おまけ2 没ネタをさらしてみる(1)

文字数 5,560文字

いそがしくてご無沙汰してしまって、すみません。

前回の更新から20日!も過ぎてしまっていたとは……。いま日付を確認してびっくりしました。月日が過ぎるのは早い。

待ってくださっていた方がいたら、ごめんなさい。

前日譚『フォーチュン・タブレット~prequel~』のほうも、一週間に一回のペースでおそい更新ですが、なんとか6話までこぎつけました。

全9話プラスあとがきの予定です。

のこり3話!よろしかったらお読みください。

        ☆

最近、『ネタ帳』を整理していて。

「ああ、こんなのもあったなぁ……」

とか、もはや私自身も忘れ去っていた設定や、書いたものを思い出しました。

私は浮かんだセリフや場面や設定などを、よくノートやメモに書き留めておくのですが……。

その大半は、ほぼ使われることはありません。

冷静になってみると「こんなセリフ使えたもんじゃない!」と悲鳴をあげたくなるようなものばかりだからです。

まあ、しかし白状すると。

使えたもんじゃないけれどもどうしても使いたくて、無理矢理つかうどころか、その一言のセリフを言わせるためだけに場面を考えたこともあるくらいです……。

ありすぎて、どの場面かも忘れるくらいに。

だとすると、やはりこの小説はそういうボツにちかい無謀なセリフで成り立っているのかもしれません。

というわけで、ボツから新しいネタが浮かぶことはよくあれど、「これはもう使えないな」というものもあるので、そういうボツを何点かさらしてみたいなと思います。

        ☆

最初の没ネタは、たぶん30話あたりに入ったであろう場面から。

本編ではラグシードが元信者の娘から情報を得て、『黒い蛇』のアジトに向かうという展開なのですが。

アナベルが花畑でロジオンを引っぱたいた後、気まずくなってしまったので……。

その仲直りのきっかけとして、彼女が単独で教会に潜入して、アジトの情報を入手してくるという流れだったようです。

いろいろあって没っちゃいましたが……。

        ☆

「なんでこんな勝手(かって)なことをしたんだ!?」


いつにない剣幕(けんまく)でロジオンがアナベルにつめ()ると、彼女(かのじょ)一瞬(いっしゅん)たじろいだようにうっと言葉(ことば)をとぎらせた。


「……『(くろ)(へび)』は異端信仰(いたんしんこう)なんだよ。(やつ)らはまともじゃないんだ……!」


「そんなことわかってるわ……」


「ならなんで、信者(しんじゃ)のふりをして潜入(せんにゅう)するなんて、そんな(あぶ)ないこと……どうしてしようとしたんだ!」


「だってあたし……一日(いちにち)でも(はや)くあなたと仲直(なかなお)りしたくて……だから、だから……」


「だからって危険(きけん)真似(まね)(おか)必要(ひつよう)はなかっただろ!」


ロジオンは彼女(かのじょ)心配(しんぱい)するあまり、言葉(ことば)がきつくなってしまっていた。


その姿(すがた)圧倒(あっとう)されて、アナベルはすこし萎縮(いしゅく)してしまっているようだった。


「……ロジオンの(やく)()ちたかったんだもん。じゃないと……」


あなたは突然(とつぜん)どこかに()ってしまいそうで……と、アナベルは(こころ)(なか)でつぶやいた。


「……二度(にど)とこんなことはしないでくれ。お(ねが)いだ……」


(かれ)彼女(かのじょ)()()せ、無言(むごん)()きしめた。


(はじ)めてロジオンの(むね)()きしめられて、アナベルはせつなさのあまり()きそうになった。


そして(かれ)への(あつ)(おも)いが、身体中(からだじゅう)をあふれていっきに()()けてゆくような(かん)じにおそわれた。


「……(ぼく)はね、大切(たいせつ)(ひと)(うしな)っているんだ。連中(れんちゅう)仕業(しわざ)でね」


(……大切(たいせつ)なひと……?それは家族(かぞく)なのかしら?それとも恋人(こいびと)……?) 


