4.少年魔法使いはかの地に降り立つ

文字数 1,403文字




ウィンディア大陸(たいりく)南西部(なんせいぶ)位置(いち)するアトゥーアンの波止場(はとば)に、(かれ)らは意気揚々(いきようよう)()()った。


「やっぱり(みやこ)空気(くうき)は、活気(かっき)があっていいなぁ」


あふれんばかりの自由(じゆう)謳歌(おうか)するように、両腕(りょううで)をぐっと(ひろ)げて(おお)きく()びをすると、気持(きも)ちよさそうにその若者(わかもの)()った。


()(ひかり)()らされて金色(きんいろ)(かがや)(みじか)めの(かみ)と、湖面(こめん)()けて()えるほどに()んだ(あお)(ひとみ)


しなやかな肢体(したい)()(ぬし)は、美少年(びしょうねん)といっても遜色(そんしょく)ない風貌(ふうぼう)をしていた。


(なが)(もの)にしてはどことなく(あま)顔立(かおだ)ちで、(すこ)しイヤミなくらい(そだ)ちは()さそうだった。


とはいえ、どうやら自分(じぶん)のことに無頓着(むとんちゃく)なのだろう。(かみ)はややほったらかしにした(かん)じが(のこ)っている。


愛着(あいちゃく)があるのかないのかわからない、着古(きふる)した印象(いんしょう)のある魔法衣(まほうい)()()け、(そこ)()ったブーツを()きつぶしていた。


上等(じょうとう)衣服(いふく)旅埃(りょじん)まみれにして()にもとめないような、なんとなく子供(こども)っぽさが()けきらないところがあった。


十七歳(じゅうななさい)になった(かれ)は、()をロジオンという。


(ひとみ)とおなじ(いろ)(あお)いマントを羽織(はお)り、一風変(いっぷうか)わった魔法石(まほうせき)がついているほかは、これといってとりえのない魔法(まほう)(つえ)背負(せお)っている。


(かれ)はこう()えても、由緒(ゆいしょ)ある魔法使(まほうつか)いなのだ。


そのとき、(かたわ)らに()っていた青年(せいねん)が、景気(けいき)よくバシッと少年(しょうねん)背中(せなか)をたたいた。


(ひさ)しぶりの(みやこ)だ。ちょっとは羽伸(はねの)ばそうぜ、ロジオン」


傭兵風(ようへいふう)()なりをした()(たか)(おとこ)は、()をラグシードという。


襟足(えりあし)まで()ばした黒髪(くろかみ)を、颯爽(さっそう)(かぜ)になびかせ、健康(けんこう)そうな(しろ)()()せて(わら)った。


さきほどの少年(しょうねん)より、やや大人(おとな)っぽい(かれ)十九歳(じゅうきゅうさい)


いかにも旅人(たびびと)といったような、陽気(ようき)奔放(ほんぽう)雰囲気(ふんいき)(はな)っている。


その琥珀色(こはくいろ)双眸(そうぼう)には、放浪者特有(ほうろうしゃとくゆう)色気(いろけ)があった。


()っからの楽天家(らくてんか)なのか、老若男女(ろうにゃくなんにょ)から好感(こうかん)をもたれる快活(かいかつ)空気(くうき)(ただよ)わせている。


(ぞく)にいう世渡(よわた)上手(じょうず)(ひと)あしらいはお()のものなのだ。


しかし、人に欠点(けってん)はつきものである。


(かれ)(きら)われることがあるとすれば、それは奔放(ほんぽう)さからくるときに辛辣(しんらつ)言動(げんどう)と、無類(むるい)(おんな)たらしであるという(てん)だろうか。


だが、女性(じょせい)手玉(てだま)にとったつもりが(だま)されて、手痛(ていた)いしっぺ(がえ)しを(こうむ)ることも(すく)なくはない。


そのあたりの(つめ)(あま)さが、この青年(せいねん)(にく)めないものにしていた。


そんなわけで(かれ)らは、まだ成熟(せいじゅく)しきっていない少年(しょうねん)時代(じだい)名残(なご)りを()きずったまま………。


ようやく大人(おとな)階段(かいだん)(のぼ)りはじめた、というところだった。


「まだ(しお)(かお)りがする………(うみ)(ちか)いんだな」


運河(うんが)をまたぐ桟橋(さんばし)(わた)りながら、(かぜ)()って(はこ)ばれてくる潮風(しおかぜ)(にお)いにロジオンは新鮮 (しんせん)感動(かんどう)(おぼ)えた。


近隣諸国(きんりんしょこく)との交流(こうりゅう)(さか)んな商業都市(しょうぎょうとし)アトゥーアン。


この(みやこ)はおもに(ふる)くから、貿易(ぼうえき)交通(こうつう)要衝(ようしょう)として(さか)えた、文化水準(ぶんかすいじゅん)(たか)都市(とし)である。


(まち)外周(がいしゅう)には、大型客船(おおがたきゃくせん)停泊(ていはく)できるほどの広大(こうだい)運河(うんが)がめぐらされている。


その水路(すいろ)中心街(ちゅうしんがい)にまで()きこみ、商業(しょうぎょう)観光(かんこう)発展(はってん)させたこの(みやこ)は、風光明媚(ふうこうめいび)水上都市(すいじょうとし)として世界(せかい)でも名高(なだか)い。


「この(まち)のどこかでめぐり()えればいいんだけどな………」


これまでの旅路(たびじ)(おも)(かえ)して、ロジオンはため(いき)まじりにつぶやいていた。


自分(じぶん)人生(じんせい)(おお)きく()えるかもしれない『ある人物(じんぶつ)』との出逢(であ)い。


それを()(のぞ)んで、二年(にねん)ちかくの歳月(さいげつ)をかけて各地(かくち)放浪(ほうろう)して(ある)いたが、いっこうに(さが)()すことすらかなわなかった。


だが、こうして快晴(かいせい)(そら)(した)、アトゥーアンの都入(みやこい)りを()たした(かれ)は、運命的(うんめいてき)ななにかが(うご)()すような胸騒(むなさわ)ぎがした。


それはおそらく、希望(きぼう)予兆(よちょう)とでもいうものだろうか。



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