11.ガレキの上の王子様

文字数 2,135文字




「お(じょう)さま~!こんな(ところ)にいらっしゃいましたかぁ!」


その(とき)、ロマンチックなムードを一気(いっき)にぶち(こわ)しにするような甲高(かんだか)(こえ)店内(てんない)(ひび)きわたった。


「いやぁ~お(さが)ししましたよ。まさかもうこちらまでいらしてるとは………」


()るとこの(みせ)支配人(しはいにん)であるムッシュー・ヒロタだった。


(かれ)自慢(じまん)のあごひげをさかんに(ゆび)()でながら、そわそわと()()かないようすでアナベルの(まえ)()た。


(いま)まで(みせ)をほったらかしてどこに()ってたのよ?()きたいのはこっちのほうよ!」


支配人(しはいにん)()(ちぢ)めながら、恐縮(きょうしゅく)しきりといったようすで(かた)りはじめた。


「わたくしめはこの事件(じけん)発端(ほったん)となった、貴族(きぞく)(おとこ)役人(やくにん)()()してきたところです。(みせ)従業員(じゅうぎょういん)たちは、ひとまず屋敷(やしき)(あつ)められ、だんな(さま)といっしょに今後(こんご)対策(たいさく)検討中(けんとうちゅう)です。ところでお(じょう)さまはどこまで事態(じたい)をお(さっ)しで?」


「まっっったく、なーんにも()らされていないわよっ!」


それまで()まっていたアナベルの(いか)りが炸裂(さくれつ)した。


「あたしたちに使者(ししゃ)まで()しておきながら、どうして(みせ)一人(ひとり)(のこ)しておかなかったのよ!おかげで事情(じじょう)がのみこめなくて混乱(こんらん)しちゃったじゃないの。それと、あの(おとこ)とここに(たお)れている少年(しょうねん)何者(なにもの)なの!?」


それまで(だま)って傍観(ぼうかん)していたラグシードは、(きゅう)(はなし)矛先(ほこさき)()けられて、はっとしたようになにかを(おも)()した。


そしてムッシュー・ヒロタに()かって神妙(しんみょう)なようすでたずねたのだ。


怪我(けが)してた(ひと)たち、あれからどうなりました?」


一瞬(いっしゅん)でも話題(わだい)がそれ、支配人(しはいにん)はほっとして(すく)われた表情(ひょうじょう)になると()()いた(こえ)()った。


「あれからすぐ治療院(ちりょういん)(はこ)ばれました。治癒呪文(ちゆじゅもん)がかなり()いたみたいで、(みな)さん無事(ぶじ)ですよ。あなたのおかげで(すく)われました。ありがとうございます」


(めん)()かって感謝(かんしゃ)されてやや戸惑(とまど)いつつも、まんざらでもないようすのラグシードだったが、(はなし)についていけないアナベルはやきもきし(はじ)めた。


「ちょっと、あたしにもわかるように説明(せつめい)してよ」


「これは失礼(しつれい)しました。こちらの方々(かたがた)当店(とうてん)(すく)ってくださったいわば恩人(おんじん)です。(きゃく)のペットである合成獣(キメラ)店内(てんない)大暴(おおあば)れしまして、そこに(たお)れている(かた)が、魔法(まほう )(けもの)鎮静化(ちんせいか)してくださったのです。


そちらの黒髪(くろかみ)(かた)負傷者(ふしょうしゃ)治癒(ちゆ)をしてくださいました。まあ、店舗(てんぽ)にかなりの損害(そんがい)()ましたが、合成獣(キメラ)()(ぬし)修繕費(しゅうぜんひ)全額請求(ぜんがくせいきゅう)しますのでご心配(しんぱい)なく」


「な~んだ。そうなんだ」


拍子抜(ひょうしぬ)けしたように彼女(かのじょ)はつぶやいた。


そしてはっと(われ)(かえ)ると、()まずそうなようすで黒髪(くろかみ)青年(せいねん)をちらりと()た。


「だとしたら、あたしったら(いま)までずいぶんと失礼(しつれい)発言(はつげん)を………」


暴言(ぼうげん)といってもいいくらいだったぜ」


ラグシードがため息混(いきま)じりにぼやいてみせると、それまでの強気(つよき)態度(たいど)はどこへやら、アナベルは(きゅう)()ずかしくていたたまれない気持(きも)ちになったのだ。


(それはともかく、(かれ)がこの(みせ)恩人(おんじん)だったなんて!)


