第94話 閉店後
文字数 2,220文字
今日の閉店後は、再び試験があった。僕は一人で、クロワッサンとあんぱんを焼き、紘一と蒼に味や食感を見て貰った。
これを作るのには、毎日仕事の後に練習していた。お陰で失敗作のパンもいっぱい生まれてしまったが、お客さんである莉央や美嘉にあげると喜んでくれた。二人とも体重を気にしていたが、「食べるとホッコリ癒される天使のパン」というと、キョトンとしていた。
言葉には力があるから、いくらカロリーが高いからと言って「悪魔のパン」なんて言ったらいけないよ。霊の世界では、現実で言った言葉がその通りになる。明るく幸せな言葉、祈りの言葉は神様が聞き、願いを叶える。逆に呪う言葉は、悪霊が掠め取る。言葉に力があるから、「自分はダメだ」とか「アイツは地獄に落ちる」「苦しい、悲しい」なんて言ったらいけない。吠えたける獅子のような悪魔や悪霊が狙っている事は、聖書に書いてある通りで、その呪いの言葉を奪い、現実にしてしまったりする。
学校の先生や親などの権威がある人の言葉も強く、言葉には気をつけた方がいい。古代の権力者が歌を詠み、地域の平安を願っていた事は、まさに聖書通りで理に叶っている。医者も権威があり、彼らにつけられた病名も呪いの力を持つ理由もわかるよね? SNSやブログなどで病気である事をやたらと強調するのも、治りが遅くなるのでやめた方がいい。人に頼るより神様に頼った方がよっぽど良いし、闘病記を見たり同じ病気の人に会うよりもギャグ漫画でも読んだ方がよっぽど良いし、一番は聖書だ。
また、いくら「億万長者になりたい」と言っても、叶う事はない。もし、貧しい人や教会、神様の御用ための金持ちになりたいのなら、神様が祈りを聞いてくれるが、自分と自分の家族だけが良い暮らしをしたいだけの願望は、決して叶わない。スピリチュアルで、言葉に力があると言っているのも本当だが、結局願いを現実にするのは神様なので、神様の御心に反する事は決して叶わないのだ。
スピリチュアルパワーを使って、願いを叶える方法もあるが、それは結局裏に悪魔や悪霊がいるので、叶った後に大変な事になったりする。宝くじ高額当選者の末路が不幸が多いのも、そういう事情も多いかもしれない。そもそも神様の御心としても簡単に手に入れたものは、簡単に消える傾向にある。イエス様の十字架も、簡単な道のりではなかった。聖書は、ハッピーなだけの書物ではなく、忍耐についても書かれている。だから、僕のパンの技術が上手く上昇しなくても、焦る気持ちはなかった。毎日コツコツと目の前の事を続けようと思っていた。
「紘一、蒼! パンできたよ、味見してみて」
僕は出来上がったパンを、店のイートインスペースにいる二人に持っていった。蒼は天使の仕事で忙しいが、今日もわざわざ人間の姿になって来てくれた。
僕は紘一と蒼がパンを咀嚼している姿を、ドキドキしながら見守る。イートインには、ライトノベル作家の佐々木マロン先生の色紙、お客様だった船瀬茉莉花さんが書いてくれた色紙もある。船瀬茉莉花さんは、かなり達筆で、聖書の御言葉を色紙に描いてくれた。今、飾ってある色紙は、第一コリント十五章あたりの御言葉が書かれ、それを見ながら、ドキドキした気持ちを落ちつかせる。
「うん、良いんじゃない? この出来だったら、お店に出せるよ」
「本当?」
蒼に太鼓判を押して貰い、僕の声は弾んでいた。
「いいね。よく頑張ったよ、柊」
紘一にも褒められ、思わずガッツポーズをとってしまった。ようやく試験に通った喜びに、心はフワフワと浮き立っていた。
「そういえば隣の飽田市に、チルっていう天使が潜入してるらしい。人間の姿で、コンビニ店員やってるらしいよ」
試験に受かり、ニコニコ笑っていると、蒼が同僚天使について教えてくれた。チルは僕と同じくまだ研修中の天使だった。地上でも天界でも色々と仕事を経験させられている過程らしい。
「チルかー、懐かしい。讃美隊長で一緒のやつだった」
紘一はチルに会いたがっているようだった。僕はあまりよく知らない天使だが。
「だったら、今度の休み、チルに会いに行く?」
僕が提案すると、紘一は賛成した。ワーカーホリック気味の蒼は、少し引いたような表情をしていたが。
「まあ、飽田市もちょっとクリスチャンが増えたようだしね。少し悪霊の門もガードできてるそうで、安心してる」
蒼はそう言い残し、天使の仕事に戻っていってしまった。今は依田光というクリスチャンの担当で、彼女はよく祈っているから忙しいらしい。
「人間の担当になるのは、大変そうだね」
僕は蒼が食べ残していったパンを片付けながら、紘一にいう。
「そうだな。ま、正直天界で賛美隊にいるのが一番楽しいけどな」
「うん、でも、地上にいるのも案外面白いね。人間のこともわかったりするし」
そんな事を言いつつ、イートインスペースから見える窓の外を見てみた。もう夜で、蒸しパンみたいな月が出ていた。まんまるの満月で、意外と明るい。飼い犬のヒソプは、もう二階に行って休んでいた。最近はあんまり遊んであげられなかったから、公園にでも連れて行こうかな。
「そろそろクリスマスだ。柊、もうすぐツリーも出すか」
「うん。神様の本当の誕生日は、●●月●●日だけど、こんなに人間がうちらに心を開いてくれつ日は珍しいよね!」
