62.光をもたらす少女との再会

文字数 2,349文字




ほとばしる絶叫(ぜっきょう)とともに、(くろ)怨念(おんねん)(うず)()いて、ロジオンに(おそ)いかかった。


(な、なんだ!?この異様(いよう)殺気(さっき)は──!)


祭壇(さいだん)守護(しゅご)するように屹立(きつりつ)した二対(につい)石像(せきぞう)


それらが(あや)しげに(ひかり)(はな)鳴動(めいどう)する!


いっせいにひび()れるように亀裂(きれつ)(はし)り、轟音(ごうおん)()てて(くだ)()った。


「あなたにこの魔物(まもの)(たお)せるかしら……?魔力(まりょく)()れた魔法使(まほうつか)いさん」


巨大(きょだい)石像(せきぞう)崩壊(ほうかい)とともに、姿(すがた)(あらわ)したのは二匹(にひき)(くろ)大蛇(だいじゃ)だった。


黒光(くろびか)りする(うろこ)をぬめらせ、無数(むすう)(きば)()えた(くち)から(なが)(した)をチロリと(のぞ)かせる。


そして、とぐろを()いた極太(ごくぶと)胴体(どうたい)を、ロジオンめがけて(むち)のようにしならせた。


「うぐっあああぁああッッ!!」


大蛇(だいじゃ)尻尾(しっぽ)にまともに腹部(ふくぶ)強打(きょうだ)されたロジオンは、その反動(はんどう)大聖堂(だいせいどう)(はし)から(はし)へと(はじ)()ばされていた。


(こえ)もなく壁面(へきめん)全身(ぜんしん)()ちつける。


亀裂(きれつ)(はし)り、(かべ)身体(からだ)がめりこむほど(はげ)しい衝撃(しょうげき)だった。


急降下(きゅうこうか)して地面(じめん)落下(らっか)したロジオンは、そのまま(いきお)いあまって(ゆか)(ころ)がった。


「いっ……()ぅ……」


苦痛(くつう)をこらえてうずくまったままの(かれ)を、寸断(すんだん)なく(やみ)魔法(まほう)(おそ)った。


『……フォーチュン・タブレット第二篇(だいにへん)(みず)魔法円(まほうえん)


水鏡(みかがみ)のように()(かえ)()障壁(しょうへき)! 】


だが、かろうじて魔力(まりょく)がほんの(すこ)しだけ(のこ)されていた。


わずかに(はや)くロジオンが詠唱(えいしょう)していた呪文(じゅもん)発動(はつどう)し、魔法(まほう)攻撃(こうげき)から()(まも)ることに成功(せいこう)した。


(よしっ!)


しかし、即座(そくざ)(つづ)第二波(だいには)が、マティルデによって(はな)たれる。


(うそ)だろっ!?相手(あいて)攻撃(こうげき)(はや)すぎるっ!)


(かれ)応戦(おうせん)しきれず、まともに(じゅつ)()らった。


「──しまった!?」


身体(からだ)宙高(ちゅうたか)()()げられ、そのまま(いきお)いをつけて(ゆか)(たた)きつけられた。


傷口(きずぐち)(しお)()りこむような、卑劣(ひれつ)容赦(ようしゃ)ない攻撃(こうげき)だ。


(……くそっ!身体(からだ)がいうことをきかない……)


「ふふ、そろそろ潮時(しおどき)かしらね……?」


()(ほこ)ったようなマティルデの(こえ)がする。


意識(いしき)混濁(こんだく)する……。このまま混沌(こんとん)(うず)()みこまれてしまうのか?)


自分(じぶん)(はる)かに凌駕(りょうが)する漆黒(しっこく)(やみ)()りこまれそうになり、断念(だんねん)したようにロジオンはまぶたを()じた。


大蛇(だいじゃ)(するど)毒牙(どくが)をむいて威嚇(いかく)する──


これから()()()りかかるであろう激痛(げきつう)想像(そうぞう)し、その(いた)みと恐怖(きょうふ)()えるように緊張(きんちょう)全身(ぜんしん)をこわばらせた。


(……!?……なんとも……ない……?)


