24.路地裏バトル!ロジオンVS『黒い蛇』の暗殺集団

文字数 2,895文字




「──()て!()げるなっ!!」


(おとこ)突然(とつぜん)、うばった(ふくろ)をいとも無造作(むぞうさ)背後(はいご)(ほう)()げると、(こし)装着(そうちゃく)したダガーをみせつけるかのように()(はな)った。


そのまま猛然(もうぜん)とロジオンに(おそ)いかかってくる──!!


しかしそんな行動(こうどう)は、こちらではすでに予測済(よそくず)みである。


とっさに籠手(こて)(やいば)衝撃(しょうげき)()()め、(ちから)()()られぬうちに()いた()素早(すばや)(けん)()き、相手(あいて)脇腹(わきばら)()()した。


どうっと(はげ)しい(おと)()てて、暗殺者(あんさつしゃ)石畳(いしだたみ)(うえ)(たお)れる。


ほっとしたのもつかの()、ふり(かえ)ると二人(ふたり)三人組(さんにんぐみ)(おとこ)退路(たいろ)をふさがれていた。


(──しまった!(かこ)まれた──。うかつだった。僕一人(ぼくひとり)ならともかく、アナベルが一緒(いっしょ)なのに!)


ラグシードから東街(ひがしまち)殺人事件(さつじんじけん)多発(たはつ)していると(みみ)にしたばかりだった。


自分(じぶん)戦闘(せんとう)場数(ばかず)をふんでいるから回避(かいひ)できたものの、普通(ふつう)人間(にんげん)ならばさきほどの襲撃(しゅうげき)(いのち)()としていただろう。


相手(あいて)殺人(さつじん)をためらわない暗殺集団(あんさつしゅうだん)だ。
一瞬(いっしゅん)油断(ゆだん)(いのち)とりになりかねない。


自分(じぶん)軽率(けいそつ)行動(こうどう)で、アナベルを危険(きけん)()きこんでしまった。


ロジオンはおのれの不甲斐(ふがい)なさを(のろ)った。


(アナベル………(きみ)だけは、(いのち)()えても(ぼく)(まも)ってみせる………!)


(てき)三人(さんにん)!──いや、もう一人(ひとり)


さきほど(けん)でつらぬかれながらも、(おとこ)気丈(きじょう)()きあがり体勢(たいせい)(ととの)えてきていた。


全員(ぜんいん)なぜか黒装束(くろしょうぞく)()にまとい、不気味(ぶきみ)雰囲気(ふんいき)(ただよ)わせている。


「──アナベルッ、(ぼく)のそばに!」


一喝(いっかつ)すると彼女(かのじょ)(うで)をつかみ、(かたわ)らに()()せた。とたんに周囲(しゅうい)緊迫(きんぱく)した空気(くうき)がはりつめる。


『フォーチュン・タブレット第三篇(だいさんぺん)大地(だいち)魔法円(まほうえん)


(さき)仕掛(しか)けたのは、もちろんロジオンのほうだった。


(あや)しく(ひか)魔法石(まほうせき)のロッドを大地(だいち)()()てると、(かれ)渾身(こんしん)(さけ)びが空気(くうき)(ふる)わせ(ひび)きわたった。


黒土(こくど)()るがす大地(だいち)円環(えんかん)! 】


(かれ)()っている場所(ばしょ)から円心状(えんしんじょう)大地(だいち)亀裂(きれつ)(はし)り、たちまち石畳(いしだたみ)()れて陥没(かんぼつ)し、(おとこ)たちは足場(あしば)(うしな)ってバランスをくずし転倒(てんとう)した。


そのすきにロジオンは一足跳(いっそくと)びに相手(あいて)(ふところ)()びこむと、(けん)をふりかざし(はやぶさ)のような俊敏(しゅんびん)さで次々(つぎつぎ)()りつけていった。


その見事(みごと)(けん)さばきに見惚(みと)れていると、アナベルの背後(はいご)黒装束(くろしょうぞく)(おとこ)がゆらりと()ちあがった。


「アナベルッ!(あぶ)ないっ!?」


少女(しょうじょ)はその(こえ)即座(そくざ)反応(はんのう)すると、ふり()きざま(あし)(たか)くあげて、かかとでダガーを()()とし、ついでに(てき)のみぞおちに素早(すばや)手刀(しゅとう)をお見舞(みま)いした。