クリスマスに売る予定のパンや、店の飾り付けなどを思い巡らせると、心はキラキラとときめいてきた。
これを作るのには、毎日仕事の後に練習していた。お陰で失敗作のパンもいっぱい生まれてしまったが、お客さんである莉央や美嘉にあげると喜んでくれた。二人とも体重を気にしていたが、「食べるとホッコリ癒される天使のパン」というと、キョトンとしていた。
言葉には力があるから、いくらカロリーが高いからと言って「悪魔のパン」なんて言ったらいけないよ。霊の世界では、現実で言った言葉がその通りになる。明るく幸せな言葉、祈りの言葉は神様が聞き、願いを叶える。逆に呪う言葉は、悪霊が掠め取る。言葉に力があるから、「自分はダメだ」とか「アイツは地獄に落ちる」「苦しい、悲しい」なんて言ったらいけない。吠えたける獅子のような悪魔や悪霊が狙っている事は、聖書に書いてある通りで、その呪いの言葉を奪い、現実にしてしまったりする。
学校の先生や親などの権威がある人の言葉も強く、言葉には気をつけた方がいい。古代の権力者が歌を詠み、地域の平安を願っていた事は、まさに聖書通りで理に叶っている。医者も権威があり、彼らにつけられた病名も呪いの力を持つ理由もわかるよね? SNSやブログなどで病気である事をやたらと強調するのも、治りが遅くなるのでやめた方がいい。人に頼るより神様に頼った方がよっぽど良いし、闘病記を見たり同じ病気の人に会うよりもギャグ漫画でも読んだ方がよっぽど良いし、一番は聖書だ。
また、いくら「億万長者になりたい」と言っても、叶う事はない。もし、貧しい人や教会、神様の御用ための金持ちになりたいのなら、神様が祈りを聞いてくれるが、自分と自分の家族だけが良い暮らしをしたいだけの願望は、決して叶わない。スピリチュアルで、言葉に力があると言っているのも本当だが、結局願いを現実にするのは神様なので、神様の御心に反する事は決して叶わないのだ。
スピリチュアルパワーを使って、願いを叶える方法もあるが、それは結局裏に悪魔や悪霊がいるので、叶った後に大変な事になったりする。宝くじ高額当選者の末路が不幸が多いのも、そういう事情も多いかもしれない。そもそも神様の御心としても簡単に手に入れたものは、簡単に消える傾向にある。イエス様の十字架も、簡単な道のりではなかった。聖書は、ハッピーなだけの書物ではなく、忍耐についても書かれている。だから、僕のパンの技術が上手く上昇しなくても、焦る気持ちはなかった。毎日コツコツと目の前の事を続けようと思っていた。
「紘一、蒼! パンできたよ、味見してみて」
僕は出来上がったパンを、店のイートインスペースにいる二人に持っていった。蒼は天使の仕事で忙しいが、今日もわざわざ人間の姿になって来てくれた。
僕は紘一と蒼がパンを咀嚼している姿を、ドキドキしながら見守る。イートインには、ライトノベル作家の佐々木マロン先生の色紙、お客様だった船瀬茉莉花さんが書いてくれた色紙もある。船瀬茉莉花さんは、かなり達筆で、聖書の御言葉を色紙に描いてくれた。今、飾ってある色紙は、第一コリント十五章あたりの御言葉が書かれ、それを見ながら、ドキドキした気持ちを落ちつかせる。
「うん、良いんじゃない? この出来だったら、お店に出せるよ」
「本当?」
蒼に太鼓判を押して貰い、僕の声は弾んでいた。
「いいね。よく頑張ったよ、柊」
紘一にも褒められ、思わずガッツポーズをとってしまった。ようやく試験に通った喜びに、心はフワフワと浮き立っていた。
「そういえば隣の飽田市に、チルっていう天使が潜入してるらしい。人間の姿で、コンビニ店員やってるらしいよ」
試験に受かり、ニコニコ笑っていると、蒼が同僚天使について教えてくれた。チルは僕と同じくまだ研修中の天使だった。地上でも天界でも色々と仕事を経験させられている過程らしい。
「チルかー、懐かしい。讃美隊長で一緒のやつだった」
紘一はチルに会いたがっているようだった。僕はあまりよく知らない天使だが。
「だったら、今度の休み、チルに会いに行く?」
僕が提案すると、紘一は賛成した。ワーカーホリック気味の蒼は、少し引いたような表情をしていたが。
「まあ、飽田市もちょっとクリスチャンが増えたようだしね。少し悪霊の門もガードできてるそうで、安心してる」
蒼はそう言い残し、天使の仕事に戻っていってしまった。今は依田光というクリスチャンの担当で、彼女はよく祈っているから忙しいらしい。
「人間の担当になるのは、大変そうだね」
僕は蒼が食べ残していったパンを片付けながら、紘一にいう。
「そうだな。ま、正直天界で賛美隊にいるのが一番楽しいけどな」
「うん、でも、地上にいるのも案外面白いね。人間のこともわかったりするし」
そんな事を言いつつ、イートインスペースから見える窓の外を見てみた。もう夜で、蒸しパンみたいな月が出ていた。まんまるの満月で、意外と明るい。飼い犬のヒソプは、もう二階に行って休んでいた。最近はあんまり遊んであげられなかったから、公園にでも連れて行こうかな。
「そろそろクリスマスだ。柊、もうすぐツリーも出すか」
「うん。神様の本当の誕生日は、●●月●●日だけど、こんなに人間がうちらに心を開いてくれつ日は珍しいよね!」
クリスマスに売る予定のパンや、店の飾り付けなどを思い巡らせると、心はキラキラとときめいてきた。