56.殺るか、殺やられるか……

文字数 2,812文字




「さてと、お()たせして(わる)かったな。奇襲(きしゅう)かけないなんて意外(いがい)紳士(しんし)ぞろいなのか?(くろ)(へび)司教様(しきょうさま)とやらは………」


貴様(きさま)みたいな相手(あいて)姑息(こそく)手段(しゅだん)使(つか)うなど、グロリオーザの司教(しきょう)にとって()ずべきこと。教主様(きょうしゅさま)顔向(かおむ)けができなくなる」


「──ハッ、()くびられたもんだな。それじゃあ一丁(いっちょう)ぶちかまさせてもらうぜ!」


ラグシードは十字架(じゅうじか)(やり)高速(こうそく)回転(かいてん)させながら、サルヴァルに()かって跳躍(ちょうやく)した。


(えん)(えが)いて旋回(せんかい)した(やり)()(さき)が、ターゲットである死霊術師(ネクロマンサー)(はら)貫通(かんつう)した。


ずぶりと(にく)(やいば)がもぐりこんだ手応(てごた)えがあった。サルヴァルの体内(たいない)から大量(たいりょう)出血(しゅっけつ)がほとばしる。


「………フッ」


(こいつ……。深手(ふかで)()いながらも(わら)ってやがるっ!?)


ほくそ()司教(しきょう)(おとこ)にたじろぐと、ラグシードはすかさず()退(すさ)った。


すると(かれ)がそれまでいた空間(くうかん)を、(くさり)につながれた鉄球(フレイル)高速(こうそく)()いでいった。


(おどろ)いて相手(あいて)()ると、(たし)かに()()したはずの傷口(きずぐち)は、瞬時(しゅんじ)復元(ふくげん)してもとの無傷(むきず)姿(すがた)再生(さいせい)していた。


「おまえ!──不死身(ふじみ)かっ!?」


(おも)わず反射的(はんしゃてき)につぶやいてしまった。


(……なんてこった。()ける(しかばね)どころか死霊(ネクロ)術師(マンサー)本人(ほんにん)まで不死(ふし)肉体(にくたい)()(ぬし)とは……)


内心(ないしん)舌打(したう)ちしながら、ラグシードはしたたり()ちる(ひたい)(あせ)をぬぐった。


(やつ)(たお)すには弱点(じゃくてん)()くしかねえが、死霊(しりょう)(けい)のいわゆる常套手段(じょうとうしゅだん)なら頭部(とうぶ)をぶち()くにつきる。しかし(ねら)()ちする(すき)がねえ。できるか……この(おれ)に?)


とっさに背後(はいご)をふり(かえ)ると、リームは心配(しんぱい)そうな(こころ)もとない視線(しせん)(おく)ってくる。


いつも冷静(れいせい)彼女(かのじょ)にはめずらしく、その(ひとみ)(おく)には底知(そこし)れない恐怖(きょうふ)(いろ)()かんでいた。


(……(おれ)がやらなきゃ(だれ)があいつを(まも)るんだ?選択肢(せんたくし)(ふた)つしかない……()るか、()られるかだ……)