(うご)きやすい服装(ふくそう)正解(せいかい)!」


(つづ)けてスカートの(した)(かく)していた護身用(ごしんよう)のナイフを()()すと、ロジオンの背後(はいご)めがけて(おも)いっきり()げつけた。


(かれ)(おそ)いかかろうとしていた(おとこ)が、うめき(ごえ)をあげて(まえ)のめりに(たお)れる。


ナイフは(てき)脇腹(わきばら)貫通(かんつう)していた。


「──お見事(みごと)!」


ロジオンが賞賛(しょうさん)(こえ)をかけると、彼女(かのじょ)はワンピースの(すそ)をはためかせ、(かれ)にウインクを(おく)って()こした。


自分(じぶん)()けてはいられない。


『フォーチュン・タブレット第一篇(だいいっぺん)(ほのお)魔法円(まほうえん)


呪文(じゅもん)詠唱(えいしょう)をとだえさせないように()(くば)りつつ、右手(みぎて)方角(ほうがく)から(おそ)いかかってきた(やいば)(けん)()(なが)し、左方向(ひだりほうこう)(てき)(どう)にロッドを(はげ)しく(たた)きつけて(さけ)んだ。


罪人(つみびと)(きざ)赤熱(せきねつ)烙印(らくいん)! 】


(つえ)先端(せんたん)発生(はっせい)した火炎(かえん)のかたまりが(てき)()きつくす。


それを()てひるんだもう一方(いっぽう)(てき)にも、高熱(こうねつ)をたもったロッドで(なぐ)りかかると、脳天(のうてん)命中(めいちゅう)して意識(いしき)(うしな)(たお)れた。


(きみ)(すぐ)れた武術(ぶじゅつ)のたしなみがあるとは(おも)わなかったよ」


脱帽(だつぼう)したとばかりに(かた)をすくめてロジオンが()うと、


物騒(ぶっそう)()(なか)だから、自分(じぶん)()くらい(まも)れなくちゃいけない。っていうのが()()家訓(かくん)なの。あなたのすすめる(とお)り、このワンピースを()てきてよかったわ」


アナベルはスカートの(すそ)優雅(ゆうが)につまむと、(かる)会釈(えしゃく)してみせた。


周囲(しゅうい)にすでに(てき)気配(けはい)はない。


「どうにか撃退(げきたい)したわね」


仁王立(におうだ)ちのまま、満足(まんぞく)そうにアナベルがつぶやいたそのとき──


「──()せてっ!」


とつぜんロジオンが()びかかってくると、彼女(かのじょ)地面(じめん)()(たお)した。


まるで空気(くうき)()()るような(するど)(おと)二人(ふたり)頭上(ずじょう)をかすめると、その刹那(せつな)鼓膜(こまく)(やぶ)れそうなほど(すさ)まじい轟音(ごうおん)がとどろいた。


茫然(ぼうぜん)としてふり(かえ)ると、背後(はいご)にあったはずの建物(たてもの)跡形(あとかた)もなく消滅(しょうめつ)している。


その残骸(ざんがい)砂塵(さじん)となって、(かぜ)()って(はこ)ばれていった。


()げるよ!」


(うば)われた荷物(にもつ)瓦礫(がれき)(やま)から()っぱりだすと、いまだ放心状態(ほうしんじょうたい)のアナベルに()きなおり(はげ)しく(かた)をゆさぶる。


どうやら(あし)がすくんでしまって(うご)けないようだ。


(いま)正気(しょうき)(もど)すだけの時間(じかん)がないと判断(はんだん)したロジオンは、ひと(おも)いにアナベルを()きかかえた。


「きゃうっ!?」


(おも)いがけず少年(しょうねん)(うで)にきつく()()せられ、動揺(どうよう)のあまりあられもない悲鳴(ひめい)がのどをついて()ていた。


おたがいにぴったりと身体(からだ)密着(みっちゃく)しているためか、細身(ほそみ)だがほどよく()()まった体躯(たいく)(とお)して(かれ)体温(たいおん)(かん)じられる。


その(あつ)抱擁力(ほうようりょく)にきゅんと(むね)がうずいた。


(あったかい………。あたしは(いま)ロジオンの(うで)(なか)にいるんだ………)


