おまけ21 青春なんて皆無だった?もてない作者が描く『恋愛』ボツネタ3選!

文字数 4,818文字

「いつ死ぬかわからないから、言えるうちに言っとくよ」

一拍置いてから、少年は真顔でささやいた。

「………アナベル、君を愛してる」

        ☆

意外と、作中ではっきり言ってなかったりするのでは……??

もはや確認するために読み返すのはめんどうだ。ともかく、展開上ボツになった告白のセリフにあたります。

直球ストレート!って感じの王道の告白です。でも、シンプルにそういうのが心に響くような。

        ☆

(女の子の指って、細くてきれいだな……)

金の指輪を少女のすらりと伸びた指先に通そうとして、少年は緊張のあまり指輪を落としてしまった。

ロジオンの手元から弾き飛んだ指輪は、空中に放物線を描きながら一瞬きらりと光を反射して、勢いよく噴水の中に落下した。

ぽちゃんとちいさな水音が響く。

あわてふためいて噴水の縁から水面をのぞきこむと、色もかたちも豊富な金貨や銀貨が底にしずんでいた。

観光客が訪れて縁起かつぎに投げ入れられたのだろう。大小さまざまな硬貨が波紋ごしにゆらいで見える。

ざっと見渡してみても、落とした指輪は簡単には見つかりそうになかった。

その時である。隣りにいたアナベルがなにを思ったか、履いていた革のブーツを勢いよく脱ぎ捨てた。

「お、おい……。ちょっ、アナベルなにを──!?」

ロジオンが止める間もなく、ワンピースの裾を膝の上までまくると噴水の中に入ってしまった。

なにごとかと周囲の注目を浴びながらも、衆人の視線は気にせずに彼女は必死なようすで水中を探しはじめた。

「ロジオンがせっかくプレゼントしてくれたんだもの──!」

こちらをふり返りもせずに、必死に首を左右に動かしながら水面を探っている。

「いいよ!そこまでして探さなくても……。また、買ってあげるから………」

懐具合が気になるのか、やや尻すぼみになりながらもロジオンが言うと、

「別の指輪じゃだめなの。あのとき一目惚れした指輪を、あなたはあたしのためにプレゼントしてくれた……。だから、あの指輪と同じものは、世界のどこにも売ってないのよ」

すがすがしいほどに真摯な表情で、彼女はロジオンを見つめてきっぱりと言った。

そうしてアナベルはふたたび指輪の捜索をはじめた。

初夏の陽射しが二人を照らし出した──

「………僕もさがすよ」

そう言って腕をまくってから、少年もまたブーツを脱いで裾をまくり噴水の縁を乗りこえた。

ひんやりとした水の感触が脚に伝わってくる。彼もまた水中に目を走らせて懸命に指輪をさがした。

「──あった!見つけたわ、ロジオン!!」

遠くから歓喜の呼び声があがって、彼がそちらの方角をふり返ると──

手のひらにのせた金の指輪を大事そうに見つめながら、輝くような笑顔をうかべるアナベルの姿があった。

(こんなにも女の子がまぶしいものだなんて、感じたことなかったんだ………)

少年は少女の姿に心を射抜かれ、しばらく彫像のようにその場に立ちつくしていた。

        ☆

これもまた初々しい文章になります。本来ならば、21話『初デート!彼女はガールフレンド?』に入れる予定だった話です。

この場面は入れたかったのに、単純に入れ忘れてしまった部分だったりします。

完全なるミステイク!!

いまさらだけど小説本文に入れられないかな……?

