。
悪霊が言う通り、天使はさほど身分は高くない。神様と人間のサポートの仕事をしている。基本的には、神様からの命令が無いと動けない仕事ばかりだった。
『そんな、社会の底辺みたいな店員なんかやっていて、楽しい? ね? 私達と一緒に、神に反抗しようじゃないの』
こういう緊急時は、すぐに追い払う事もできたが、柊も瑠偉も、弱いところをつかれて固まっていた。
紘一も、全く悩みが無いわけでも無い。地上で暮らしていると、人間の愚かさを目の当たりにする事もある。本来なら、こんな雑魚の占いの悪霊など、すぐ追い払いたいが、勝手な判断もできない。
「うるさい!イエスの御名で命令するぞ、今すぐ出ていけ!」
しかし、これは緊急時だと思い、すぐに追い払った。
『その名前を出すんじゃないよ!』
悪霊は尻尾を巻いて逃げていったが、瑠偉や柊は、そこそこダメージを受けているようだった。
「まあ、確かに俺たち身分低いですから」
「だよね、瑠偉。好き勝手に悪霊やっつけるとか出来ないから」
二人とも明らかにしゅんとしており、ここは少し紘一も引っ張られないようにしたいと思ってしまった。
「ほら、二人とも! 元気だせ。ヒソプもこっち帰ってきたぞ」
いつの間にかドッグランからヒソプも帰ってきて、柊の手をペロペロ舐めていた。
「うん、そうだね。ヒソプが居るね」
「この子、可愛いわ」
柊と瑠偉は、しばらくヒソプに癒されていた。この様子では、大丈夫そうだが、何か二人に元気づける方法などは無いかと紘一は考えていた。
先輩の蒼も、こういった悪霊の攻撃があったが、あの時は神様からスペシャルなご褒美があった。研修中の身の自分達には、まだそういったものは無い。
「そうだ、明日さ、瑠偉もうちの店こない? 夕食作って奢ってやるよ。柊も明日は、閉店後はゆっくりしていて、いいから」
「本当?」
「本当ですか?」
「うん、肉食おう!」
紘一の提案に、二人とも目がきらっとしてきた。全く現金なものだが、これで二人が元気になれるのなら、安いものだと思った。