おまけ27 ありふれた日常に埋没するバッドエンド(ミニ座談会もあるよ!)

文字数 3,708文字




さて、続きになります!

50話 『彼はあなたのことが好きだったのよ』からの分岐になります。

このあたりの話はちょうど物語の上でもターニングポイントというか、別のルートに入りやすいのでアナザーエンドを作りやすいですね。

        ☆

果たしてあんなに好きだった人のことを、こうもあっさりと忘れ去れるものだろうか?リームは深刻そうな顔で思案した。

それほどまでに『エンシェント・ルーン』の力は絶大であり、アナベルの記憶を封印することができたのだろう。

だが──このままにはしておけない。

A 記憶をとり戻させる
B 記憶が戻らないほうが幸せだ

──Bを選択

それにしても人間の身でありながら、古代の秘法を操るロジオンという男は、いったい何者なのだろうか。

アナベルによると彼は、いにしえの魔法の民・フォルトナの末裔だというが──

リームはこれまでにも幾度か、その一族の名を耳にしたことはあった。

だが、永遠ともいえる歳月を生きる彼女ですら、フォルトナの民に出逢ったことは一度もなかった。

(すごい魔法使いだって、アナベルが興奮したようにくり返してたけど……まさか、これほどとはね……)

驚嘆に値する空恐ろしい能力だと、エルフの娘は直感した。おそらく判断をあやまったら、ろくなことにならない類の──

下手をすると彼は無自覚なままに、魔法使いとして手に負えない領域にまで達しているのかもしれない。

そんな人間を愛するということは、危険をともなう旅路に、無謀にも足を踏み入れることに他ならない。

恵まれた富豪の家に育った少女に、『愛』だけを拠り所にするような心もとない生き方は、果たして耐えられるものだろうか……。

冒険という名の苦難に満ちた道を、棘だらけの過酷ないばらの道を、血を流しながらそれでも歩まなければならない。

(そんな辛い目にあうくらいだったら、このまま記憶がもどらないほうが、アナベルにとって幸せなんじゃないかしら……?)

話を聞くかぎりロジオンというその少年は、アナベルを天にも舞い上がらせることもできれば、逆に地に堕とすこともできるような気がした。

時として愛する者は、幸福と不幸を両手にたずさえて現れるのだ──

彼女はふとはるか昔に亡くなった恋人のことを思い出した。遠い記憶のはずなのに、生生しいほどの胸を刺す痛みが、まるで昨日のことのように甦ってくる。

この記憶は永久にうしなわれることはない。
それと同時に埋まることもない。
それほどまでに空虚な──

アナベルには自分と同じ苦しみを味わってほしくはなかった。傷つくことを怖れて回避することは、過剰な防衛本能ゆえにだろうか。

(私は臆病すぎる?──ううん、そんなことはない──)

人を愛するという喜びの代償は、おどろくほど高くつく。それでも人は愛することをやめられないのだから。

(愚かすぎるわね)

ふと、彼女の脳裏をとある青年の姿が過ぎった。陽気でお調子者で女好き……おそらく不誠実きわまりない男だ。

だが、もし彼女がもう一度、誰かを愛することができるならば──おそらく彼のような……?

独り静かにリームは頭をふった。

(──忘れよう。忘れてしまおう)

ここで強制的に幕を引くことが、おそらく親友の、そして自らのためになるのだ──。奇妙な使命感にも似た感情が、ふつふつと彼女の胸の内にわいてきた。

やがてせわしない日常が、日々の暮らしのくり返しが、彼らの存在を薄めて忘れさせてくれるだろう。

そうして特別になるはずだった大切な人は、とおい記憶の片隅に容赦なく追いやられるのだ。

アナベルの記憶のなかで愛する彼は、今やただの客人となり、時を待たずして見知らぬ少年となり果てるのだろう。

放っておいても記憶はあいまいになり、しだいに風化してゆくのだ──

「──リーム」

一瞬にして友の呼ぶ声に反応して、夢うつつのような状態から舞い戻ってきた。

「……どうしたの?さっきからぼんやりしちゃって……?」

心配そうな表情をうかべ、アナベルが若葉色をしたエルフの瞳をのぞきこんだ。

「──なんでもないのよ。ほんとうに──」

内心では動揺していたが、彼女は感情をできるだけ押し殺して、見て見ないふりをした。

そして親友の肩をぎゅっと強く抱くようにして、言った。

「──もう、必要以上に人を愛して苦しむことないのよ。わたしたち──」

真に迫ったその台詞に、少女はただあぜんとするばかりだった。

その時とっくにアナベルは、愛する苦しみから解放されていたのだから。

記憶をうしなった彼女にとって、ロジオンという人物はすでにありふれた旅人にすぎない。

(アナベルはもう、決別しているのね……愛する彼の手によって……)