アナベルの胸中(きょうちゅう)複雑(ふくざつ)(おも)いがよぎる。


「だから心配(しんぱい)したんだよ。(きみ)がいなくなったって()いて、(きみ)にもし(まん)(いち)のことがあったらって想像(そうぞう)しただけで……」


ロジオンは()()()いたような(かお)身震(みぶる)いすると、


不安(ふあん)でしょうがなかった。(ぼく)がすこし過敏(かびん)になりすぎてるのかもしれないけど……」


「もっと心配(しんぱい)させたいな」


ふいに(うで)のなかの少女(しょうじょ)から、不謹慎(ふきんしん)ともとれる発言(はつげん)()()した。


ロジオンはすこし狼狽(ろうばい)しながらも、彼女(かのじょ)をたしなめるように言葉(ことば)をつむいだ。


「それは冗談(じょうだん)()っているの?」


「──ごめん。(おこ)った?」


(おこ)っちゃいないけど──」


そう()ったっきり()(だま)った(かれ)表情(ひょうじょう)は、ほんのり(あか)らんでいるようにも()えた。


(アナベル、(きみ)不思議(ふしぎ)女性(じょせい)だ。でも二度(にど)危険(きけん)なことはしないでくれ。じゃないと(ぼく)は……)

        ☆

なんとも中途半端なところで途切れてますが、ネタ帳もここで止まっています。

ボツ理由は、たぶん『黒い蛇』の集会に参加する場面を書くのが億劫だったのでしょう。

でも、読み返してみるとこの展開もありだったかなと思ったりして。

次の没ネタは初めてのキスシーン後?の描写らしい……。ネタ帳見るまでまったく記憶にありませんでした。

        ☆

しかし、(はじ)めてのキスにしてはあまりに性急(せいきゅう)すぎた。


アナベルにとって、それまで大切(たいせつ)(こころ)奥底(おくそこ)(あたた)めていた秘密(ひみつ)(とびら)である。


とつぜんノックされては、()動転(どうてん)するのも無理(むり)はない。


まだ()()れる(こころ)準備(じゅんび)ができていなかったアナベルは、反射的(はんしゃてき)にロジオンを()しのけていた。


「……ごめんなさいっ!!」


一方的(いっぽうてき)()びるとふりむきもせず、アナベルは()()して()った。


(あま)いささやきも効果(こうか)()さず、決死(けっし)のキスすら(こば)まれた(かれ)は、ぼうぜんと(ちい)さくなってゆく後姿(うしろすがた)見送(みおく)っていた。


勇気(ゆうき)をふりしぼって、行動(こうどう)(うつ)した結果(けっか)がこれとは……。


脳裏(のうり)によみがえるのは、相棒(あいぼう)意地悪(いじわる)(こえ)


『おまえは()きでもない(おんな)()かれて、好意(こうい)をもった(おんな)には()かれない。まったく(のろ)いでもかかってるんじゃねえのか?』


(ほんとにそうだとしたら、未来(みらい)前途多難(ぜんとたなん)だな……)

        ☆

いや、これは覚えてなかった。勇気を出したもののアナベルに拒まれるバージョン。ちょっとラブコメっぽい感じですね。

やっぱり初キスはシリアスにしたかったんでしょうね。というわけで没。

次の没ネタは、街でアナベルがジェラールと一緒に馬車に乗りこんだのを目撃して、恋人なのだと誤解したあと、屋敷で彼女と再会したときの没バージョンです。

        ☆

「……あたし、『エレプシアの乙女(おとめ)』に立候補(りっこうほ)してもいいかなぁ……」


「ほ、ほんとに……!?」


「うん!」


そう()って微笑(ほほえ)んだアナベルの姿(すがた)が、瞬時(しゅんじ)になまなましく脳裏(のうり)によみがえってきた。


まるで、つっかえ(ぼう)がなんの心構(こころがま)えもなく、とつぜん(はず)されたみたいだった。


不意打(ふいう)ちを()らったように()()けた表情(ひょうじょう)で、(かれ)(あめ)()たれ()ちつくしていた。


(……アナベルの……(うそ)つき……)


(こころ)のなかで何度(なんど)反芻(はんすう)する。


(『エレプシアの乙女(おとめ)』になりたいだって?それは(ぼく)の……すなわち恋人(こいびと)になってもいいってことだ。それなのに……あの(おとこ)はなんだ?あんなに(した)しそうに(うで)まで()んで……。キャスリンさんが()ってた友人(ゆうじん)っていうのは(かれ)のことなんだろう。どうせ……!)


石畳(いしだたみ)唾棄(だき)してやりたいような気分(きぶん)で、ロジオンは(はげ)しく路地(ろじ)(かべ)にもたれかかった。


屋根(やね)(した)身体(からだ)をあずけるものの、容赦(ようしゃ)なく()きつける雨風(あまかぜ)全身(ぜんしん)ずぶ()れだ。


(かる)はずみで()った言葉(ことば)(まど)わされるなんて……。彼女(かのじょ)彼女(かのじょ)だ。恋人(こいびと)がいるくせに(おも)わせぶりな態度(たいど)をとったりして。でも一番(いちばん)(おろ)かなのは、(うそ)見抜(みぬ)けなかったこの(ぼく)か……)


