16.威力絶大!新たな魔法円

文字数 2,674文字




(はし)っていると()()に、天高(てんたか)くそびえる四本(よんほん)(はしら)()えてきた。


その(はしら)中心(ちゅうしん)にうがたれた巨大(きょだい)(あな)から、灰色(はいいろ)(けむり)がもうもうと(そら)()ちこめて、()(きり)のように(あた)りに充満(じゅうまん)している。


(おも)わず()きこむと口許(くちもと)をおおい、あまりの空気(くうき)(わる)さに辟易(へきえき)とする。


こんな状態(じょうたい)戦況(せんきょう)長引(ながび)けば、プライドの(たか)神官(しんかん)たちもさすがに疲弊(ひへい)して……。


どこの(うま)(ほね)とも()れない自分(じぶん)に、救援(きゅうえん)(たの)むのも無理(むり)はないような()がした。


さっそく(ひく)いうなり(ごえ)をあげながら、(しげ)みの(かげ)から数本(すうほん)もの(くさ)りかけた(うで)()()した。


やつらは(ひと)()らえようものなら、即座(そくざ)捕食(ほしょく)しようとする。


それこそ(かず)(おお)いので、一体(いったい)一体(いったい)相手(あいて)にしていたらキリがない。


死霊系(しりょうけい)対策(たいさく)は、頭部(とうぶ)破壊(はかい)および(ほのお)──)


もちろん(かみ)加護(かご)()けた神聖呪文(しんせいじゅもん)神具(しんぐ)(ちから)(たよ)るのが一番(いちばん)なのだが。


あいにく(もっと)身近(みぢか)なその使(つか)()は、いまだ行方知(ゆくえし)れずである。


(うわさ)()きつけて、()けつけてくれることを期待(きたい)したのだが……。


今回(こんかい)ばかりは、ラグに(たよ)るのはあきらめたほうが()さそうだ──)


しょうがないとばかりに(かた)から吐息(といき)をつくと、対峙(たいじ)する決意(けつい)(かた)めたのか、ロジオンは()ける(しかばね)のいるほうに()きなおった。


そのまま(こし)()()ばし、(さや)から抜刀(ばっとう)する(いきお)いで死霊(しりょう)胴体(どうたい)()りつけ──


(かえ)(かたな)(くび)一息(ひといき)切断(せつだん)した。


(くさ)った頭部(とうぶ)(ころ)がり()ちる()もなく、(けん)一閃(いっせん)させて(かたわ)らにいた数体(すうたい)をなぎ(たお)し、その(すき)詠唱(えいしょう)していた(ほのお)魔法円(まほうえん)()(はな)つ!


閃光(せんこう)(あた)一帯(いったい)にとどろき、それに()づいたその()統率者(とうそつしゃ)らしき神官(しんかん)近寄(ちかよ)ってくる。


「そなたは?」


大聖堂(だいせいどう)から救援(きゅうえん)依頼(いらい)()けました。マインスター()()()せている(もの)です」


戦況下(せんきょうか)なのでロジオンは、できるだけ手短(てみじか)(こた)えた。


「──そうか、ありがたい──。教会(きょうかい)()ての(とお)りの惨状(さんじょう)でな。地震(じしん)とともに()(つづ)けに()こった爆音(ばくおん)……。()づいたときには大庭園(だいていえん)死霊(しりょう)どもに占領(せんりょう)されていた」


神官(しんかん)不甲斐(ふがい)ないとばかりに、(みずか)らを()めるように(かた)()とした。


その()ちひしがれたようすを()て、ロジオンはずっと(かんが)えていたことを、(いま)こそ実行(じっこう)(うつ)すときだと(おも)いたった。


「できるだけ(すみ)やかに神官(しんかん)たちを(あつ)めてもらえませんか?そして高位(こうい)防御結界(ぼうぎょけっかい)()って(まも)りを(かた)めてほしいんです。その(あいだ)(ぼく)魔法(まほう)を──。この魔法(まほう)詠唱(えいしょう)(すこ)時間(じかん)がかかるんです。うまくいけばいいんですけど……」