「おい、さっきまでの威勢(いせい)のよさは何処(どこ)にいった?……まさか怖気(おじけ)づいたのか?」


硬直(こうちょく)したままのラグシードを(あざけ)るように、サルヴァルは眼鏡(めがね)のフレームを()()げた。


「──んなわけねぇだろ。こっちもそれなり死闘(しとう)くぐり()けてきてるんだ。こんなところで戦意喪失(せんいそうしつ)してたまるかよ!」


雑魚(ざこ)雑魚(ざこ)らしく、最期(さいご)まで愚直(ぐちょく)なままで()るんだな」


「なんだとぉッ!?」


逆上(ぎゃくじょう)したラグシードは、(いきお)いにまかせてサルヴァルに()びかかった。そのまま(やり)頭部(とうぶ)串刺(くしざ)しにしようとする。


しかし、(くろ)(へび)司教(しきょう)は、顔色一(かおいろひと)()えず鉄球(フレイル)()りかざした。


(てつ)(かたまり)(ちゅう)一閃(いっせん)し、銀色(ぎんいろ)(やり)(くさり)巧妙(こうみょう)にからめとる。


「なにくそっ!」


攻撃(こうげき)(ふう)じられ(ちから)()()ろうと(こころ)みるも、サルヴァルの(はな)った念力(ねんりき)によって(かれ)(とお)くに()()ばされた。


(かべ)激突(げきとつ)し、(いわ)崩壊(ほうかい)したような派手(はで)(おと)(ひび)きわたった。


「ラグシードっ………!?」


(おと)のほうに(はし)りかけたリームの()()に、さっそうと司祭(しさい)(おんな)()ちふさがった。


貴女(あなた)相手(あいて)はあたしよ。(かれ)心配(しんぱい)をする(まえ)自分(じぶん)心配(しんぱい)したほうがよさそうよ?」


とつぜん()()こった竜巻(たつまき)によって、(ゆか)()ちていた瓦礫(がれき)()()げられ、つぶてとなりリームめがけていっせいに()りそそいだ。


「きゃあッ!?」


全身(ぜんしん)(はげ)しく強打(きょうだ)されるのと同時(どうじ)に、()()かれるような(いた)みが彼女(かのじょ)(おそ)った。


(しろ)(はだ)()全身(ぜんしん)あざだらけになり、リームは苦悶(くもん)表情(ひょうじょう)()かべた。


それを()(くろ)(へび)(おんな)は、さも愉快(ゆかい)そうに(のど)(おく)をくつくつと()らして(わら)った。


「きれいな身体(からだ)があっという()にずたぼろね。(かれ)愛想(あいそう)つかされるくらいみにくい姿(すがた)貴女(あなた)()いこんであ・げ・る。あたしより(うつく)しい(おんな)正直目(しょうじきめ)ざわりなの。()るのも鬱陶(うっとう)しいわ!」


コーネリアの(いし)(つぶて)が、ふたたび彼女(かのじょ)()びせられようとしていた。


しかしそれより一足先(ひとあしさき)に、リームの呪文(じゅもん)完成(かんせい)していた。


大地(だいち)(つかさど)小人(ノーム)よ!(われ)守護(しゅご)知力(ちりょく)活路(かつろ)見出(みいだ)助力(じょりょく)(あた)えたまえ!!』


分厚(ぶあつ)(つち)(かべ)彼女(かのじょ)(まえ)出現(しゅつげん)し、(いし)(つぶて)をすべて(はじ)(かえ)した。


油断(ゆだん)していたコーネリアが、(みずか)(はな)ったつぶてに(ねら)()ちされて悲鳴(ひめい)をあげる。


大地(だいち)精霊(せいれい)ノームの呪文(じゅもん)(こう)をなして、守護(しゅご)から攻撃(こうげき)(てん)じたのだ。


「──ラグシード!無事(ぶじ)なのっ!?」


不安(ふあん)をつのらせたリームが、後方(こうほう)をふり(かえ)って必死(ひっし)()びかける。


土埃(つちぼこり)()うせいで視界(しかい)はさえぎられ、(とお)くのようすがほとんど()えないのだ。


心配(しんぱい)すんな!さっそく治癒呪文(ちゆじゅもん)世話(せわ)になっちまったが、この(とお)りピンピンしてる。聖職者(せいしょくしゃ)家系(かけい)でよかったと(おも)うのはこういう(とき)くらいだな」

 
(こころ)片隅(かたすみ)()(あん)じてくれたリームに感謝(かんしゃ)しつつ、ラグシードは執拗(しつよう)鉄球(フレイル)攻撃(こうげき)正確(せいかく)見定(みさだ)めて回避(かいひ)すると、相手(あいて)急所(きゅうしょ)めがけて(みずか)らの(やり)をくり()した。


「………残念(ざんねん)。かわされたか」


「こんな小物(こもの)ごときにわずらわされている場合(ばあい)ではないのだがな」


計算(けいさん)(くる)ったか?あいにく(おれ)はしぶといのがとりえでね」


(ロジオン……。(いま)ごろアナベルに遭遇(そうぐう)してるといいんだが……)





(──くそっ!どこにいるんだ!?)


