64.フォルトナの魔法円

文字数 2,651文字




最後(さいご)(わる)あがきでも(はじ)めるつもり?勝敗(しょうはい)()()いているのに……(おろ)かな()ね」


寸隙(すんげき)をぬってマティルデの(やみ)触手(しょくしゅ)が、間断(かんだん)なく二人(ふたり)(おそ)いかかる。


それをことごとく魔法(まほう)結界(けっかい)(はじ)(かえ)す。


結界(けっかい)(こわ)される(まえ)に、(いそ)いで契約(けいやく)を!」


「どうすればいいの!?」


「──簡単(かんたん)なことさ。(ぼく)(すく)女神(めがみ)は『(きみ)』だけなんだから……」


ロジオンは少女(しょうじょ)(まえ)(こうべ)()れてひざまずくと、彼女(かのじょ)(くつ)片足(かたあし)だけそっと()がせた。


魔法円(まほうえん)(ひかり)(つつ)まれた二人(ふたり)は、一瞬(いっしゅん)(とき)(わす)れたように()つめ()った──



深遠(しんえん)なるフォルトナの(みちび)きに感謝(かんしゃ)します。

 (なんじ)(はな)(せい)エレプシアの乙女(おとめ)に、

 永久(とわ)忠誠(ちゅうせい)(ちか)う。

 この()をささげて貴女(あなた)(たて)となり、

 (あい)(あい)される(よろこ)びを(かて)に、

 (みずか)らの宿命(しゅくめい)をまっとうすることを……』



乙女(おとめ)守護(しゅご)(ちか)い】()てるとその神聖(しんせい)なる(あかし)として、アナベルの片足(かたあし)(いつく)しむように(つつ)みこむ。


やがて(かれ)(ひとみ)()じ、真心(まごころ)をこめて少女(しょうじょ)素足(すあし)接吻(せっぷん)した。


「この()(ちり)になっても(きみ)(まも)るよ。だから(ぼく)見守(みまも)っていて……」


(またた)()少女(しょうじょ)(あし)(こう)に、(ちょう)刻印(こくいん)()きあがった。


ロジオンの(ひとみ)希望(きぼう)(ひかり)がみなぎった──


その刻印(こくいん)はやわらかな薄紫色(うすむらさきいろ)発光(はっこう)して、少年(しょうねん)繊細(せんさい)花弁(かべん)色彩(しきさい)想起(そうき)させた。


「エレプシア……別名(べつめい)、『群胡蝶(むれこちょう)』。(ぼく)一族(いちぞく)象徴(しょうちょう)であり、魔法(まほう)原動力(げんどうりょく)となる(はな)(せい)契約(けいやく)成功(せいこう)したことで、(きみ)偉大(いだい)なるフォルトナの恩恵(おんけい)(さず)かった」


(かぎ)りなく()(とお)った(あお)()少女(しょうじょ)()つめると、そのまなざしの(なか)に、ロジオンはこらえきれないくらいの愛情(あいじょう)信頼(しんらい)をこめた。


(きみ)協力(きょうりょく)してくれれば、(ぼく)魔法力(まほうりょく)増幅(ぞうふく)することができるんだ。これからの呪文(じゅもん)はぶっつけ本番(ほんばん)だけど、きっと(きみ)なら(ぼく)援護(えんご)できる」


「なんだか光栄(こうえい)だわ……!偉大(いだい)なる魔法使(まほうつか)いさま、あなたにお(ちから)(さず)けます」


エレプシアの乙女(おとめ)無邪気(むじゃき)(はな)精霊(せいれい)らしく、(はじ)けるような笑顔(えがお)()かべお辞儀(じぎ)した。


教主(きょうしゅ)(うつく)しい身体(からだ)をのけぞらせると、見下(みくだ)すように(みにく)(かお)をゆがめて哄笑(こうしょう)した。


「その小娘(こむすめ)契約(けいやく)(むす)んだんですって?あなたたち親子(おやこ)(かみ)にすがれる唯一(ゆいいつ)魔法(まほう)……。使用(しよう)してぶざまに()(うしな)って(たお)れるがいいさ。祭壇(さいだん)にささげる手間(てま)(はぶ)けるというもの」


