第147話 焼き餅と土に埋めたタラント(1)
文字数 2,127文字
我妻梨華は、学校から帰ってくると、すぐに自室に閉じこもった。
今日の十八時から重要な発表があった。梨華が応募しているイラストレーター新人発掘コンテストの受賞者の発表があった。大手出版社が毎年主催すているコンテストで、ライトノベルのイラストレーターを目指しているものの登竜門とも言われていた。
梨華も子供の頃から絵を描くのが好きで、このコンテストに応募していた。妖精と少女の絵で、繊細な趣きがある絵を応募した。梨華はネットでもイラストを描いていて、SNSのフォロワーからいいね!を貰う事もある。その界隈では、ちょっと名が知れている事もある。中学生の頃からネットで絵を描いていて、今回のコンテストも自信がある。
梨華の部屋には、絵を描くためのPCやタブレットももちろん、本棚にはポーズ集などの資料も大量に詰め込まれていた。卓上サイズの人体模型などもあり、一目で普通の女子高生の部屋では無い事がわかる。
学校は、聖マリアアザミ学園というキリスト教系の女子高にか通っていた。父は仏教徒だが、母がクリスチャンで、梨華も幼い頃に洗礼を受けた。もっとも、日曜日は父の用事を優先する事も多く、絵も描くので忙しいので、最近はほとんど教会にも行けていない状態だった。サンデークリスチャンよりも酷い状況だが、日本ではクリスチャン自体が少ないので、梨華のような子も少なくは無い。最近はネットだけで集ったりするオンライン教会などもあるようだが、カルトも多く、日本では宗教の闇は深い。
一応クリスチャンだったが、そういう背景もあり、梨華は普通の女子高生だった。目が切れ長で、大人っぽいアジアンビューティーと言われる事も多いが、それ以外は全く普通の女子高生だった。部活は漫画研究会に所属し、今年の春から部長をやっていた。梨華は聖マリアアザミ学園の附属の大学に行く予定なので、受験は無いようなものだった。できればイラストレーターちして食っていきたい夢もあり、今回のコンテストはちょっとした賭けのような所もあった。
梨華の付けている腕時計は、もうすぐ十八時になる。コンテストの公式ホームページにいくと、ちょうど時間になり、受賞者が発表されていた。
「え……」
言葉が出なかった。自分が受賞していない事は、どこかで想定範囲だったが、予想外の人物が大賞を受賞していた。
同じ学校の漫画研究会の木崎希衣が大賞を受賞していた。希衣のペンネームは知っている。同じ部活という事もあり、先輩後輩の仲だったが、SNSのアカウントを教え合い、お互いにフォローしていた。
正直、希衣は技術不足なところがあった。デッサンも時々狂っているし、手の描き方も下手だった。それ以上の魅力があるといえば、梨華はイエスとは言えない。確かにフワフワとした少女漫画風の雰囲気は、女性に受けそうだとは思うが。
モヤモヤしてきた。
「何で、希衣が……」
思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
梨華はこのコンテストではないが、他の主催の小さな規模のコンテストの受賞した事もあった。その時は、選評委員に「確かな技術に裏助けられた傑作」とも評価された。小さなコンテストで仕事に結びつく事はなかったが、自分は技術があるんだという自負もある。
一方、希衣は技術はまだまだだが、勢いや雰囲気、将来性を評価されていた。
「そんな評価の仕方ってアリなの?」
梨華は悔しくて、涙が出そうだった。下唇を噛み、悔しさも隠せない。なぜ自分が落ちたのかはわからない。希衣が大賞なのかもわからない。
結果は、真っ直ぐに受け止めるべきだった。それでも心の中にはモヤモヤが溜まる。SNSも開く気になれない。おめでとうとコメントを書きたくない。別に希衣をわざと無視しているわけでは無いが、納得いかずにモヤモヤする。
希衣には、案外アンチもいるようで、さっそくSNSには叩きコメントも上がっていた。そんなコメントを見ていたら、溜飲が下がる。
ついつい、希衣への叩きコメントに「いいね!」を押してしまった。別に悪口も言っていないし、罪悪感も無い。むしろ、このぐらい言われて「ザマァ!」という気分だった。こうして、寝る前には、ずっと希衣への叩きコメントを探して「いいね!」を押し続けていた。
自分は悪くない。希衣が悪い。
そう自分に言い聞かせ、心の中に浮かぶ罪悪感を無視していた。技術が足りない希衣が大賞受賞なんて納得がいかない。
こうして、SNSに張り付いている梨華は、だんだんとヤル気も失ってきた。
気づくと、絵を描く時間も減ってきていた。それでも心がモヤモヤとし、希衣への叩きコメントを探してしまう。
嫉妬。
一言で言えば、このモヤモヤした気持ちは、そうだった。
嫉妬している事認めるのも悔しく、自分で悪口すら言えない臆病者である事も認めたくない。そんな梨華にとっては、叩きコメントに「いいね!」を押すだけの作業は、ピッタリだった。この魔力に逆らえず、気づくと毎日描いていた絵も、三日に一回になり、週一になり、月一ペースのようになっていた。
