第181話 トルチリオーネと誘惑(4)
文字数 1,409文字
神社でおかしな蛇に会った。とても信じられなかったが、言っている事は甘く、明らかに誘惑は受けていた。
夢か幻だった可能性もあるが、リアルすぎて、神社から逃げた絵名の心臓もドキドキと動いていた。
あの蛇が怖くて、ずっと走って逃げていたので、道に迷ってしまったようだ。気づくと、飽田市から隣の穂麦市にいた。駅から離れた静香な住宅街のようだった。時々、老人とはすれ違うが、若い主婦や子供は少ないようだった。
ずっと走っていたので、息が上がっていた。汗もダラダラと流れていたが、あの蛇からは逃げられ事はホッとしていた。
その瞬間、鼻に良い香りが届いた。ほっとするような甘きて香ばしい香りだった。おそらくパン屋がこの近くにあるのだろう。ずっと走ってきて、お腹も空いていた事も思い出してしかった。良い香りを辿りながら、足を進めると、予想通りパン屋があった。
小さなパン屋だった。
赤い屋根とクリーム色の壁が印象的で、ちょっとイチゴのショートケーキみたいに見えた。
「あ、このパン屋……」
ほのぼのと可愛いパン屋の外観を見ていただけだが、絵名の顔は真っ青になっていた。汗もさっと引いていく。
パン屋は福音ベーカリーだった。このパン屋は知っている。競合店として仕事で調べた。それだけだけなく、一子に命令され、このパン屋を潰せとも言われていた。なぜか潰せと言われたかは謎だったが、いう通りにするしかなかった。元秘書に小夜にもこのパン屋を調べさせたりもしていた。
しかし、小夜から報告されたパン屋の評判は、絵名の罪悪感を刺激した。貧困の近隣住民にパンを配ったり、教会にも寄付すているらしい。店主は近隣住民の悩み事なども聞き、すっかりオアシのような存在になっているようだった。それだけでなく、具合が悪くなった小夜にも優しかったらしい。
その報告を聞いてから、悪い事が続き始めていた。一子もこの件に関しては、黙ったままだった。
何か今の状況とこのパン屋は、関係があるのだろうか。
店の前にある立看板は、黒板式だった。そこには何故か聖書の言葉が引用されていた。確か店主の橋本瑠偉は、クリスチャンだったはずだったが。
「誘惑に遭うとき、誰も「神から誘惑されている」と言ってはなりません。神は、悪の誘惑を受けるような方ではなく、ご自分でも人を誘惑したりなさらないからです。人はそれぞれ、自分の欲望に引かれ、おびき寄せられて、誘惑に陥るのです。新約聖書ヤコブの手紙 1:13~14より」
絵名は、看板の前に立ち、まじまじとこの言葉を読んでみた。
自分の欲望が誘惑の原因?
背中がゾワゾワとしてきた。確かにあの蛇に誘惑されたのは、自分の心の中にあるものが原因に思えてきた。
そういえば、子供の頃からお金と成功への執着心が、何よりも強かった。確かに自分の心の中に何か悪いものの種みたいなものが埋まっている自覚はあった。
「ど、どういう事?」
あの蛇からの誘惑は受けないで良かったのかもしれない。過去に潰そうと企んでいたパン屋だし、聖書も興味ない。宗教自体、胡散臭い印象だったが、この言葉は、すっと心に入り込んできた。耳の痛い事しか言っていないのに、一子やスピリチュアル系の本が発信していた言葉とは、全く違って見えた。
何か、この店にはヒントがあるかも知れない。絵名は、すっと背筋を伸ばし、パン屋の扉を開け、入店した。
チリンチリンと、ドアベルの音が響いていた。
夢か幻だった可能性もあるが、リアルすぎて、神社から逃げた絵名の心臓もドキドキと動いていた。
あの蛇が怖くて、ずっと走って逃げていたので、道に迷ってしまったようだ。気づくと、飽田市から隣の穂麦市にいた。駅から離れた静香な住宅街のようだった。時々、老人とはすれ違うが、若い主婦や子供は少ないようだった。
ずっと走っていたので、息が上がっていた。汗もダラダラと流れていたが、あの蛇からは逃げられ事はホッとしていた。
その瞬間、鼻に良い香りが届いた。ほっとするような甘きて香ばしい香りだった。おそらくパン屋がこの近くにあるのだろう。ずっと走ってきて、お腹も空いていた事も思い出してしかった。良い香りを辿りながら、足を進めると、予想通りパン屋があった。
小さなパン屋だった。
赤い屋根とクリーム色の壁が印象的で、ちょっとイチゴのショートケーキみたいに見えた。
「あ、このパン屋……」
ほのぼのと可愛いパン屋の外観を見ていただけだが、絵名の顔は真っ青になっていた。汗もさっと引いていく。
パン屋は福音ベーカリーだった。このパン屋は知っている。競合店として仕事で調べた。それだけだけなく、一子に命令され、このパン屋を潰せとも言われていた。なぜか潰せと言われたかは謎だったが、いう通りにするしかなかった。元秘書に小夜にもこのパン屋を調べさせたりもしていた。
しかし、小夜から報告されたパン屋の評判は、絵名の罪悪感を刺激した。貧困の近隣住民にパンを配ったり、教会にも寄付すているらしい。店主は近隣住民の悩み事なども聞き、すっかりオアシのような存在になっているようだった。それだけでなく、具合が悪くなった小夜にも優しかったらしい。
その報告を聞いてから、悪い事が続き始めていた。一子もこの件に関しては、黙ったままだった。
何か今の状況とこのパン屋は、関係があるのだろうか。
店の前にある立看板は、黒板式だった。そこには何故か聖書の言葉が引用されていた。確か店主の橋本瑠偉は、クリスチャンだったはずだったが。
「誘惑に遭うとき、誰も「神から誘惑されている」と言ってはなりません。神は、悪の誘惑を受けるような方ではなく、ご自分でも人を誘惑したりなさらないからです。人はそれぞれ、自分の欲望に引かれ、おびき寄せられて、誘惑に陥るのです。新約聖書ヤコブの手紙 1:13~14より」
絵名は、看板の前に立ち、まじまじとこの言葉を読んでみた。
自分の欲望が誘惑の原因?
背中がゾワゾワとしてきた。確かにあの蛇に誘惑されたのは、自分の心の中にあるものが原因に思えてきた。
そういえば、子供の頃からお金と成功への執着心が、何よりも強かった。確かに自分の心の中に何か悪いものの種みたいなものが埋まっている自覚はあった。
「ど、どういう事?」
あの蛇からの誘惑は受けないで良かったのかもしれない。過去に潰そうと企んでいたパン屋だし、聖書も興味ない。宗教自体、胡散臭い印象だったが、この言葉は、すっと心に入り込んできた。耳の痛い事しか言っていないのに、一子やスピリチュアル系の本が発信していた言葉とは、全く違って見えた。
何か、この店にはヒントがあるかも知れない。絵名は、すっと背筋を伸ばし、パン屋の扉を開け、入店した。
チリンチリンと、ドアベルの音が響いていた。