32.眠れない夜の恋愛相談

文字数 1,709文字




(ひと)さし(ゆび)から(はず)した(きん)指輪(ゆびわ)が、さびしげに(ひかり)(はな)ちながらテーブルの(うえ)()()りになっていた。


(あたま)がしびれたようになって、なにも(かんが)えられなかった。


──いや、それは(うそ)だ。


アナベルは迷子(まいご)子供(こども)のように心細(こころぼそ)気持(きも)ちで、自室(じしつ)のベットに(よこ)たわり毛布(もうふ)にくるまっていた。


これで(こい)わずらいから開放(かいほう)されるという安堵感(あんどかん)とはうらはらに、彼女(かのじょ)をせき()てていたのは、ロジオンを()()めたいという(つよ)(おも)いだった。


(あたしを()いていかないで、いかないで、いかないで──)


よけいに(こころ)(きず)(ふか)くするだけだと()りながら、アナベルは(ねが)わずにいられなかった。


(だめだわ………。これじゃあ今夜(こんや)(ねむ)れそうもない)


(よる)のとばりが()りるころ、彼女(かのじょ)()きはらした(ひとみ)をぬぐって屋敷(やしき)()()した。


一目散(いちもくさん)馬車(ばしゃ)()()ると、()(やみ)(つつ)まれた(よる)(まち)(はし)らせた。

        ☆

「リーム!こんな夜遅(よるおそ)くにごめん。でもどうしても相談(そうだん)したいことがあって………」


(いきお)いよく(とびら)()けると、アナベルは必死(ひっし)なようすで親友(しんゆう)にそう()びかけた。


だがそこで()にしたのは、室内(しつない)薄暗(うすぐら)いため相手(あいて)姿(すがた)ははっきりしないが、親友(しんゆう)(おとこ)抱擁(ほうよう)()わしているシルエットだった。


「ごめんっ!邪魔(じゃま)したわっ」


アナベルはあわてて二人(ふたり)()()けると、狼狽(ろうばい)のあまり(ゆか)につんのめりにそうになりながらも、(いそ)いで部屋(へや)()ていこうとした。


()って!アナベル。誤解(ごかい)よっ!」


リームのせっぱつまったような(するど)(こえ)彼女(かのじょ)必死(ひっし)()()めた。


「………アナベル?」


相手(あいて)(おとこ)(ひく)くつぶやいた。


なにやら()(おぼ)えのある(こえ)反応(はんのう)して彼女(かのじょ)がふり(かえ)ると、薄暗(うすくら)がりの(なか)から()()(おとこ)()()った。


「ラグシード!?なんであんたがこんな(ところ)にいるのよ!」


(おも)いがけない人物(じんぶつ)()()たりにして、すっとん(きょう)(こえ)でアナベルが(さけ)んだ。


さすがの(かれ)()れくさいのか、バツの(わる)そうな表情(ひょうじょう)()かべる。


二人(ふたり)とも()()いだったの!?」


アナベルとラグシードの(かお)交互(こうご)()ながら、あぜんとしたようすでリームがつぶやいた。


「それにしてもいいタイミングで()びこんで()てくれたわ。(わたし)もう(すこ)しでこの(おとこ)(おそ)われるところだったんだから」


「お、(おそ)われるって………!?あんたあたしの友達(ともだち)になにすんのよッ!それとなんで二人(ふたり)顔見知(かおみし)りなのか、ぜひとも()かせてもらいたいわね」


アナベルが意地(いじ)(わる)()みを()かべてラグシードにつめ()ると、たじたじになっている(かれ)()わりにリームが説明(せつめい)した。


(かれ)には先日(せんじつ)(わたし)(まち)(おとこ)にからまれていたところを(たす)けてもらったの。それが(えん)でお(れい)一度(いちど)だけ(うらな)ってあげたことがあるんだけど、それだけよ。なのにあれ以来(いらい)、たびたびここに()()るようになって………」


「ラグシードが()ごと徘徊(はいかい)して(かえ)ってこなかったのには、そんな理由(りゆう)があったわけね……」


やや軽蔑(けいべつ)したようなまなざしを()けて、ラグシードは素知(そし)らぬふりをした。


「それなのにこの(おとこ)ったらなにを(おも)ったのか、さっき突然(とつぜん)()しかけてきて、()ぬかもしれないから一回抱(いっかいだ)かせろなんて()うのよっ!?(しん)じられない!無神経(むしんけい)にもほどがあるわ!」


(いか)心頭(しんとう)といったようすで、かなりの剣幕(けんまく)でリームがまくし()てた。


しかし、肝心(かんじん)のアナベルは(べつ)部分(ぶぶん)(こころ)()っかかったようだった。


「ラグシード、()ぬかもしれないってどういうこと?」


うぐっと言葉(ことば)につまったように、(かれ)()まずい表情(ひょうじょう)()かべて(くち)()ざした。


明日、屋敷(あしたやしき)()()くってロジオンが()ってたわ。それとなにか関係(かんけい)があるんじゃないの」


明日発(あしたた)つって!?そりゃまた(きゅう)だな。(おれ)だってそこまで()いてねえよ………」


よそよそしく視線(しせん)をそらしてごまかそうとしているラグシードにかまわず、アナベルは(しず)かだが語気(ごき)(つよ)めて(はなし)(つづ)けた。


(はなし)をはぐらかさないで!もう一度聞(いちどき)くわよ。()ぬかもしれないってどういうこと?」


アナベルに真剣(しんけん)()凝視(ぎょうし)され、(かれ)観念(かんねん)したとばかりに(おお)きなため(いき)をついた。


「ロジオンにとっちゃ極秘(ごくひ)あつかいの内容(ないよう)だから(だま)ってたが、あんたには(はな)さないわけにはいかなくなっちまったな。あいつは(いや)がるだろうが、しょうがねえ」


ラグシードは(とお)記憶(きおく)(おも)いをはせるように、とつとつと(かた)りはじめた。


ロジオンが必死(ひっし)にアナベルに(かく)(とお)してきた、彼自身(かれじしん)過去(かこ)について──



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