了承(りょうしょう)した!」


語尾(ごび)(しり)すぼみで、自信(じしん)のなさそうなロジオンと相反(あいはん)して、神官(しんかん)返答(へんとう)力強(ちからづよ)いものであった。


さきほどの魔法円(まほうえん)威力(いりょく)間近(まぢか)()て、信頼(しんらい)にたるべき心強(こころづよ)味方(みかた)()たと実感(じっかん)したのだろう。


「──(いま)からこの御仁(ごじん)魔法(まほう)使(つか)う!その(あいだ)おまえたちは女神様(めがみさま)(いの)りをささげ、高位(こうい)防御結界(ぼうぎょけっかい)()り、あらゆる衝撃(しょうげき)()ちこたえるのだ!」


颯爽(さっそう)()けつけた神官(しんかん)たちにそう声高(こわだか)命令(めいれい)すると、皆一様(みないちよう)にうなずきいっせいに神聖呪文(しんせいじゅもん)(とな)(はじ)めた。


たちまち強固(きょうこ)(まも)りの結界(けっかい)複数発動(ふくすうはつどう)し、連携(れんけい)して拡大(かくだい)してゆくのを確認(かくにん)すると……。


ロジオンは(あたら)しく(おぼ)えた、上位(じょうい)魔法円(まほうえん)詠唱(えいしょう)をはじめた。


この呪文(じゅもん)練習(れんしゅう)ではなく、実戦(じっせん)使用(しよう)するのは(はじ)めてだ。


『……フォーチュン・タブレット第一篇(だいいっぺん)(ほのお)魔法円(まほうえん)


一瞬(いっしゅん)ためをつくってから(いきお)いよく(いき)()い、かっと()見開(みひら)くと渾身(こんしん)(ちから)をこめて、大気(たいき)にいきわたるよう(こえ)()りあげる──!


咎人(とがびと)(ささ)獄炎(ごくえん)輪舞(りんぶ)!! 】


その()のごとく罪人(ざいにん)(めっ)する使命(しめい)()びて、いずこから(いきお)いよく()(のぼ)った(ほのお)(かべ)は──


(くる)しみ(おど)(くる)死霊(しりょう)()れを、常人(じょうじん)ならざる業火(ごうか)(つつ)みこんだ。


監獄(かんごく)死刑囚(しけいしゅう)にでもするように()あぶりにして、(ほのお)(うみ)のように大地(だいち)一掃(いっそう)()()くす──!!


「──おおっ」


(しん)じられない光景(こうけい)()()たりにした神官(しんかん)(くち)から、驚嘆(きょうたん)とも畏怖(いふ)ともとれるどよめきが()こる。


まさしくフォルトナの加護(かご)──


その火炎(かえん)(すさ)まじく、地上(ちじょう)のみならず地底(ちてい)死霊(しりょう)もまとめて(ちり)()したらしい。


四本(よんほん)(はしら)賢者(けんじゃ)聖句(せいく)()られた霊験(れいげん)あらたかな石碑(せきひ)


それらを(のこ)してあとは、くすぶった()野原(のはら)のような景色(けしき)(ひろ)がっている。


爆炎(ばくえん)跡地(あとち)をその()()きつけると、少年(しょうねん)安堵(あんど)したように(かた)からほっと一息(ひといき)ついた。


自分(じぶん)魔法(まほう)(おも)いがけない威力(いりょく)発揮(はっき)して、この()(すく)うことができた。


ロジオンはめずらしく気分(きぶん)高揚(こうよう)しているのを(かん)じた。


非常時(ひじょうじ)なのに不謹慎(ふきんしん)だとは(おも)ったが、(われ)ながら清々(すがすが)しい気持(きも)ちに()たされたのだった。


(ここ最近(さいきん)……なんだか調子(ちょうし)がいいんだよね……)