彼女(かのじょ)()()がりたいくらいうれしかった。


なぜならそれを口実(こうじつ)屋敷(やしき)招待(しょうたい)できるではないか。


(みせ)(すく)ってくれた恩人(おんじん)ならば、(ちち)(あね)(よろこ)んで(かれ)らをもてなすだろう。


(それにしても(みな)窮地(きゅうち)(すく)うためとはいえ、あんな猛獣相手(もうじゅうあいて)()()かうなんて、()かけによらず勇敢(ゆうかん)なのね。でも意外性(いがいせい)のある(ひと)ってなんだか興味(きょうみ)をそそられるわ)

 

     
             
アナベルの心象風景(しんしょうふうけい)に、まばゆい青空(あおぞら)一面(いちめん)(ひろ)がった。


(なが)れるような金糸(きんし)(かみ)をそよ(かぜ)になびかせ、(おか)(うえ)少年(しょうねん)一人(ひとり)たたずんでいる。


みずみずしい美貌(びぼう)(うれ)いを()めているが、()()ってくる少女(しょうじょ)姿(すがた)(みと)めると、ほころぶようにその表情(ひょうじょう)(やわ)らいだ。


少年(しょうねん)はそっと()()()べると、こちらに天使(てんし)のような微笑(ほほえ)みを()げかけるのだ。


(はる)地上(ちじょう)楽園(らくえん)()める(こい)季節(きせつ)である。


アナベルの脳内(のうない)には(またた)()虹色(にじいろ)花畑(はなばたけ)()きほこり、まさしく春爛漫(はるらんまん)


少女(しょうじょ)自分(じぶん)だけの乙女(おとめ)空想(くうそう)()いしれていたのだ。


(う~ん、こんな気持(きも)ちって(ひさ)しぶり!)


(こい)(おとず)れは、(なが)らく(ねむ)っていた感受性(かんじゅせい)()()ます魔法(まほう)(ちから)があるのだ。


このうえなくすがすがしい気分(きぶん)()たされたアナベルだったが、不機嫌(ふきげん)なラグシードの発言(はつげん)によって、甘美 (かんぴ)妄想(もうそう)はあっけなくかき()された。


「こっちとしては(さいわ)い二人とも無傷(むきず)ですんでるが、相方(あいかた)気絶(きぜつ)してるし、おわびの言葉(ことば)だけじゃあ納得(なっとく)できないんだけどな」


憮然(ぶぜん)としたようすで青年(せいねん)()った。あきらかに見返(みかえ)りを要求(ようきゅう)しているのだ。


(ゆめ)から現実(げんじつ)()(もど)されて、一瞬(いっしゅん)むくれそうになったアナベルだったが、それに便乗(びんじょう)しない()はない。


すかさず計画(けいかく)実行(じっこう)(うつ)すなら(いま)だと判断(はんだん)した。


「そりゃそうよね。あたしとしても(おん)()けてタダで(かえ)すわけにはいかないわ。そこまで礼儀知(れいぎし)らずじゃないもの。だからお(れい)もかねて、あなたたちをうちの屋敷(やしき)招待(しょうたい)するわ」


「おまえんち、金持(かねも)ちなの?」


失礼(しつれい)な!マインスター()といえば、アトゥーアンの(みやこ)でも指折(ゆびお)りの豪商(ごうしょう)ですよ」


ムッシュー・ヒロタが彼女(かのじょ)()わって、(ほこ)らしげにそう(こた)えたのだった。


「なるほど。それなら(よろこ)んで招待(しょうたい)にあずかろうかな。………おっと、ご主人様(しゅじんさま)のお目覚(めざ)めだ」


ふり(かえ)ると瓦礫(がれき)(やま)(うえ)に、太陽(たいよう)(ひかり)()びて一人(ひとり)少年(しょうねん)()っていた。


「ごめん、ラグシード。また失敗(しっぱい)しちゃったよ」


(かれ)はそう()って、()れくさそうに(わら)った。


「ところでこの人たち、(だれ)?」



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