第153話 良心とマリトッツォ(2)
文字数 2,501文字
小夜は、午後から絵名が経営している悪魔のパン屋の二号店に向かった。向こうのスタッフと少し確認事項があった。その後に、福音ベーカリーの偵察に行く予定なので、憂鬱だ。ちなみに絵名は、 一子が主催するスピリチュアルセミナー合宿へ出掛けてしまった。これも仕事だと言い張っていたが、小夜はあまり納得できなかった。
悪魔のパン屋は、飽田市という土地の駅前にある。正直、あまり治安の良いところではないが、意外と客足もあり、高級食パンブームに上手く乗れているようだった。
店構えは、悪魔のパン屋という店名の割には、白く統一され、高級感もある。「罪深く背徳な高級食パンを召し上がれ」という派手のぼりが、パタパタと春の風に揺れていた。小夜は店長と確認事項を済ませる。やはり忙しいようで、絵名がスピリチュアルセミナー合宿に参加中というと、あからさまに文句を言っていた。正直、ブラックに近い賃金なので、スタッフからは文句がよく寄せられていた。絵名はそういった苦情は、「波動が低い」と聞く事はなので、いつも小夜が板挟みになっていた。
そそくさと悪魔のパン屋を後にすると、小夜は電車に乗り、穂麦市の方へ向かった。この穂麦市の住宅街に、福音ベーカリーがあるようだった。
駅から出ると、春の生ぬるい風が小夜の頬や髪の毛を揺らす。今日は特に暑く、汗ばんできた。カバンからハンカチを取り出し、汗を拭う。喉も渇き、駅の側にあるコンビニの入る。この辺りは、新しくマンションや商業施設が建てられ、人通りも多くて騒がしい。午前中から細かい仕事の追われ、昼ご飯も食べられなかったので、疲れが出ているのかもしれない。やたらと身体が疲れてきて、コンビニではペットボトルの水だけでなく、栄養ドリンクの瓶も購入した。
コンビニを出て、すぐに栄養ドリンクの飲む。コンビニの前では、スーツ姿のおじさん達が、完コーヒーを飲んでいた。どの顔も疲れていて、小夜は居心地が悪くなってきた。また、ハンカチで頬を拭うが、汗でメイクは崩れているようだった。いつもだったら、トイレでメイクを直すが、今は一刻も早く仕事を終わらせてたかった。
スマートフォンで地図を見ながら、福音ベーカリーのある住宅街に入る。駅前は、騒がしい場所だが、住宅街は静かで落ち着いた土地のようだった。新しい家もポツポツあるが、老人が住んでいそうな古い家も多い。いかにも貧困そうな木造家屋みあり、カルト教団のある政党のポスターが貼ってある。こう言った末端信者は搾取しかされてうないのに、政治家や経営者は同じカルト信者でも成功していたりする。こう言った格差を見ていると、小夜の眉間には、皺が寄っていた。再び汗ばんできて、ペットボトルの水を口に含むが、疲れは消えなかった。
「すみません。福音ベーカリーってパン屋は、どこにあるかご存知ですか?」
道を行く麻のワンピースを着たナチュラル系の女性に声をかけた。たぶん意識が高そうな自然派ママだ。大きな帽子も被り、紫外線対策も意識高そうにしていた。
「ああ、あのパン屋さんね!」
クールそうに見えた自然派ママだったが、福音ベーカリーの名前を出すと、パッと花が咲いたように微笑んだ。
「あそこは、かなり良い素材を使っているわ。店長さんの瑠偉くんに聞いても、材料のことはトップシークレットで教えてくれないのよね」
「トップシークレット?」
「ええ。何か秘密があるわ。あそこの小麦粉は、いっぱい食べても胃もたれしないのよ。グルテンフリーやってたけど、あそこのパンだけは特別ね!」
自然派ママは、パンの味でも思い出しているのか、蕩けたような笑顔を見せていた。これだけ意識が高そうな女性に受けるパン屋って一体何?