どこか打ちのめされたように、しんみりとした気分に陥りながらも、エルフの娘は決意を固めた。

(あいつはたまたま通りすがった──。ただの旅人だったのよ)

想いを振り切るように立ちあがると、彼女は真っ先にバルコニーに通じる窓を閉ざした。

とたんに吹きすさぶ風の音が止んだ──

迷いが薄らぐように遠ざかってゆくのを感じた。そして、むしろ晴れやかな気分にさえなった。

(──そうよ。普段の日常にもどろう。あの平穏で退屈きわまりない日常に──)

激しく傷つくことのない代わりに、胸をざわつかせてときめかせることもない。彼らなんていなかった、ありふれた日常に……。

最後にラグシードの姿がもう一度だけ、脳裏に呼び覚まされた。胸の奥が少しだけチクッと痛んだ。だが、それだけだった。

彼女は青年の顔を思い起こさなくてもすむように、丹念に頭のなかで黒く塗りつぶした。

        ☆

──書き終えてみて、自分でもなんだか「怖えよっ!」って思ってしまった。

今まで読んだ海外ミステリーとか、昔の洋画とかの影響を受けてると思うけど。

それらが具体的にどんな作品だったか、もう忘れてしまって混沌としてます。記憶なんてあやふやで不確かなものなんだわ……。

にしても、バッドエンドによって一人称だったり三人称だったりして、メチャクチャですね。

なんとなくその内容にあっている文章をえらんだ結果、そうなったのですが。素人がすなる文章なのでゆるしてやってください。

さて、完全なる蛇足ですが、このバッドエンドの先がどうなったかというのも、実はうっすら考えてまして。

恋愛して傷つくことを怖れるあまり、リームが自分の世界に閉じこもる決断をしたことで、物語の運命の歯車も変わります。

彼女が水晶球で占うこともせず、バルコニーの扉を閉ざしたことにより、気まぐれなムスタインは興をそがれて、アナベルをさらわずに立ち去ってしまいます。

このことによりアナベルの記憶はうしなわれたまま。大聖堂に現れることもなく、フォルトナの契約は結ばれません。

さらに、さらわれたアナベルを追って、地下都市にリームが駆けつけることもなく……。

『フォルトナの魔法円』を完成することができず、ロジオンは教主に敗れて生け贄にされ、ラグシードも司教との戦いであえなく絶命。

二人とも見殺しにする。
究極の鬱エンドともいえます。

なにげない選択肢をあやまることで、本人の知らないところで誰かが犠牲になってしまうわけです。

おっかないですね。そういうおっかなさが少しでも描けてればいいんですけど。

しかし、この作品ももとの話を大幅に書きなおしておりまして、ほんとうに書くのがしんどくて難産でした。

ラグシードもリームも、二人とも脇役としてさらりと書くことには適任なのですが、メインに据えるととたんに話が行きづまってしまう。

そんなあやういキャラクターなんですが、やはり作者からしても予想外のほうに物語をころがしてくれる。いわば重宝するキャラでもあります。

しかし、『第二部』はラグシード。『番外編2』はリームで話がつんでしまって、続きがまだ書けてないので、ほんとうにやっかいな二人だなと思います(がんばります……)。

        ☆

おまけのミニ座談会(死ぬほどくだらないです……)




☆ 座談会メンバー ☆

ラグシード(以下・ラ)
リーム(以下・リ)


リ 「なんか、疲れちゃった……」

ラ 「お?めずらしく甘えモード??」

リ 「……永遠の命だなんて、もう、うんざり……」

ラ 「そりゃあ、お疲れだな……俺は代われるものなら代わってほしいけど?いいじゃん。死ななくていいなんてさ。しかも若いままだろ?一生遊んで暮らせるじゃん!」

リ 「あなたはいいわね……。バカなうえにお気楽で……。私のほうこそあなたに生まれ変わりたいくらいよ」

ラ 「交換できるものなら、してみたいよな」

リ 「冗談よ。冗談。でも、なんか虚しくなってきちゃって」

ラ 「…………………」

リ 「……死にたい……」

ラ 「──あっそ、死ねば?」

リ 「はあああぁぁぁあっ!?」

ラ 「なにデカい声出してんだよ。耳がおかしくなるだろ?」





リ 「だって、叫ばずにはいられないわよ!ふつうは慰めたりするでしょ!?」

ラ 「そうか?だいたい死にたいなんて公言するヤツで、本気で死ぬヤツ見たことないんだけど……」

リ 「──うっ!」

ラ 「ま、本気だったら俺に声かけてくれよ?死ぬ前に一回、抱かせろよな!」




        ☆

☆ 次回はドール屋敷になります!




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