8.魔法でバトル!

文字数 1,511文字




「………いい()だから、()()いて」


警戒(けいかい)をおこたらない姿勢(しせい)(たも)ちながらも、ロジオンは合成獣(キメラ)()()つめ、さとすように(やさ)しくそう(こえ)をかけた。


ほんの一瞬(いっしゅん)だが(けもの)()感情(かんじょう)でゆらめいたような()がした。


「しょせん(けもの)言葉(ことば)なんてわかりゃしねえよ」


()びかけるだけムダだとばかりにラグシードが一蹴(いっしゅう)すると、威嚇 (いかく)するように咆哮(ほうこう)した猛獣(もうじゅう)が、家具(かぐ)をなぎ(たお)しながら突進(とっしん)してきた。


(しょうがない。不本意(ふほんい)だけどここは魔法(まほう)対処(たいしょ)するしかないか)


(ふか)いため(いき)をつくとロジオンは、慎重(しんちょう)にロッドをかまえ魔法書(まほうしょ)一文(いちぶん)をそらんじる。


『フォーチュン・タブレット第一篇(だいいっぺん)(ほのお)魔法円(まほうえん)


たちまち足許(あしもと)(ほのお)魔法円(まほうえん)(うか)()がり、その(いきお)いを()て、呪文(じゅもん)詠唱(えいしょう)()(はな)つ。


罪人(つみびと)(きざ)赤熱(せきねつ)烙印(らくいん)! 】


(ほのお)(かたまり)がみごとなまっ(しろ)体毛(たいもう)引火(いんか)し、灼熱地獄(しゃくねつじごく)へと(さそ)いこむ。


しかし、(けもの)周囲(しゅうい)空気(くうき)(ふる)わせるほどの咆哮(ほうこう)とともに、(みずか)らを()きつくそうと(おそ)いくる(ほのお)瞬時(しゅんじ)にふりはらい消滅(しょうめつ)させた。


「やっぱこの程度(ていど)呪文(じゅもん)じゃ()()たないか………」


深刻(しんこく)そうな横顔(よこがお)でつぶやいているうちにも、(けもの)(たお)れている家具(かぐ)などの障害物(しょうがいぶつ)軽々(かるがる)()()えて、敏捷(びんしょう)(ゆか)()って(ちゅう)()う。


「シリアスぶってるとこ(わる)いが、おまえがケチな魔法(まほう)しか使(つか)わんから、よけいに(おこ)らせちまったみたいだぜ。すみやかに始末(しまつ)できなかったせいでこのざまだ!」


土壇場(どたんば)で人をこき()ろす言葉(ことば)しか()かばないなんて、(きみ)にはおもいやりが欠落(けつらく)してるっていう証拠(しょうこ)だね。(すこ)しは天罰(てんばつ)でも()らえばいいんだ!」


とびっきりの皮肉(ひにく)をこめて、冗談半分(じょうだんはんぶん)口走(くちばし)ったセリフだったのだが………。


猛獣(もうじゅう)攻撃(こうげき)間一髪(かんいっぱつ)でかわすと、合成獣(キメラ)はロジオンたちがいたテーブルに(からだ)ごと()っこんだ。


そこには事件(じけん)()こる(まえ)食卓(しょくたく)光景(こうけい)が、奇跡的(きせきてき)にもそのまま(たも)たれていたのだ。


──数秒前(すうびょうまえ)までには。


「くっそー!(おれ)(にく)丸焼(まるや)きが………。好物(こうぶつ)だから最後(さいご)までとっておいたのに!」


(かみ)(さば)きか面白(おもしろ)いように天罰(てんばつ)(くだ)り、うめき(ごえ)をあげてラグシードが(あたま)(かか)えこんだ。


「ざまみろとか(おも)ってるだろ?」


「いやあ、()きなものから最初(さいしょ)()べちゃう主義(しゅぎ)でよかったなぁと」


予想(よそう)どおりというべきか、ロジオンからは()()れとしたさわやかな笑顔(えがお)(かえ)ってきた。


「チッ」と口惜(くや)しそうに、ラグシードが舌打(したう)ちする。


そのあいだにも合成獣(キメラ)体勢(たいせい)()てなおし、こちらに()かってくる意欲満々(いよくまんまん)である。


すでに店内(てんない)には(かれ)以外(いがい)人間(にんげん)はいない。


「これで安心(あんしん)して(あば)れられるな」


(にく)(うば)われた(うら)みもあってか、ラグシードはこぶしの関節(かんせつ)()らし、憎々(にくにく)しげに()(はな)った。


「それにしてもあやまって(ころ)しちゃったら、あとで損害賠償(そんがいばいしょう)とか請求(せいきゅう)されないかな?」


「この()におよんでそんなこと()ってる場合(ばあい)かよ!?」


ラグシードの叱責(しっせき)()ぶ。


「こんな余裕(よゆう)のない状況(じょうきょう)で、手加減(てかげん)できるかどうか、まだ自信(じしん)がないんだよ………」


長旅(ながたび)貧乏性(びんぼうしょう)ゆえかロジオンは(そだ)ちに似合(にあ)わず、(かね)がからむと(おも)わずおよび(ごし)になってしまうのだった。


「とはいえ、まだ未完成(みかんせい)魔法(まほう)だけど、(ひさ)しぶりに使(つか)ってみるか!」


自分(じぶん)景気(けいき)づけるように、ばちんっと(ほお)()のひらでたたく。


「あれ、やるのか?」


との()いかけにロジオンは真面目(まじめ)(かお)でうなずくと、


失敗(しっぱい)したらサポートよろしく」


とぎこちない笑顔(えがお)をはりつかせて援護(えんご)(もと)めた。


「それはどうかな。愛想(あいそう)つかした(おれ)がトンズラしないですむように(いの)ってるぜ!どっちかっていうと、その確率(かくりつ)のほうが(たか)そうだけどな」


たのみの(つな)のラグシードからは、なんとも薄情(はくじょう)(こた)えが(かえ)ってきた。


しかし、つきあいの(なが)いロジオンはすでに()れっこになっている。


ふざけ半分(はんぶん)のかけあいの成果(せいか)か、不思議(ふしぎ)緊張(きんちょう)はほぐれていた。


「じゃあ、(はじ)めるよ………援護(えんご)、たのむ」



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