アナベルとフォルトナの契約(けいやく)()わし、彼女(かのじょ)がエレプシアの乙女(おとめ)となってからは(とく)に。


(ほかにも(あたら)しい呪文(じゅもん)契約(けいやく)にも、いくつか成功(せいこう)したし……。これも全部(ぜんぶ)アナベルのおかげかな……)


一族(いちぞく)(つた)わる秘儀呪文(ひぎじゅもん)『フォルトナの魔法(まほう)(えん)』を習得(しゅうとく)してからというもの。


(かれ)自身(じしん)魔法力(まほうりょく)一段(いちだん)拡張(かくちょう)し、(あら)たな生命(せいめい)(みなもと)()たように、その(ちから)がみなぎるのを(かん)じていた。


(……とはいえ、絶好調(ぜっこうちょう)なときほど注意(ちゅうい)しろって、師匠(ししょう)()ってたけど……)


おそらく魔法使(まほうつか)いたるもの冷静(れいせい)さが肝要(かんよう)
まさしく()(ゆる)みこそ大敵(たいてき)だと()いたいのだろう。


「ロジオン殿(どの)といいましたか。お見事(みごと)です──」

司祭長(しさいちょう)とおぼしき白髭(しろひげ)をたくわえた威厳(いげん)ある老人(ろうじん)が、大勢(おおぜい)神官(しんかん)たちの(まえ)(あゆ)()ると、(みずか)敬意(けいい)(ひょう)するように(ふか)(こうべ)()れた。


「いえ、そんな……(かお)をあげてください。そもそもこの事件(じけん)は、(ぼく)たちのしたことが()(がね)()こったのかもしれませんし……」


そう(かんが)えるだけでも恐縮(きょうしゅく)してしまって、感謝(かんしゃ)言葉(ことば)素直(すなお)にうけとれないのだった。


墓所荒(ぼしょあ)らしの(つみ)……ですかな。それは今回(こんかい)のことで不問(ふもん)にいたしましょう。少々厳(しょうしょうきび)しい処罰(しょばつ)で、あなたがたを(おど)しすぎたかと反省(はんせい)いたしておりました」


「あ、ありがとうございます──」


(おも)いのほかあっさりと罪状(ざいじょう)撤回(てっかい)され、なかば放心(ほうしん)したような気持(きも)ちにひたっていると。


司祭長(しさいちょう)表情(ひょうじょう)()()めて、あらためて重々(おもおも)しく言葉(ことば)(つづ)けた。


「ですが、当教会(とうきょうかい)現在(げんざい)……。かなり厄介(やっかい)事態(じたい)()きこまれていることも事実(じじつ)です。(わけ)あって、神具(しんぐ)使(つか)()(くに)(はな)れている(いま)となっては、戦力(せんりょく)(いちじる)しくおぼつかない状況下(じょうきょうか)にあります」


「……ご心痛(しんつう)、お(さっ)します……」


依然(いぜん)、この災厄(さいやく)元凶(げんきょう)ともいうべき(ひつぎ)()魔物(まもの)逃走中(とうそうちゅう)なのだ。


それに()ぐ、死霊(しりょう)たちの大聖堂(だいせいどう)への襲撃(しゅうげき)


大庭園(だいていえん)被害(ひがい)甚大(じんだい)なもので、建造物(けんぞうぶつ)被害(ひがい)(すく)ないとはいえ、復興(ふっこう)だけでも人手(ひとで)必要(ひつよう)だろう。


「だが、そこへ救世主(きゅうせいしゅ)のようにあなたが(あらわ)れた──。失礼(しつれい)ですが、身元(みもと)調(しら)べさせていただきました」


「──!?──」


「ルンドクイスト()のご子息(しそく)ロジオン(さま)。それともフォルトナの末裔(まつえい)とお()びしたほうがいいでしょうか──?是非(ぜひ)ともあなたの(ちから)をお()りしたい……」



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み