第80話 休日のツォップ(4)完

文字数 719文字

 一カ月後、芳乃はスッキリとした表情で、福音ベーカリーの前にいた。

 あれから身体の調子は治り、実家に帰った。ミントは最期まで頑張り、ちゃんとお別れもできた。一日中泣き通してしまったが、思い切って休んでよかった。入院を含めると二週間ぐらい休んでしまったが、意外と仕事は何とかなってしまった。

 あのパンが、何か背中を押してくれたような気がした。店の前にいるミントそっくりの芝犬を見ていると、泣きたくなってしまうが、ちゃんと大事な愛犬とお別れが出来た事は後悔はない。

「ありがとう!」

 芳乃はそう言うと、ミントにそっくりな芝犬の背中を撫でると、福音ベーカリーの扉をあけた。ドアベルがついているようで、チリンチリンと可愛らしい音が響く。

「芳乃さん! 元気になった?」

 すぐに柊に迎えられた。パン屋の中は、春の陽だまりのように暖かい雰囲気だった。甘いメイプルシロップやバターの香りに、食欲が増してしまいそう。

「うん。でも、実家の飼い犬が死んじゃったの」
「そっかー。でも、死んだ動物は地獄にはいかないからね」
「そう?」

 実のところ、ミントが死んだら天国に行くのかはわからない。そもそも天国なんてあるのかも確信なんて無いが、このパン屋に足を踏み入れたら、そんな場所も全くの嘘に聞こえない。壁に貼ってある美しいラベンダー畑の絵を見ながら、そんな事を考える。

「うん、そうだよ。神様は小さな動物も愛してるから。ノアの方舟でも動物は助けたしね。少なくとも地獄へは行かせないから大丈夫。その点は安心していいよ」

 その柊の明るい声に、芳乃は明日への光が見えた気がした。

 ありがとう、ミント。大切な休日を過ごせたよ。ゆっくり休んでね。

 心の中で、ミントにお礼を述べた。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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