屋敷(やしき)()くなり、玄関(げんかん)ホールでアナベルと鉢合(はちあ)わせした。


「おかえりなさい!」


(かがや)くような笑顔(えがお)だ。


この笑顔(えがお)自分(じぶん)がだまされていたのだと(おも)うと、ロジオンは(むね)がはりさけそうになった。


「ごめんよ。いきなり契約(けいやく)(せま)ったりして、さぞかし迷惑(めいわく)だったんだろうね」


たまらずロジオンは早急(そうきゅう)に、用件(ようけん)()()した。


迷惑(めいわく)って……(ちから)になりたいから、あたし……」


「いいよ。それ以上言(いじょうい)わないで。(いま)(きみ)じゃ(かり)儀式(ぎしき)(おこな)ったとしても、失敗(しっぱい)する確率(かくりつ)のほうが(たか)い」


「……そんなっ!!」


「みすみす失敗(しっぱい)したくもないからね。ほかの(ひと)をさがすよ……。だから……これ以上僕(いじょうぼく)につきまとわないでくれ」


あぜんとしてアナベルがその()()ちつくしていると、まるで最後通告(さいごつうこく)をつきつけるかのように(かれ)()った。


「すぐに屋敷(やしき)()きはらうから。もう(きみ)(まえ)にはあらわれない」


つめたく()(はな)すような物言(ものい)いで、少年(しょうねん)はろくに自分(じぶん)のほうを()ようともしない。


「そんな()(かた)って、あんまりだよ……ひどすぎる……」


あからさまにロジオンから()けられている。


突然(とつぜん)心変(こころが)わりについてゆけず、アナベルは(きゅう)にひとりぼっちになったような気持(きも)ちでたたずんでいた。

        ☆

ロジオンがけっこう冷たい……。そして嫉妬深い描写が目立ちますね。

そして微妙に話の流れも今とはちがうようです。

これも書いたのぜんぜん覚えてない。没理由は前後の展開が変わっちゃったからではないかと。

お次はまるごと削ったリームのタロット占いの場面。

本やネットを参考にしながら書いたのですが、なんか解釈に自信がもてずに削除。ほんとは入れたかったのですが。

タロットの意味や解釈については、大目にみてくださいね~。

        ☆

()きな(ひと)のことを()りたいって(おも)うのが、そんなにいけないこと?」


アナベルが真顔(まがお)でつめよると、リームはあきれ(がお)()った。


「あなたはきっと、(かれ)(かく)された真実(しんじつ)()りたいだけなのよ。まぁ、悪気(わるぎ)はないんでしょうから、(かれ)のこと(うらな)ってあげてもいいけど」


エルフの(うらな)()はやれやれといった(かん)じで、ふだんは極端(きょくたん)(おも)(こし)()かせた。


「ほんと!ありがとう、リーム!!」


感激(かんげき)したようすで、アナベルが(はず)んだ(こえ)をあげる。


「いろんな(うらな)(かた)があるけど、今日(きょう)はタロットカードを()いて(うらな)ってみましょう」


対面式(たいめんしき)のテーブルの(うえ)に、神秘的(しんぴてき)図柄(ずがら)のタロットカードが()かれた。


「……はじめるわね」


カードを裏向(うらむ)きのままシャッフルして、最終的(さいしゅうてき)十枚(じゅうまい)のカードをアナベルに()いてもらい、リームは()いた順番(じゅんばん)彼女(かのじょ)(まえ)にならべた。


「まずは一枚目(いちまいめ)のカード。『女教皇(おんなきょうこう)』の正位置(せいいち)ね。ロジオン(くん)現在(げんざい)状況(じょうきょう)(しめ)すわ」


一呼吸置(ひとこきゅうお)いてつづける。


周囲(しゅうい)への遠慮(えんりょ)から、自分(じぶん)(ころ)して感情(かんじょう)抑制(よくせい)しているわ。仲間(なかま)(たよ)らず自分一人(じぶんひとり)解決(かいけつ)しようとしてる。ちょっと薄情(はくじょう)自分(じぶん)から素直(すなお)愛情表現(あいじょうひょうげん)はしなさそうね。おまけにこらえ(しょう)もなくなってるから、(なに)するかわからないわ」


アナベルはなにか(おも)()たるふしがあるのか、神妙(しんみょう)(かお)をして()()っている。


二枚目(にまいめ)のカードは、()(まえ)(せま)っている障壁(しょうへき)意味(いみ)するわ。『隠者(いんじゃ)』の逆位置(ぎゃくいち)(しず)かに孤独(こどく)のなかにいる(かん)じ。自分(じぶん)()えるくらいなら一人(ひとり)のほうがいいって。でも(だれ)にも(こころ)(ひら)けないと、結局(けっきょく)孤独(こどく)のままなにも()わらないわ……」