「……あなたはもう、(ぼく)()ってるあなたじゃない」


底知(そこし)れぬ絶望(ぜつぼう)()めたまなざしで、(かれ)はかつて義母(ぎぼ)であった(おんな)()つめ(かえ)した。


忌々(いまいま)しいその()()()がするほど(にく)らしいあの(おんな)にそっっっくりだわ!!(ころ)せるものなら(ころ)してみなさい!」


(ころ)しはしない──。(ぼく)自分(じぶん)過去(かこ)決着(けっちゃく)をつけるだけだ。義母(かあ)さんを悪霊(あくりょう)から()(はな)ってみせる!すべてを()わらせるためにね」


「そんな奇跡(きせき)みたいなこと()こるはずがないわ。あなたの祖先(そせん)はたとえ契約(けいやく)()わしても、ことごとく(じゅつ)制御(せいぎょ)失敗(しっぱい)してるのよ。それを(くつがえ)すだけの自信(じしん)があるっていうの?」


(ため)すような教主(きょうしゅ)視線(しせん)をまっすぐに()けとめ()(かえ)すと、(かれ)(こころ)(そこ)から()きあがってくる(おも)いの(たけ)を、ことさら()()めるようにつぶやいた。


奇跡(きせき)か……。()こそうと(おも)わなければ()こらない。まして、(あきら)めたら絶対(ぜったい)奇跡(きせき)()こらない。ぶっ(たお)れようがやってやる!(ぼく)絶対(ぜったい)(あきら)めない。その(さき)(みち)があると、(いま)ならわかるから……」


ありったけの(ちから)極限(きょくげん)まで()りしぼり、(ひたい)魔法力(まほうりょく)集中(しゅうちゅう)させる。


『───フォーチュン・タブレット秘儀篇(ひぎへん)・フォルトナの魔法円(まほうえん)


二人(ふたり)()みしめる大地(だいち)に、翠色(みどりいろ)軌跡(きせき)(えが)いた魔法円(まほうえん)神秘的(しんぴてき)(かがや)()した。


「さぁ、時間(じかん)だよ。アナベル、(ぼく)(ちから)()して」


力強(ちからづよ)くうなずく少女(しょうじょ)()()り、二人(ふたり)(たが)いに双方(そうほう)()(にぎ)りしめた。


しっとりと(あせ)ばんだ()のひらから緊張(きんちょう)(つた)わってくる。


大丈夫(だいじょうぶ)よと(はげ)ますように、アナベルはそっと(にぎ)(かえ)した。


(ありがとう……アナベル。(いま)ここに()っていられるのは(きみ)のおかげだ。(きみ)(まも)るために(ぼく)はたたかう。それが(ぼく)()きる(ほこ)りだから……)


ロジオンの胸許(むなもと)翠玉(すいぎょく)首飾(くびかざ)りが(あわ)翠色(みどりいろ)発光(はっこう)し、(なが)(ぼし)のように(またた)いた。



(ほし)恩恵(おんけい)受諾(じゅだく)せし(もの)ここに(いの)

 (すぐ)れた叡智(えいち)幸運(こううん)(みちび)結晶(けっしょう)のかけら

 (われ)のもとへ(つど)恩寵(おんちょう)(あた)えたまえ

 (わざわ)いを退(しりぞ)憤怒(ふんぬ)(しず)めるフォルトナの(ちから)

 星屑(ほしくず)魔法円(まほうえん)(きざ)んで此処(ここ)()りそそげ 

 エレプシアの乙女(おとめ)光臨(こうりん)する(とき)

 (ふた)つの(ほし)()となり

 燦然(さんぜん)ときらめく新星群(しんせいぐん)