(あこが)れの王子様(おうじさま)()かれている現状(げんじょう)甘受(かんじゅ)して、(こい)する乙女(おとめ)(しあわ)せの絶頂(ぜっちょう)にいた。


ばくばくと波打(なみう)心臓(しんぞう)鼓動(こどう)相手(あいて)にも(つた)わってしまいそうで、()()かない気分(きぶん)になった。


(めまいを()こしそうだわ。(ゆめ)にまで()童話(どうわ)のお姫様(ひめさま)にでもなったみたい………)


非常時(ひじょうじ)にも(かか)わらず乙女(おとめ)空想(くうそう)()いしれていたアナベルは、夢見心地(ゆめみごこち)のままロジオンの(むね)(かお)をうずめた。


凛々(りり)しい横顔(よこがお)でロジオンは天空(てんくう)見上(みあ)げると、召喚魔法(しょうかんまほう)言葉(ことば)をほとばしらせた。


(そら)王者(おうじゃ)として君臨(くんりん)する白金(しろがね)使(つか)()よ!勇猛(ゆうもう)なる(なんじ)()はセルフィン、()がしもべとなりて(そら)大地(だいち)境界線(きょうかいせん)(むす)べ!』


どこからともなく(あるじ)(こえ)()きつけて、大鷲(おおわし)(ちゅう)滑空(かっくう)して地面(じめん)()()りた。


その姿(すがた)光輝(ひかりかがや)くと瞬時(しゅんじ)天翔(あまか)ける合成獣(キメラ)変化(へんか)して、白金色(しろがねいろ)のたくましい身体(からだ)とたてがみを(ほこ)らしげに主君(しゅくん)にしめした。


そくざにアナベルを()(すわ)らせると、俊敏(しゅんびん)(うご)きで自分(じぶん)(けもの)()()った。


「セルフィン!(ぼく)たちを安全(あんぜん)場所(ばしょ)へと(みちび)いてくれ」


親愛(しんあい)なる(しろ)合成獣(キメラ)(ねが)いを(たく)すと、大きな(つばさ)(またた)()(そら)()けのぼっていった。

        ☆

そのころ、眼光鋭(がんこうするど)くロジオンたちの姿(すがた)()(くろ)人影(ひとかげ)は、気配(けはい)(ころ)して屋根(やね)軒下(のきした)にひそんでいた。


貧民窟(ひんみんくつ)からは、もうもうと(けむり)があがっていた。


(さず)かったばかりの武器(ぶき)威力(いりょく)(ため)してみたのだが、おおむね想像通(そうぞうどお)りといったところだろうか。


青年(せいねん)()はムスタイン。


細身(ほそみ)長身(ちょうしん)(からだ)には不釣(ふつ)りあいの童顔(どうがん)で、うっすらと()みをうかべた表情(しょうじょう)には、まだ少年(しょうねん)のあどけなさが(のこ)っている。


(くちびる)からわずかにのぞいた犬歯(けんし)は、平然(へいぜん)(にく)()らう野生動物(やせいどうぶつ)のように、(かれ)()()けた残酷(ざんこく)さを象徴(しょうちょう)していた。


さきほどの襲撃者(しゅうげきしゃ)たちより上質(じょうしつ)(くろ)装束(しょうぞく)には、大蛇(だいじゃ)(きざ)まれた青銅色(せいどういろ)記章(きしょう)(むね)(かざ)り、(にぶ)(かがや)きを(はな)っている。


「やれやれ、遅刻(ちこく)はするもんじゃないね。逃亡(とうぼう)した獲物(えもの)(そら)(うえ)か………」


ロジオンを()せた合成獣(キメラ)天高(てんたか)(とお)ざかってゆくのを見送(みおく)ると、鴉色(からすいろ)黒髪(くろかみ)(かぜ)にさらし(かた)から()だるげにため(いき)をついた。 


(いま)さらリューシカ()ぶのもめんどうだし、これ以上(いじょう)追跡(ついせき)野暮(やぼ)か。とはいえ不戦敗(ふせんぱい)したみたいで、気分悪(きぶんわり)ぃな………」


ムスタインは皮肉(ひにく)っぽく(くちびる)をゆがめてそう()()てると、(またた)()にその()から姿(すがた)()した。



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