第191話 番外編短編・パスティエーラ

文字数 767文字

 天野蒼は、福音ベーカリーの扉を開けていた。元々自分はいたパン屋だが、何回かの人事異動のより、再び戻る事になった。今度も副業扱いだ。本業は天界での讃美隊の仕事だったが。

 今は橋本瑠偉いという後輩天使が営んでいた。なかなかセンスのある男で、この店の近くでお菓子屋を営む事になった。瑠偉が作ったパスクワの羊とい砂糖菓子が好評で、こういった人事異動になったようだ。

「瑠偉久しぶり!」
「蒼、久しぶりだね!」

 瑠偉とは気心が知れた仲で、後輩というより、友達感覚も強い。

 店内は甘く軽やか香りに満たされている。今はイースターの時期なので、ホットクロスパンやコロンバもある。やはりパスクワの羊はかなり目立っている。一つ一つ表情も違い、丁寧に作られていた。人気が出る理由もわかる。

「どれがおすすめ?」
「うーん、格子模様のパスティエーラっていうパイがおすすめだね。イタリアのイースター菓子なんだけど、硬質小麦を使ってるから手間かかってるんだよ。プチプチ食感で美味しいよ」

 そんな事を笑顔で言われてしまったら、食べるしかない。瑠偉に切り分けて貰い、イートインスペースで食べる事にした。

「わん!

 イートインスペースに行くと、ヒソプが尻尾を振って飛びついてきた。その表情は笑顔だった。

「おーヒソプも久しぶりだな!」

 蒼も笑顔になってヒソプの背中や頭を撫でるが、なぜか瑠偉は微妙な表情だった。

「この事は、柊や紘一には言わない方がいいね」
「うん? 瑠偉、今なんて言った?」
「わん!」

 瑠偉の言っている事は、ヒソプの鳴き声にかき消されて聞こえなかった。

 こうしてイートインで食べたパスティエーラは、甘く軽やかな香りがし、プチプチ食感も楽しかった。

 さて、これからも仕事で大変そうだ。

 しかし、たまには、こんな風に美味しいものを食べて、英気を養うのは悪くないだろう。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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