ちょっと試行錯誤してみようかなとも思うくらい、なんか地味に気に入ってるシーンだったりします。

今の文章の雰囲気がくずれないようなら、いつかひっそりと付け加えるかもしれないです。

        ☆

「初めて逢ったときから、狙ってた──」

「………あなたのお眼鏡にかなうなんて、光栄だわ」

冗談とも皮肉ともとれるような調子で、リームは自嘲気味にラグシードにむかって微笑んだ。

「そうやってはぐらかして、また逃げるつもりか?」

ラグシードは熱を帯びたまなざしで彼女を見つめた。逃がさないという気迫が青年から伝わってきて、困惑したリームはおもわず視線を反らした。

勝算があると踏んだラグシードは、そのまま荒々しくリームの腕をつかんで引きとめた。

「ずいぶんと強引なのね………」

「身持ちの固い女は、押しが強くていい加減な男に弱い………ちがうか?」

唇がうごいて甘いささやきを彼女に告げた。琥珀色の双眸がひたと獲物を見据えて、狙いをさだめようとしている。

標的となった娘は、豹変した青年の態度にかすかに息を飲んだ。一瞬たじろいだようにも見えたが、果敢にもひるまずに相手のまなざしを受け止めた。

「………はずれ。とは言わないわ。でもね………」

するっと身をひるがえすと魔法が働いたかのように、彼女は優雅な仕草でラグシードの腕を自然にふりほどいた。

「逃げるのがうまいんだな」

「──それはあなたもでしょ?」

おたがいに苦笑いする。張りつめていた二人の間に、一瞬だけ穏やかな空気が流れた。

「リーム………」

「───────」

「どうしてそんなに、俺のことを遠ざけようとするんだ?」

少しだけ寂しそうに青年がつぶやく。

なごんだ空気の合間をぬって、ふいに発せられたその問いかけに──。彼女はふっと眉をくもらせた。

「あなたのことを占わなければよかった。過去の女性たちを知らなければ、夢を見れたかもしれないのに………」

心の底からため息をついて、娘は若葉のように濡れた瞳で青年の顔を見つめた。彼は気圧されたようになって、なにも言い返すことができなかった。

「わるいけど一夜かぎりの相手だったら、ほかを当たってちょうだい」

彼に背を向けてリームが言い放つと、重い音を立てながら館の扉が閉まった。

エルフの娘は閉ざされた扉の奥に消えた。ラグシードは名残惜しそうに扉を見つめたが、二度と開く気配はなかった。

(やれやれ、ずいぶんと気難しい女に熱をあげちまったみたいだな、俺は──)

肩を落とすと青年は、無言で踵をかえした。
やがて、夜道を独りで歩きはじめた──

        ☆

なぜ、ボツにしたか全然思いだせない!二人らしい会話なので、採用してもよかったのでは?といまさら思う。

ただ書いてる当時は加減がわからず(今もよくわからないけど……)、ちょっときわどい場面なような気がして入れるのをやめたのかもしれない。

とはいえ、リームがなぜラグシードを敬遠しているのか……?の核心に迫ってる部分でもあるので、本当に入れなかったことが悔やまれる。

きっとロジオンとアナベルの恋愛模様を描くことに、いっぱいいっぱいでラグシードとリームのほうにまで気が回らなかったのでしょう。

あのころは第二部以降の展開も、そんなに考えてなかったでしょうし。

まさかこの二人がこんなに出張ってくるようになるとは、思ってもいなかったにちがいない。

やっぱり長編小説を書いてるとこのように、小さいけど重要なネタを入れ逃すというミスをしでかすのですよ。

仮に入れるとするならば、どこの場面に追加したらいいのだろう……?