「………………」


三枚目(さんまいめ)(かれ)運命(うんめい)……。『法王(ほうおう)』の逆位置(ぎゃくいち)。このままだと自信(じしん)をなくして(まえ)(すす)むことを(おそ)れ、ためらうあまり逃避(とうひ)するかも」


様子(ようす)をうかがうためにちらりとアナベルに視線(しせん)をうつすと、少女(しょうじょ)(ひざ)のうえでこぶしをにぎりしめていた。


くちびるは深刻(しんこく)そうに()(むす)ばれている。


四枚目(よんまいめ)(とお)過去(かこ)現在(げんざい)まで影響力(えいきょうりょく)をおよぼしている重大(じゅうだい)過去(かこ)事件(じけん)をあらわすわ」


リームは慎重(しんちょう)()つきでカードをめくった。


「……『運命(うんめい)()』の逆位置(ぎゃくいち)(かれ)(かみ)恩寵(おんちょう)()ける宿命(しゅくめい)にあり、幸運(こううん)(めぐ)まれているわ。でも、その(ちから)(つよ)すぎるせいで不運(ふうん)にも見舞(みま)われているみたいね」


「………………」


「それで五枚目(ごまいめ)なんだけど、最近生(さいきんしょう)じたか、現在(げんざい)まで(つづ)いている事件(じけん)は……『(つき)』の正位置(せいいち)


ごくりと(のど)()らして、(うらな)()緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちで言葉(ことば)をしぼりだした。


(かれ)秘密(ひみつ)(かか)えているわ。そのせいで危険(きけん)がせまっている。まちがった判断(はんだん)(くだ)して(わる)計略(けいりゃく)にはまってだまされるかも……!用心(ようじん)して警戒(けいかい)しないといけないわ」


アナベルの(かお)心配(しんぱい)になるくらいに()(さお)(あお)ざめていた。


「だ、だいじょうぶよ。たかが(うらな)いなんだもの。そんなに(おも)いつめた(かお)しないでよ、ね?」


「だって……。リームの(うらな)いっていつも、いいことより(わる)いことのほうが()たるんだもの……」


「そ、そうかしら……?ちゃんと(よろこ)びの報告(ほうこく)をしてくれるお客様(きゃくさま)もいるわよ?」


いぶかしげな表情(ひょうじょう)のアナベルをよそに、リームはさっさと(つぎ)のカードをめくろうとする。


「とりあえず六枚目(ろくまいめ)は……(ちか)将来(しょうらい)暗示(あんじ)するカードなんだけど……」


(おも)わず一瞬(いっしゅん)無言(むごん)になってしまったリームは、()まずそうに言葉(ことば)をつむいだ。


「よりによってこのカードが()るなんて……『(とう)』の正位置(せいいち)過去(かこ)因縁(いんねん)()(がね)悲惨(ひさん)事件(じけん)()きる暗示(あんじ)……。(かれ)逆境(ぎゃっきょう)()たされてる。このままでは(わる)いかたちで終局(しゅうきょく)をむかえることになってしまうわ……」


ショックを()けたアナベルは、無言(むごん)(いきお)いよく(せき)()ちあがった。


「これはただの(うらな)いだから……って、ちょっとアナベル!?」


リームが()めるのも()かずに、少女(しょうじょ)(うらな)いの(やかた)()()していった。


「まだ最後(さいご)まで(うらな)ってないっていうのに……!最後(さいご)まで()かないであの()ったら……」


しょうがないとため(いき)をついたあと、リームは(のこ)りの四枚(よんまい)のカードを順番(じゅんばん)にめくっていった。


「すべてのカードが(みちび)最終結果(さいしゅうけっか)は……」


()をかたく()じて(いの)りをこめると、彼女(かのじょ)(おも)いきって最後(さいご)一枚(いちまい)をめくった。


「……『(ほし)』の正位置(せいいち)未来(みらい)にむかって(こころ)準備(じゅんび)をしなくちゃいけないわね。最大(さいだい)困難(こんなん)(かれ)()()けている。でも、それをくぐり()けたときあなたが()にするものは……」

        ☆

 ……『希望』って続くんですけど、そこまで書くかで悩んだようです。

当時だったら『希望』ってはっきり書いちゃったと思うんですが、いまだと書かないで中途半端なまま終わらせると思います。

なんか占いは一生懸命考えた記憶があるので、懐かしいネタでした。没理由はやはり解釈に自信がなかったにつきますね。

誰かタロットにくわしい方が監修してくだされば別ですが、自分はまったくの占いド素人なので、小説に書くには勇気がいりました。

というわけで没。
ここでネタとしてさらせて苦労が報われた感じです。

とっくに五千字超えちゃってました。長いのですみませんが、ここらへんで一区切りします。



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