 (なんじ)らの()()るわすだろう……』



(ほし)軌跡(きせき)(やみ)(ひかり)(みちび)(そら)刻印(こくいん)!!! 】


(すさ)まじいまでの(ひかり)(はしら)集結(しゅうけつ)し、(はる)頭上(ずじょう)(ささ)える天井(てんじょう)()(やぶ)った。


地底(ちてい)暗闇(くらやみ)()らす(つき)宙空(ちゅうくう)(ただよ)い。


()みきった大気(たいき)に、満天(まんてん)星空(ほしぞら)(かお)をのぞかせた。


呪文(じゅもん)呼応(こおう)するように星明(ほしあ)かりがまばゆい閃光(せんこう)(はな)つ。


その膨大(ぼうだい)光線(こうせん)は、(かれ)左手(ひだりて)集約(しゅうやく)すると精彩(せいさい)(はな)った。


そして、みるみるうちに神々(こうごう)しい(ひかり)(まと)(けん)(ほし)()(もの)《スターチェイサー》 】姿(すがた)()えた。


『これが……フォルトナの(ちから)……。【 (ほし)()(もの)《スターチェイサー》!! 】』


『フォーチュン・タブレット』記述(きじゅつ)によると、フォルトナが(ほし)(しずく)となって地上(ちじょう)()()りたとされるとき──


(かれ)(した)って()いかけてきた(わか)星々(ほしぼし)……その新星群(しんせいぐん)がこの(けん)(みなもと)だと(つた)えられている。


(かみ)領域(りょういき)()にして、畏怖(いふ)するように少年(しょうねん)瞳孔(どうこう)見開(みひら)いた。


この代物(しろもの)をまともに(あつか)えるかどうか……わずかに()きあがった疑念(ぎねん)


そこにすらつけこまれ、圧倒的(あっとうてき)(ちから)(まえ)屈服(くっぷく)してしまいそうだ。


(かれ)(つよ)意志力(いしりょく)をそそぎこみ、(ふる)える(うで)にぐっと(ちから)をこめた。


漆黒(しっこく)(やみ)()らす星々(ほしぼし)(かがや)きよ……。どうか、義母(かあ)さんの(たましい)(すく)ってくれ……!そしてそのために(ぼく)はどうしたらいいのか……(おし)えてくれ……!」


「──ロジオンッ!!」


アナベルの(こえ)()()けて、(ほし)閃光(せんこう)(はな)(けん)をたずさえた(かれ)()()いた。


今一度(いまいちど)、せつない(ひとみ)(いと)しい乙女(おとめ)姿(すがた)()つめる。


(くちびる)がわずかに(うご)く。


そして(かれ)はもう()(かえ)らなかった。


(……どうか、どうか神様(かみさま)……!(かれ)(まも)って……)


(あい)する少年(しょうねん)無事(ぶじ)(いの)りつつ、(いま)にも()()けそうな(むね)()さえながら、アナベルはその勇姿(ゆうし)(ひとみ)()きつけた。


涙腺(るいせん)(なみだ)であふれて、決壊(けっかい)()こしていた。


まっ(しろ)(ひかり)()めつくされた大聖堂(だいせいどう)を、一人(ひとり)少年(しょうねん)がゆっくりと祭壇(さいだん)()かって(すす)んでゆく。


やがてその姿(すがた)(ひかり)()みこまれて、完全(かんぜん)少女(しょうじょ)視界(しかい)から消失(しょうしつ)した。


義母(かあ)さん……ごめん。(ぼく)にはこの(みち)しか(えら)べない……。できれば(ぼく)(いのち)をささげて、(にい)さんとあなたを(よみがえ)らせたい……!でも、それが不可能(ふかのう)だってことわかってる。ならばせめて(あい)する(ひと)(まも)るため、この(けん)であなたを浄化(じょうか)させてみせる!!!」


(あら)たな(ひかり)()()(やいば)(ほし)()(もの)《スターチェイサー》 】が、教主(きょうしゅ)心臓(しんぞう)深々(ふかぶか)とつらぬいた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み