セルフィンを()()って地下通路(ちかつうろ)()()けながら、ロジオンは最深部(さいしんぶ)()かってひたすら全力(ぜんりょく)()(すす)んでいた。


その後方(こうほう)をやや(おく)気味(ぎみ)に、グランシアが()いかけてくる。


通路(つうろ)(かべ)両側(りょうがわ)から(せま)ってくるような、焦燥感(しょうそうかん)(かれ)()()てていた。


(……このままだと、おそらく主祭壇(しゅさいだん)()一直線(いっちょくせん)だ。できれば教主(きょうしゅ)対決(たいけつ)する(まえ)にアナベルを()つけたい……。()(かえ)して(べつ)(みち)(さが)すか?)


ロジオンは自問自答(じもんじとう)すると決断(けつだん)(くだ)し、もと()(みち)(もど)ろうとふり(かえ)った。


そこに(みち)はなかった。
あわてて周囲(しゅうい)()まわす。


いつの()にか(かれ)は、四方(しほう)(かべ)(ふさ)がれた石室(せきしつ)中央(ちゅうおう)にたたずんでいた。


一緒(いっしょ)にいたはずのグランシアとセルフィンの姿(すがた)()えている。


もちろん出口(でぐち)はない。


「……ようやく王子様(おうじさま)のおでましか。いい加減待(かげんま)ちくたびれたぜ、優男(やさおとこ)クン」


背後(はいご)空間(くうかん)からゆらりと姿(すがた)(あらわ)した(おとこ)は、けだるそうに(くび)左右(さゆう)(まわ)した。


(くろ)長髪(ちょうはつ)(うご)きに沿()って(えん)(えが)くようになびいた。


いかにもやる()()さそうなその相貌(そうぼう)に、(かれ)(たし)かに見覚(みおぼ)えがあった。


「おまえは……あの(とき)の……!」


瞬時(しゅんじ)血塗(ちぬ)られた戦慄(せんりつ)光景(こうけい)がよみがえってきて、ロジオンは憤怒(ふんぬ)()(ふる)わせた。


「ムスタインさ。(にく)(てき)名前(なまえ)くらい(おぼ)えろよ。もっとも記憶(きおく)したところで、顔合(かおあ)わせるのはこれが最後(さいご)だろうけどな」


最後(さいご)だって?……(わる)いけど(ぼく)にはそんな()毛頭(もうとう)ないんだ。教主(きょうしゅ)決着(けっちゃく)をつけるまで、()()微塵(みじん)もないッ!!」


(ゆか)()って(たか)跳躍(ちょうやく)すると、()()(けん)()りかざしてムスタインを()(ぷた)つに両断(りょうだん)した。


()()てたかに()えたが、それは残像(ざんぞう)だった。


相変(あいか)わらず空間移動(くうかんいどう)がお得意(とくい)なことで」


ロジオンはふり()きざま皮肉(ひにく)()った。
だが、瞬時(しゅんじ)(かれ)(かお)(こお)りついた。


(おれ)得意(とくい)なのはそれだけじゃねえ……。相手(あいて)(よわ)みにつけこむことって項目(こうもく)も、ついでにもう(ひと)(くわ)えてやってくれよな」


パチンという(ゆび)()らした合図(あいず)とともに、石室(せきしつ)(おく)にそれまで(ゆが)んでいて()えなかった空間(くうかん)があらわになった。


ムスタインの背後(はいご)に、およそ(ひと)背丈(せたけ)()えるほどの結界(けっかい)()られていた。


透明(とうめい)(おり)ともいえるその(なか)()じこめられていたのは………。


「──アナベルッ!?」



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