いまさらおそいけど。いや、強引にどこかに入れてみるのもアリだったりして。

        ☆

彼におそれ慄きながらも必死につくそうとする。献身的なアナベルの姿はいっそう可憐で、うるわしく煽情的ですらあった。

「あたしにもあなたの重荷を背負わせてほしいの………。なにか手伝わせて。あたしでよかったらなんでも力になるわ」

愛してやまない少女に見つめられ、ロジオンはふいに狂おしいような感覚に襲われた。

だが──

「………君に何ができるっていうの?」

少年は戸惑いの色をうかべて、少女の言葉に静かに牙をむいた。

本心ではアナベルの言葉に、激しく心を揺さぶられていたのにもかかわらず──

「僕は死にに行くつもりでいるんだよ。これは本気さ。どっちみち放っておいたって僕は呪文に搾取されて死ぬんだ」

──まるで空っぽの器のような、虚ろな瞳。

生への執着を捨て去ったあきらめの境地なのか、少年の顔には深刻なまでの絶望の色がにじんでいた。

「そんな酷いこと………。いったい誰に吹きこまれたの!?」

「自分でそう感じてるだけさ。最近、日毎におもう………。いつ死んでもおかしくないって。いま生きてるのが不思議なくらいさ」

「だからって、そんな投げやりになっててもいいの?」

「──君に、僕のなにがわかるっていうんだ!」

「………わからないわよ。わからないから、あなたに聞いてるんじゃない。ちゃんと答えを返してよ?あたしにくらい、心をひらいてくれたっていいじゃない………」

「心をひらく………か。それで君はなにが望みなの?僕が洗いざらい心の内をぶちまけて、なんの得になるっていうの?教えてくれないか──?」

たそがれを背にうけて、彼女は熱っぽくささやいた。

「………好き………なの。ロジオンのことが好き………」

愕然としたようすで、少年は目を見開いたまま立ちつくしていた。

「………だから、知りたいの。あなたがなにを考えて、感じて、いまここにいるのか──。もっと、あなたのことが知りたい。だから、あたしにおしえて?あなたのことを………」

どくどくと心臓が、まるで鼓膜に突き刺さるように妖しくうごめいている。

(いまさら知ってどうにかなるもんじゃない。人のこころだなんて………)

激しい動揺を抑えながらロジオンは自身を顧みると、冷静に自分をいさめようとぎりぎりの所で踏みとどまっていた。

だが、それまで極限ともいえる抑圧を強いられていた感情が、いまごろになって芽吹きはじめていた。

(ああ、でも、僕は──君のことが──)

出逢って以来、彼女のことがなぜか頭を離れなかった。少女の面影が鮮明に焼きついて、なかなか眠れない夜もあった。

最初はそれがなにを意味するのかわからなかった。いや、知りたくなかっただけなのかもしれない。

打ちのめされるように実感したのは、ほんとうにごく最近のことだ。

──それが恋だと。

気づくと衝動的に彼女を抱きしめていた──

「………ロジ……オン………?」

とぎれとぎれになった少女の声を近くで耳にしながら、そのまま腰を引き寄せて白い首筋に顔をうずめた。

(──好きだよ。僕も君のことが──)

声にならない想いを伝えるために、少年は少女の顔を上向かせると深いくちづけを交わした。

瞳を閉じた二人のあいだで刹那、吐息が混じりあう。ロジオンに肩を抱かれ、アナベルはその身をゆだねた。

「………アナベル………震えてるの?」

少女は陶酔の最中にあって、意識が朦朧としたまま舌がうまく回らないようだった。

「僕がこわい………?」

彼の真摯な問いかけに、彼女はかすかにかぶりをふった。

「僕はこわいよ………。君は僕のこころをかき乱す」

        ☆

以上!『恋愛ボツネタ』でした!

なんとコメントすればいいのか………。
お恥ずかしいかぎりであります。うん。

たぶん、今とは設定や話の流れがだいぶちがってしまったために、ボツになった告白シーンになります。

長いこと封印されていました。青臭いから。

ちなみに今回いろいろ書き足してしまいました。そのままじゃあまりにシンプルだったからです。

でも、厨二なやりとりはほぼそのままですよ?

とはいえ、若いっていいよな。
ほんとに最近、肌身にしみてそう感じるのです。

自分は若い時にすべきことを、なんかいろいろとやり残してしまったなという苦い後悔があるので。

青春なんてものは、自分には皆無だったなと。

まあ、その悔いみたいなものが、自分に文章を書かせてるのかなとも思うのですが。

        ☆

次回はたぶん、ドレスアップしたドールたちがお目見えすると思われます。

エッセイや活動報告でも語ってますが、フィギュア用の洋服を6体ぶん新調したので。それをお披露目できればいいなぁと。

子供のころ、人形の着せかえ遊びが大好きだったのが、いい大人になった今でも続行しているという………。

これは病だな。もはや──

少女時代に執着するのはおやめなさいなと、心の声を聞くときはしばしばあるけれど。

たぶん、自分は死ぬまで少女の心を棄てられないんだろうな、ともはやあきらめています。



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