おまけ36 封印していた暗すぎるボツ話『凶暴な昼下がり』(期間限定で消します)

文字数 4,248文字




今日は昭和99年9月9日だということを、ぐうぜんネットニュースで知りました。

すごいな!9が4つもならんでる!!
ついついなにか投稿したくなってしまう。

でも、まだドール屋敷のつづきは完成していないので……。

代わりといってはなんですが、ずっと封印していた暗すぎるボツ話『凶暴な昼下がり』を投稿しようと思いました。

        ☆

★☆ WARNING!!【注意書き】 ☆★


この話は『37話 好きな人の役に立ちたい』後半からの分岐になります。

途中までは、話のながれは同じですが……。

本編にないシーンがあったり、まだ登場していない人物が出てきちゃったりしてます。

おもに『秘儀呪文・フォルトナの魔法円の設定』がちがうことが大きなちがい?

一番最初に書いた『原型』の設定になります。
変更した理由についてはのちほど……。

本編では契約を交わすことで、アナベルが命をねらわれるようになるという設定でしたが、こちらでは……。

ちなみに友人には「なんでこの設定やめちゃったの?」と言われました。

        ☆

凶暴な昼下がり ~没設定・もう一つの物語~


秘儀呪文『フォルトナの魔法円』に関する知識を集めるため、朝食を終えて早々にロジオンは図書室にこもりきりだった。

魔法書を床に積みあげて、彼は貪欲に文献をむさぼり読んでいた。

「あら、勉強熱心ね。ロジオンさん」

ぐうぜん図書室の前を通りかかったのは、アナベルの姉キャスリンだった。

彼女は興味深々といったようすで彼のそばまで来ると、床に並べられた魔法の道具をながめた。

「もしかして魔法の特訓?」

キャスリンに声をかけられて、彼は自然と笑顔を返した。

「新しい呪文の契約を交わしていたところだったんです。これからの旅で必要になると思うんで……」

「そうね……また、旅に出るんですものね。寂しくなるわ。アナベルもきっと悲しむわね」

なにげなく耳に飛びこんできた彼女の名に、彼はずきんっと胸が痛むのを感じた。

「あの子、昨夜は帰ってこなかったのよ。きっと友達のところでしょうけど……」

ロジオンはそれを聞いて複雑な心境だった。

彼の誘いを拒絶したあの夕暮れ、彼女は今にも泣き出しそうな感情を必死にこらえているようだった。

「ところで、かなり年季の入った魔法書ね……」

肩越しにキャスリンがのぞきこむと、彼女には判読不明なルーン文字がならび、魔法円の図柄が描かれていた。

「……ひょっとして、もしかしてなんだけど、これって……」

ひとりでにそうつぶやいて、彼女は迷わず古書のある書架に駆け寄った。そうして記憶を頼りにある書物を懸命に探しはじめた。

「どうかしたんですか?」

いぶかしげに思ったロジオンが声をかける。

「以前、それと同じ文字と……魔法円っていうの?その図柄が描かれた古文書を見かけたことがあるの……」

「──本当ですか!?」

「ええ、たしかこの辺りに……って、あった!これだわ……」

彼女は棚の奥から一巻の古文書を引っぱり出すと、手早くひもを解き卓上に広げた。

「──これはッ!?」

ロジオンは信じられないといったようすで目を見開くと、古文書に描かれた魔法円を食い入るように見つめた。

そしてなにかに憑りつかれたかのように、ルーン文字の羅列をすばやく解読すると、最後まで目を通し終わったあとは、ただただ愕然としていた。

(……そんな……僕はこんなこと聞いていない!これがあの呪文の真実だっていうのか……!?)

彼の胸中を黒々とした不吉なもやが渦巻きはじめていた。

それは油断するとあっという間に身体のすみずみにまで浸食し、慄くほどの不安と恐怖にさいなんだあげく、彼の心身をも容易に蝕んできそうな予感がした。

(だめだ……このままじゃいけないっ!)

彼は脳裏にうかんできた人物のもとへすぐさま飛んでいって、ことの真相を突きとめなければならないと強く感じた。

手早く古文書をひもで結わえると、険しい形相で切羽つまったように叫ぶ。

「──すみません。キャスリンさん、この古文書ちょっと借りてもいいですか。今日中に必ずお返ししますから!」

「ええ、別にかまわないけど……」

少年の度を越した激しさにやや飲まれながらも、彼女は鷹揚に二度うなずいた。

血相を変えて部屋を駆け出してゆくロジオンの姿を、キャスリンは茫然と見送った。

          ☆

谷間の街グレッツァの人里離れた場所に、ぽつりと一軒だけその屋敷はあった。

鍵は掛かっていなかった。彼は強引に樫の扉を開けて部屋に押し入るなり、転がっていた植物の鉢に足をとられそうになりながらも通路を駆けた。

窓に絡みついた不気味な植物の蔦。毒薬でも作っているのかと疑いそうになるくらい胸やけしそうなほどえぐい魔法薬の匂い。

何部屋かの扉を開けて、ようやく探し求めていた後ろ姿を視界にとどめたとき、彼は叫んだ。

「これはいったいどういうこと!?」

古びた机の上に乱暴に古文書を広げると、少年は師である年老いた女につめ寄った。

「──こんなこと……僕はいっさい聞いていないッ!!」

少年の怒声と拳を机上にたたきつける音が、想像以上に激しく空間に反響する。

だが、アンテーヌに動じたような気配はなかった。

老婆は感情の見えない瞳で虚空を見つめ、重々しく口を開いた。

「……秘儀呪文がおのれの寿命を削るということか?」

永い眠りから覚めたあとのような、けだるい抑揚のない声だった。

「……自らの命を代償にして、神の奇跡を起こす呪文だと伝えられておる」

「……真実は、それだけ……?」

ロジオンはもはや身震いするのをとめられなかった。

それが恐怖からくるものか、はたまた怒りからこみあげてくるものなのか、もはや判別はつきそうにもない。

「あなたはやっぱり知ってたんだね……。魔法の真実を……」

話の矛先を向けられた相手は、表情一つ変えず少年を見つめていた。

(……そうだ。いつだって、この人はそうだった……。はぐらかして重要なことほど僕に伝えない)

