48.ラグシード極秘の諜報活動

文字数 1,735文字




(とびら)すら()けてもらえないかもしれない危惧(きぐ)(いだ)きながら、(すこ)緊張(きんちょう)したようすでラグシードは(やかた)()(りん)()らした。


だが、(きゃく)とかんちがいしたのか、あっけなく(とびら)(ひら)いた。

すると萌黄色(もえぎいろ)(かみ)をした(むすめ)がひょっこりと
(かお)
()し、(かれ)姿(すがた)(みと)めるとなんともいえない表情(ひょうじょう)()かべた。


「──あんた、(わたし)伝言(でんごん)ちゃんと()いたんでしょうね?」


彼女(かのじょ)用心深(ようじんぶか)(とびら)(そと)()ると、(かれ)(まえ)()ちはだかるようにして、自分(じぶん)身体(からだ)(とびら)をふさいだ。


今日(きょう)はそういう目的(もくてき)()たわけじゃない」


ラグシードは毅然(きぜん)とした態度(たいど)(おう)じたが、リームから(うたが)わしい()でじっとにらまれた。


「その言葉(ことば)信用(しんよう)してもいいのかしら?」


「ああ、今日(きょう)ここに()()ったのは、あんたにアナベルのことを(たず)ねに()たんだ」


「それって、ロジオン(くん)のお使(つか)い?」


「いいや、そもそもあいつは(おれ)がここに()てることも()らない。理由(りゆう)はどうあれ、(おれ)があんたに()いに()ったことを()ったら……(おこ)るだろうなぁ……」


がっくりとうなだれたラグシードの(かた)(ふる)えている。リームからはその表情(ひょうじょう)はうかがい()れない。


「ロジオン(くん)ってそんなに(こわ)(ひと)なの?なんだかアナベルから()いたのと、だいぶイメージが(ちが)うわね……って、なんだ、(わら)ってるんじゃない」


彼女(かのじょ)指摘(してき)どおり顔面(がんめん)(ひろ)がっていた()みをかみ(ころ)すと、ふと(とお)()をして(かれ)はぼそっとつぶやいた。


(おれ)とちがって(ひと)迷惑(めいわく)かけたり、なにかと良識(りょうしき)(はん)することを(きら)うんだよ、あいつは」


「だったら自分(じぶん)は、(ひと)迷惑(めいわく)かけてる自覚(じかく)はあるわけね」


「そりゃあ、(おれ)(わる)(おとこ)だからさ」


顔色(かおいろ)ひとつ()えずにラグシードは平然(へいぜん)()(はな)った。


「……あんたって、いい性格(せいかく)してるわねぇ。まだ()ってもいないけど、ロジオン(くん)にとっても同情(どうじょう)するわ」


そのようすを(はた)()ていたリームは、なかばあきれたようにため(いき)をついた。

        ☆

「ところで(わたし)()きたい(はなし)って、なんなの?」


(じつ)今朝(けさ)屋敷(やしき)()(はら)ってきたんだが……。なんだか二人(ふたり)のようすがおかしいんだ。アナベルと(した)しいあんたなら、なにか心当(こころあ)たりがないかと(おも)ってさ」


「──べつに最近変(さいきんか)わったことはなかったけど。でも、いったいどういうこと?」


(わか)れぎわのアナベルの態度(たいど)不自然(ふしぜん)だったんだよ。もう一生逢(いっしょうあ)えないかもしれないのに、涙一(なみだひと)つこぼさないどころかまったく平気(へいき)みたいでさ」


「そんなのありえないわ。つっぱって平気(へいき)なふりでもしてたんじゃないの?」


「だったらまだ理解(りかい)できるさ。なんていうかうまく()えないけど、まるでつき(もの)でも()ちたように、昨日(きのう)までのアナベルとは別人(べつじん)になったみたいだったぜ」


ラグシードは今朝(けさ)(わか)れの場面(ばめん)を、しきりに(おも)(えが)こうとしながらそう(かた)った。


「それって深読(ふかよ)みしすぎなんじゃないの?」


「だって、あれでもキスまで()わした(なか)なんだろ。だったら普通(ふつう)(わか)れる瞬間(しゅんかん)はもっとこう()りあがる展開(てんかい)になるだろ?」


「キスねぇ……。そこまでいってたんだあの二人(ふたり)……」


「なんだ。アナベルから()いてないのかよ?」


初耳(はつみみ)よ。アナベルとは()まっていった(よる)から()ってないの」


「じゃあ(おれ)()いに()るなっていう伝言(でんごん)は……?」


「それなら使(つか)()小鳥(ことり)手紙(てがみ)
(とど)
けさせたのよ。(わたし)もいちおう魔法使(まほうつか)いだから」


「ふ~ん、便利(べんり)能力(のうりょく)だな」


「ただ、あの(よる)一晩中(ひとばんじゅう)ロジオン(くん)(はなし)ばかり()かされて、正直(しょうじき)うんざりしたことは(たし)かよ。(かれ)への情熱(じょうねつ)()めてないと(おも)うけど」


「だよな……。それが今日(きょう)()のひら(かえ)したようにつれないそぶり。いっきに(しお)()いたみたいな(かん)じでさ。興味(きょうみ)のない客人(きゃくじん)にしょうがなく(せっ)するような態度(たいど)だったぜ」


淡々(たんたん)としたラグシードの発言(はつげん)に、リームは困惑(こんわく)したように眉根(まゆね)()せた。


「──さすがに(へん)ね。アナベルらしくないわ。(わか)れぎわに(つよ)がってわざと平静(へいせい)(よそお)ったとしても、なにかと感情(かんじょう)(おもて)()やすいタイプだもの」


「だとするとやっぱり演技(えんぎ)ではなさそうだな。たしかにあれが演技(えんぎ)だっていうなら、女優顔負(じょゆうかおま)けだぜ……。もう彼女(かのじょ)(あたま)(なか)には、ロジオンの記憶(きおく)がすっぽりぬけ()ちてるんじゃないかって、(おも)わず(うたが)っちまうくらいだったからな」


なにげない調子(ちょうし)で、ラグシードはさらりと核心(かくしん)(ちか)いことをつぶやいた。


(かれ)野生(やせい)のカンのようなものだろうか。


(………記憶(きおく)………!!)


リームはなぜかその言葉(ことば)に、不思議(ふしぎ)直観(ちょっかん)めいたものを(かん)じた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み