(すさ)まじい衝撃(しょうげき)予想(よそう)していたロジオンは、ぼうぜんと(ひとみ)()けた。


すると()(まえ)に、白金(しろがね)毛並(けな)みを逆立(さかだ)てた太陽(たいよう)のような(けもの)()ちはだかっていた。


主君(しゅくん)(まも)るように(たて)となり、大鷲(おおわし)(つばさ)(いさ)ましくはためかせていた。


「──セルフィン!!」


たのもしい姿(すがた)(みと)めて少年(しょうねん)破顔(はがん)すると、うれしそうに使(つか)()()てそう()びかけた。


(あるじ)期待(きたい)(こた)えるように、白金色(しろがねいろ)(けもの)(いさ)ましい雄叫(おたけ)びをあげた。


(くち)から火炎(かえん)(いき)()きながら、二匹(にひき)大蛇(だいじゃ)()かって猛然(もうぜん)()びかかっていった。


「……セルフィン?そんな合成獣(キメラ)ごときに(あに)(おな)名前(なまえ)をつけるなんて、(けが)らわしいにもほどがあるわっ!!」


マティルデがおぞましいとばかりに全身(ぜんしん)総毛立(そうけだ)たせ、反撃(はんげき)姿勢(しせい)()せた。


その(とき)、なんとも()ちがいな能天気(のうてんき)なまでに(あか)るい(こえ)が、大聖堂(だいせいどう)(ひかり)をもたらすように(ひび)きわたった──


()らなかった!セルフィンってお(にい)さんの名前(なまえ)だったのね!!」


大聖堂(だいせいどう)(おく)にある宙二階(ちゅうにかい)()すりに()()り、一人(ひとり)少女(しょうじょ)祭壇(さいだん)見下(みお)ろしている。


「──アナベルッ!?」

        ☆

「ロジオン……!無事(ぶじ)でほんとによかったぁ……」


少女(しょうじょ)純真無垢(じゅんしんむく)(ひとみ)でロジオンを()つめると、(おも)わずこちらが(むね)()めつけられるような笑顔(えがお)をこぼした。


「………アナベル………」


彼女(かのじょ)元気(げんき)そうな姿(すがた)(ひとみ)(うつ)して、(かれ)安堵(あんど)のあまり一瞬泣(いっしゅんな)きそうになった。


しかし、ただちにキッと表情(ひょうじょう)()()めると、(きび)しい口調(くちょう)でこの()()()るよう(つよ)(うった)えた。


「──(きみ)はここにいちゃいけない!(はや)()げるんだ!!」


だが、アナベルは(しず)かに(かぶり)()ると、(くも)りのない()んだ(ひとみ)でロジオンを()つめた。


「あなたの(そば)にいさせて……。(たし)かにそう()ったはずよ。(おぼ)えてないの?」


(いと)しい少年(しょうねん)()いかけると、彼女(かのじょ)(すこ)(さび)しそうに(わら)った。


(きみ)……記憶(きおく)が……?」


自然(しぜん)(こえ)(ふる)えているのが、自分(じぶん)でもよくわかる。


「あなたが(たお)れたショックですべてを(おも)()したわ。もうこんな(かな)しいことはしないで……。約束(やくそく)してくれる?」


ひたむきな視線(しせん)でロジオンを見据(みす)えると、少女(しょうじょ)(だま)ったまま返答(へんとう)()っている。


(きみ)は……(ぼく)封印(ふういん)()(やぶ)るほど、(つよ)(おも)いを(いだ)いてくれていたってことなのか……?だとしたら、(きみ)は……)


その姿(すがた)(こころ)()(うご)かされ、(くち)(ひら)きかけた刹那(せつな)


(くろ)大蛇(だいじゃ)一匹(いっぴき)が、猛然(もうぜん)とアナベルのいる宙二階(ちゅうにかい)()っこんだ。


──(またた)きをする()出来事(できごと)だった。


()見開(みひら)いたロジオンが脱兎(だっと)のごとく()()すのと、アナベルの足場(あしば)不安定(ふあんてい)になり(くず)れはじめるのは、ほぼ同時(どうじ)だった。


「きゃあああぁぁっ!!」


少女(しょうじょ)はバランスを(うしな)って(あし)()(はず)し、そのまま(ちゅう)(ほう)()された。


あわや転落(てんらく)しそうになったアナベルを、疾風(しっぷう)のように()けつけたロジオンが間一髪(かんいっぱつ)両腕(りょううで)(ひろ)げて()きとめた。


「よかった……()()って……」


全力(ぜんりょく)をふり(しぼ)ったのだろう。(かれ)(いき)()()えにつぶやくと、安堵(あんど)したように微笑(ほほえ)んだ。


「どうしていつもこう……、(がけ)っぷちなのよ?あなたといると、(いのち)がいくつあっても()りないわ……」


()めるような言葉(ことば)とはうらはらに、ロジオンを()つめるアナベルの(ひとみ)には大粒(おおつぶ)(なみだ)がたまっていた。


少女(しょうじょ)(むね)(かか)えたまま、その(うる)んだ(ひとみ)()()せられるようにして、(かれ)(さき)ほど()えなかった言葉(ことば)(つづ)きを(くち)にした。


(いま)まで(きみ)(しん)じられなくて、ごめん……。約束(やくそく)する。もう(きみ)(かな)しい()にあわせない」


「ロジオン……」


少年(しょうねん)(やさ)しく介助(かいじょ)しながら、そっとアナベルを(ゆか)()たせた。


乙女(おとめ)(ひとみ)にうっすらと()かんだ(なみだ)(ゆび)でぬぐってやると、少女(しょうじょ)はくすぐったそうにかすかに微笑(ほほえ)んだ。



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