描こうと思っても、なぜか手が固まってしまう。自分が「いいね!」していたコメントの数々が頭に駆け巡り、手が動かなくなってしまった。
今日の十八時から重要な発表があった。梨華が応募しているイラストレーター新人発掘コンテストの受賞者の発表があった。大手出版社が毎年主催すているコンテストで、ライトノベルのイラストレーターを目指しているものの登竜門とも言われていた。
梨華も子供の頃から絵を描くのが好きで、このコンテストに応募していた。妖精と少女の絵で、繊細な趣きがある絵を応募した。梨華はネットでもイラストを描いていて、SNSのフォロワーからいいね!を貰う事もある。その界隈では、ちょっと名が知れている事もある。中学生の頃からネットで絵を描いていて、今回のコンテストも自信がある。
梨華の部屋には、絵を描くためのPCやタブレットももちろん、本棚にはポーズ集などの資料も大量に詰め込まれていた。卓上サイズの人体模型などもあり、一目で普通の女子高生の部屋では無い事がわかる。
学校は、聖マリアアザミ学園というキリスト教系の女子高にか通っていた。父は仏教徒だが、母がクリスチャンで、梨華も幼い頃に洗礼を受けた。もっとも、日曜日は父の用事を優先する事も多く、絵も描くので忙しいので、最近はほとんど教会にも行けていない状態だった。サンデークリスチャンよりも酷い状況だが、日本ではクリスチャン自体が少ないので、梨華のような子も少なくは無い。最近はネットだけで集ったりするオンライン教会などもあるようだが、カルトも多く、日本では宗教の闇は深い。
一応クリスチャンだったが、そういう背景もあり、梨華は普通の女子高生だった。目が切れ長で、大人っぽいアジアンビューティーと言われる事も多いが、それ以外は全く普通の女子高生だった。部活は漫画研究会に所属し、今年の春から部長をやっていた。梨華は聖マリアアザミ学園の附属の大学に行く予定なので、受験は無いようなものだった。できればイラストレーターちして食っていきたい夢もあり、今回のコンテストはちょっとした賭けのような所もあった。
梨華の付けている腕時計は、もうすぐ十八時になる。コンテストの公式ホームページにいくと、ちょうど時間になり、受賞者が発表されていた。
「え……」
言葉が出なかった。自分が受賞していない事は、どこかで想定範囲だったが、予想外の人物が大賞を受賞していた。
同じ学校の漫画研究会の木崎希衣が大賞を受賞していた。希衣のペンネームは知っている。同じ部活という事もあり、先輩後輩の仲だったが、SNSのアカウントを教え合い、お互いにフォローしていた。
正直、希衣は技術不足なところがあった。デッサンも時々狂っているし、手の描き方も下手だった。それ以上の魅力があるといえば、梨華はイエスとは言えない。確かにフワフワとした少女漫画風の雰囲気は、女性に受けそうだとは思うが。
モヤモヤしてきた。
「何で、希衣が……」
思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
梨華はこのコンテストではないが、他の主催の小さな規模のコンテストの受賞した事もあった。その時は、選評委員に「確かな技術に裏助けられた傑作」とも評価された。小さなコンテストで仕事に結びつく事はなかったが、自分は技術があるんだという自負もある。
一方、希衣は技術はまだまだだが、勢いや雰囲気、将来性を評価されていた。
「そんな評価の仕方ってアリなの?」
梨華は悔しくて、涙が出そうだった。下唇を噛み、悔しさも隠せない。なぜ自分が落ちたのかはわからない。希衣が大賞なのかもわからない。
結果は、真っ直ぐに受け止めるべきだった。それでも心の中にはモヤモヤが溜まる。SNSも開く気になれない。おめでとうとコメントを書きたくない。別に希衣をわざと無視しているわけでは無いが、納得いかずにモヤモヤする。
希衣には、案外アンチもいるようで、さっそくSNSには叩きコメントも上がっていた。そんなコメントを見ていたら、溜飲が下がる。
ついつい、希衣への叩きコメントに「いいね!」を押してしまった。別に悪口も言っていないし、罪悪感も無い。むしろ、このぐらい言われて「ザマァ!」という気分だった。こうして、寝る前には、ずっと希衣への叩きコメントを探して「いいね!」を押し続けていた。
自分は悪くない。希衣が悪い。
そう自分に言い聞かせ、心の中に浮かぶ罪悪感を無視していた。技術が足りない希衣が大賞受賞なんて納得がいかない。
こうして、SNSに張り付いている梨華は、だんだんとヤル気も失ってきた。
気づくと、絵を描く時間も減ってきていた。それでも心がモヤモヤとし、希衣への叩きコメントを探してしまう。
嫉妬。
一言で言えば、このモヤモヤした気持ちは、そうだった。
嫉妬している事認めるのも悔しく、自分で悪口すら言えない臆病者である事も認めたくない。そんな梨華にとっては、叩きコメントに「いいね!」を押すだけの作業は、ピッタリだった。この魔力に逆らえず、気づくと毎日描いていた絵も、三日に一回になり、週一になり、月一ペースのようになっていた。
描こうと思っても、なぜか手が固まってしまう。自分が「いいね!」していたコメントの数々が頭に駆け巡り、手が動かなくなってしまった。