自然派ママと別れた後は、メモを取り、他の住民にも声をかけた。スーツ姿の就活生っぽい若い女性だったが、福音ベーカリーの話をすると、ニコニコ顔で、ロッゲンブロートというライ麦パンがおすすめだと教えてくれた。他にも老人や子供にもあたってみたが、福音ベーカリーという名前を出すと、みんなニコニコ顔d嬉しそうな反応をしてきた。
「でも、あそこの店員さんって謎が多いよね」
「ねー、イケメンだけど」
中学生の二人組に聞くと、そんな事を言っていた。この中学生は近所にあるお嬢様学校の学生のようだった。制服を着ているので、一目でそうだとわかる。一人は芋っぽい優等生タイプだったが、もう一人は派手目なモデルタイプだった。この正反対の見た目の二人が仲が良いのが意外だが、福音ベーカリーのパンを一緒に食べているうちに仲良くなったらしい。
「イケメン?」
「ええ。今いる瑠偉さんは、寡黙で知的なイケメンって感じね」
女子中学生に派手の方が言う。
「へー、イケメンね」
「お姉さんもおススメです。パンも美味しいですいから!」
芋臭い方がそう言い残し、二人とも小夜の前から去っていく。
ここまで聞いた限りでは、悪い評判は一切無い。むしろ近隣住民から愛されまくっているのようだった。イケメンとは言われているが、性的な対象というよりは、動物のキャラクターでも語るような感じだった。店には、ヒソプとうう看板犬もいて、その子もかなりの人気だった。
店主は、コロコロ変わっているのは謎だが、それ以外は弱点もなさそうだった。アンチやクレーマーもいるかとも思ったが、そんな様子もなさそうだった。
絵名になんて報告しようか。このパン屋を潰すのは、良いアイデアなのか分からない。一子も何でこんなパン屋をターゲットにしたのか、理解できなくなってきた。単なる私怨なのか、スピリチュアル的な何かなのかは分からないが、春の案外強い日差しに、もっと気分が悪くなってきた。
どきかで一休みしたいが、目の前には空き地があるだけだった。確か絵名はこの空き地に目をつけていて、ここに出店しても良いとか言っていたが。ここに悪魔のパン屋なんて作ったら、福音ベーカリーは、打撃を受けるだろう。
そんな事を思うと、今、自分がしている事ぬ良心をチクチク刺激されていた。
それでも、仕事を辞めるわけのもいかない。客のフリして、福音ベーカリーに行く事にした。
悪魔のパン屋は、飽田市という土地の駅前にある。正直、あまり治安の良いところではないが、意外と客足もあり、高級食パンブームに上手く乗れているようだった。
店構えは、悪魔のパン屋という店名の割には、白く統一され、高級感もある。「罪深く背徳な高級食パンを召し上がれ」という派手のぼりが、パタパタと春の風に揺れていた。小夜は店長と確認事項を済ませる。やはり忙しいようで、絵名がスピリチュアルセミナー合宿に参加中というと、あからさまに文句を言っていた。正直、ブラックに近い賃金なので、スタッフからは文句がよく寄せられていた。絵名はそういった苦情は、「波動が低い」と聞く事はなので、いつも小夜が板挟みになっていた。
そそくさと悪魔のパン屋を後にすると、小夜は電車に乗り、穂麦市の方へ向かった。この穂麦市の住宅街に、福音ベーカリーがあるようだった。
駅から出ると、春の生ぬるい風が小夜の頬や髪の毛を揺らす。今日は特に暑く、汗ばんできた。カバンからハンカチを取り出し、汗を拭う。喉も渇き、駅の側にあるコンビニの入る。この辺りは、新しくマンションや商業施設が建てられ、人通りも多くて騒がしい。午前中から細かい仕事の追われ、昼ご飯も食べられなかったので、疲れが出ているのかもしれない。やたらと身体が疲れてきて、コンビニではペットボトルの水だけでなく、栄養ドリンクの瓶も購入した。
コンビニを出て、すぐに栄養ドリンクの飲む。コンビニの前では、スーツ姿のおじさん達が、完コーヒーを飲んでいた。どの顔も疲れていて、小夜は居心地が悪くなってきた。また、ハンカチで頬を拭うが、汗でメイクは崩れているようだった。いつもだったら、トイレでメイクを直すが、今は一刻も早く仕事を終わらせてたかった。