不信に満ちたまなざしでロジオンはアンテーヌを見据えた。

「そんな……大事なこと……どうして師匠は黙っていたの!」

「知ればおまえのことだ……臆して呪文を唱えないだろうと思ってね……」

師の口からこぼれる容赦のない言葉が、礫のように彼の耳朶を打つ。

それは弟子を否定する言葉だ。

そもそも彼のことを信じてもいなかったのだろう。最初から。

運命はいつだって悪魔のような好機を見計らい、彼を測り知れない絶望の淵へとつき落とした。

今回もまた、そんなところか。

そんな風に軽く受けとめられたら、どんなに楽だっただろう。

命を捨てることにひとかけらの未練もなかったら、自分がそういう人間だったなら、どんなに……どんなに……

「僕が……そんなに弱虫だと……?」

ぶるぶると握りしめた拳が震えた。

やり場のない怒りを押し殺すことに夢中で、ほかのいっさいがっさいには、とてもじゃないが意識が向きそうにもない。

もっと冷静になって、アンテーヌから情報を引き出さなければならないというのに。

「……いつからそんなうぬぼれを抜かすようになった?」

「うぬぼれてる……?僕が……?」

(この人はなにを言っているんだ……)

もはや師匠が放つ言葉の意味を理解できず、ロジオンはほうけたようにつっ立っていた。

「自覚がうすいとは、もはやこれまでじゃな」

「……………………」

「真実を知って怒鳴りこんでくるような愚か者に、これ以上かける言葉なぞない……。そんな弟子を鍛えるはめになるとは儂も耄碌したもんじゃ……」

冷淡な返しに、ふっと冷静になる自分がいた。

あまりにも冷たい言葉をかけられたとき、人はそれまでの怒りをわすれて茫然となる瞬間がある。

「これ以上、失望させないでおくれ」

        ☆

なにも言い返すことができず、背中をやや折り曲げてうなだれたようにして少年は屋敷を後にした。

ふり返りはしなかった。
というよりふりむく気力も起きなかった。

ふり返ったところで彼が期待するものはなにもなかったし、かけてほしかった言葉はすべて雲散霧消して消えていった。

黙っていてわるかったとか、気の毒で真実を伝えられなかったとか、かわいそうな身の上だとか、陳腐な慰めの言葉がほしかったわけではない。

けして同情してほしかったのではない。
ただ、真相を突きとめたかっただけなのだ──

とはいえ、あの古文書に書かれた内容は『嘘』だという希望的観測はくつがえされず、それどころかより真実味をおびて彼に迫ってきた。

(……本当に逃げられないのかもしれない……)

自分をとりまく運命から、忌まわしい因縁から、すべて遠ざかってしまえたら、どんなに……

凶暴な昼下がり──

太陽に照らされた影は真っ黒に細長く伸びていて、彼の行く末を不吉なものとして暗示しているようだった。

(絶望に絶望を塗り重ねると……いったい何色になるのかな……)

アンテーヌの冷酷すぎる態度は、ロジオンの荒んだ気持ちをさらに荒廃させ、加速度的に追いつめていった。

          ☆

書物と植物に支配され、それらに埋もれるように世間と隔絶し生き長らえる部屋。

刻の流れからとり残された最果てで──

揺り椅子に枯れたからだをゆだねながら、老女はひとりつぶやいた。

「──宿命の矢は放たれた。おまえはそれをどう受けとめる?」


        ★☆★


  ★☆ あとがき ☆★


秘儀呪文が寿命を削るという設定をなぜ没にしてしまったのか……

理由はかんたん。
ずばり暗くなるからです……!

当時はこれ以上暗い話を書きたくなかったんですね、私。

あとこの設定だとロジオンが死んじゃう?ので、さすがにそれは不幸すぎてかわいそうかなと。

つい仏心を出してしまった。

ただ、この展開だからこそ『40話 日差しの入らない部屋』でロジオンがつぶやく。

「僕はいつか死ぬのかな………」

という言葉やその後の場面にリアリティが生まれ、陰影が増すともいえるのですが、やはり容赦なさすぎる展開なのもどうかなと変更にいたったわけです。

でも、設定を変えたところでさほど明るくもならなかったし、友人の言ったようにこっちの設定のほうがよかったかも……と思わなくもない。

ちなみにこの展開のつづきが『おまけ20 閲覧やや注意!ダークサイドな戦闘ボツバージョン』だったりします!

鬱展開からの鬱バトルだったわけです。
さすがにその続きまでは書いてませんが──
 
とまあ気が滅入るような暗い話でしたが、たまにはこういうのを読みたい方もいるかな?と思いきって封印を解いてみました。

読んでくださり、ありがとうございました。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み