第128話 番外編短編・ピザパン

文字数 1,342文字

 菓野真白は、久々の休日をどうしようか悩んでいた。

 真白の仕事はフードトラックの店長だが、今日は大雨が降り、中止になってしまった。家に妻の雪乃がいたが、締切り近い仕事に取り掛かっていて、家にいるのは邪魔してしまいそうだった。

 新婚生活は想像以上に楽しく、ついつい雪乃にちょっかいを出してしまう事があった。今日ぐらいは自重しようと思った。

「そうだ、あのベーカリーに行ってみようかな」

 真白は、ふと福音ベーカリーに行くのを思いつき、今日行ってみる事にした。

 福音ベーカリーの店主たちとは、飽田市民祭りに出店した時に知り合った。正直イケメン軍団で、嫉妬してしまう所があったが、当人達は気さくで楽しい連中だった。ちょっと不思議くんっぽい雰囲気もあったが、クリスチャンだと言っていた。真白も教会に縁があったりするので、福音ベーカリーには、行ってみたいと思っていた。

 福音ベーカリーのある穂麦市につくと、もう雨は上がっていた。この様子だったら仕事したかったと後悔しかけたが、何事にもタイミングというものがあるのだろう。今日は福音ベーカリーに行くのが一番なのかもしれないと思い始めていた。

 駅から住宅街に入り、福音ベーカリーを探す。教会と大きな金持ちっぽい家に挟まれていて、すぐに見つかった。小さなパン屋だったが、赤い屋根で可愛らしい雰囲気もある。

 店の前の立て看板は、黒板状のもので、何か書いてあった。

「夫たちよ、キリストが教会を愛し、教会のためにご自分をお与えになったように、妻を愛しなさい。 エフェソの信徒への手紙5章 25節より」

 どうやら聖書の御言葉を引用して書いてるらしい。この聖書箇所は、結婚式で牧師が引用していた所でもあり、真白は思わず目頭が熱くなってきた。

 こうして感動した気分で入店すると、店員の一人・柊に迎えられた。あのイケメン軍団の中では、一番幼く頼りない雰囲気だったが、焼きたてのピザパンを並べ、生き生きと働いていた。

「真白さんじゃないですか!」

 しかも自分を覚えていて、真白はさらに嬉しくなってしまう。

「あの看板の聖書箇所いいね。もう、僕も結婚したばかりでね……」

 しばらく妻に雪乃について惚気てしまったが、柊はニコニコと笑いながら聞いてくれていた。

「こんな奥さん好きすぎる自分っておかしいですか?」
「いやいや、おかしくないよ!」

 気づくとイートインスペースで、ピザパンを食べながら柊に相談までしていた。ピザパンは生地がザクザクで、チーズはふわとろ。同業者ながら、ちょっと嫉妬したくなる味でもあった。意外と自分の心が狭い事にも気づく、真白は下を向いてしまった。

「聖書では結婚を尊いものとして、神様がつくってますから」
「本当?」
「うん。だから、浮気とかは絶対ダメだよ!」
「そんな、浮気なんてしないって!」

 柊に釘を刺されてしまったが、そんな発想は1ミリもなかった。

「まあ、でも、しばらく惚気語りに来ていい?」
「はは、いいよ。今度奥さんと来てね」

 柊が笑顔で言うと、どこからか芝犬がやってきた。どうやら看板犬らしく、真白に気付くと人懐っこく側にやってきた。

「わん!」

 看板犬にも歓迎されたような気がして、再び嬉しくなってきた。次の休みは妻の雪乃を連れて、このパン屋に行こう。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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