スマートフォンで地図を見ながら、福音ベーカリーのある住宅街に入る。駅前は、騒がしい場所だが、住宅街は静かで落ち着いた土地のようだった。新しい家もポツポツあるが、老人が住んでいそうな古い家も多い。いかにも貧困そうな木造家屋みあり、カルト教団のある政党のポスターが貼ってある。こう言った末端信者は搾取しかされてうないのに、政治家や経営者は同じカルト信者でも成功していたりする。こう言った格差を見ていると、小夜の眉間には、皺が寄っていた。再び汗ばんできて、ペットボトルの水を口に含むが、疲れは消えなかった。
「すみません。福音ベーカリーってパン屋は、どこにあるかご存知ですか?」
道を行く麻のワンピースを着たナチュラル系の女性に声をかけた。たぶん意識が高そうな自然派ママだ。大きな帽子も被り、紫外線対策も意識高そうにしていた。
「ああ、あのパン屋さんね!」
クールそうに見えた自然派ママだったが、福音ベーカリーの名前を出すと、パッと花が咲いたように微笑んだ。
「あそこは、かなり良い素材を使っているわ。店長さんの瑠偉くんに聞いても、材料のことはトップシークレットで教えてくれないのよね」
「トップシークレット?」
「ええ。何か秘密があるわ。あそこの小麦粉は、いっぱい食べても胃もたれしないのよ。グルテンフリーやってたけど、あそこのパンだけは特別ね!」
自然派ママは、パンの味でも思い出しているのか、蕩けたような笑顔を見せていた。これだけ意識が高そうな女性に受けるパン屋って一体何?
自然派ママと別れた後は、メモを取り、他の住民にも声をかけた。スーツ姿の就活生っぽい若い女性だったが、福音ベーカリーの話をすると、ニコニコ顔で、ロッゲンブロートというライ麦パンがおすすめだと教えてくれた。他にも老人や子供にもあたってみたが、福音ベーカリーという名前を出すと、みんなニコニコ顔d嬉しそうな反応をしてきた。
「でも、あそこの店員さんって謎が多いよね」
「ねー、イケメンだけど」
中学生の二人組に聞くと、そんな事を言っていた。この中学生は近所にあるお嬢様学校の学生のようだった。制服を着ているので、一目でそうだとわかる。一人は芋っぽい優等生タイプだったが、もう一人は派手目なモデルタイプだった。この正反対の見た目の二人が仲が良いのが意外だが、福音ベーカリーのパンを一緒に食べているうちに仲良くなったらしい。
「イケメン?」
「ええ。今いる瑠偉さんは、寡黙で知的なイケメンって感じね」
女子中学生に派手の方が言う。
「へー、イケメンね」
「お姉さんもおススメです。パンも美味しいですいから!」
芋臭い方がそう言い残し、二人とも小夜の前から去っていく。
ここまで聞いた限りでは、悪い評判は一切無い。むしろ近隣住民から愛されまくっているのようだった。イケメンとは言われているが、性的な対象というよりは、動物のキャラクターでも語るような感じだった。店には、ヒソプとうう看板犬もいて、その子もかなりの人気だった。
店主は、コロコロ変わっているのは謎だが、それ以外は弱点もなさそうだった。アンチやクレーマーもいるかとも思ったが、そんな様子もなさそうだった。
絵名になんて報告しようか。このパン屋を潰すのは、良いアイデアなのか分からない。一子も何でこんなパン屋をターゲットにしたのか、理解できなくなってきた。単なる私怨なのか、スピリチュアル的な何かなのかは分からないが、春の案外強い日差しに、もっと気分が悪くなってきた。
どきかで一休みしたいが、目の前には空き地があるだけだった。確か絵名はこの空き地に目をつけていて、ここに出店しても良いとか言っていたが。ここに悪魔のパン屋なんて作ったら、福音ベーカリーは、打撃を受けるだろう。
そんな事を思うと、今、自分がしている事ぬ良心をチクチク刺激されていた。
それでも、仕事を辞めるわけのもいかない。客のフリして、福音ベーカリーに行く事にした。