20.女の子ってめんどくさい?

文字数 3,032文字




(とり)のさえずる(こえ)()こえて、()()ました。


(………もう(あさ)なのか?)


(つか)れていたのか昨晩 (さくばん)(ゆめ)()ずに(どろ)のように(ねむ)った。おかげで身体(からだ)がすこぶる(かる)い。


ロジオンは簡単(かんたん)()がえをすませると、(とびら)()けて廊下(ろうか)()た。


すると………。


「うわっ!?いたのか」


絶妙(ぜつみょう)なタイミングで()かいの(とびら)(ひら)き、まだ(ねむ)そうな(かお)のラグシードが()てきた。


(おどろ)いているロジオンを()ても(どう)じることなく、寝不足(ねぶそく)ゆえにふわあと大きな(なま)あくびをする。


(きみ)もこりないね。また朝帰(あさがえ)りかい?」


()やかすように(こえ)をかけると、ラグシードはめずらしく無反応(むはんのう)だった。


相方(あいかた)不機嫌(ふきげん)なようすを(さっ)すると、ロジオンは(かか)わるまいと退散(たいさん)()めこむことにした。


しかし(てき)背中(せなか)()せたのが(うん)のつき。
すかさず皮肉(ひにく)をこめた応酬(おうしゅう)()びせられた。


「そっちこそ(おれ)目盗(めぬす)んで、お(じょう)さんとイチャついてたんじゃねえの?」


反射的(はんしゃてき)に思わず()()まってしまった。


からかうはずが、からかわれるハメになる。
これじゃあラグシードの(おも)うつぼだ。


冗談(じょうだん)はさておき、今回(こんかい)はうまくいきそうなのか?」


「なんのこと?」


「すっとぼけるなよ。(たび)目的忘(もくてきわす)れてるわけじゃないだろ?エレプシアの乙女候補(おとめこうほ)として、彼女(かのじょ)()きになれそうかって()いてんだよ」


「きっ、昨日出逢(きのうであ)ったばかりなのに、()きとか(きら)いとか判断(はんだん)できないよ!」


出逢(であ)ったその()結婚(けっこん)するカップルだっているんだぜ!(はや)契約(けいやく)すませたいのに悠長(ゆうちょう)なこと()ってられる場合(ばあい)か?(おれ)はてっきり今回(こんかい)ばかりは意欲的(いよくてき)だと解釈(かいしゃく)してたんだがな」


なんとなく言葉(ことば)につまりロジオンは沈黙(ちんもく)した。


「せっかくかわいい()なんだから、もっと親密(しんみつ)関係(かんけい)(きず)くための努力(どりょく)しろよ。()ってるだけじゃ駄目(だめ)ってことさ。


まぁ、見たところ彼女(かのじょ)はずいぶんと積極的(せっきょくてき)だし、おまえに好意(こうい)をもっているのは確実(かくじつ)だ。期待(きたい)できそうじゃないか」


「なんでそう自信満々(じしんまんまん)断言(だんげん)できるんだよっ!?」


()りゃわかるだろ、ここまでくると奥手(おくて)重症(じゅうしょう)だな。でも素直(すなお)にふりまわされてるとこをみると、おまえもまんざらでもないのか?」


すんごい形相(ぎょうそう)(にら)まれてラグシードはとっさに(くち)をつぐんだ。


強烈(きょうれつ)攻撃魔法(こうげきまほう)(ひと)つでも()んできそうだ。


ロジオンはそのまま(きびす)(かえ)すと、さっさと朝食(ちょうしょく)()べにダイニングに()かって(ある)いていってしまった。


(わっかりやすいやつ。恋路(こいじ)のほうは想像(そうぞう)以上(いじょう)(みゃく)ありだな。ってことはいよいよ(はる)到来(とうらい)

この(まち)()いて早々(そうそう)エレプシアの乙女(おとめ)光臨(こうりん)か?いずれにしろ、さい(さき)いいじゃないか。順調(じゅんちょう)(すす)めばこりゃひょっとするかもな)


ふくみ(わら)いしながら(ある)()すと、(かれ)(だれ)()こえるでもなくひゅうと口笛(くちぶえ)()いた。

        ☆

「ねぇ、ロジオン。今日(きょう)なんだけど………これから予定(よてい)はあるの?」


朝食(ちょうしょく)()えると、さっそくアナベルが近寄(ちかよ)ってきた。


(こころ)なしかうっすらとその(ほお)()まっている。


(さき)ほどのラグシードとのやり()りを(おも)()し、どこか意識(いしき)してしまう自分(じぶん)がいた。


油断(ゆだん)すると所作(しょさ)までぎこちなくなってしまう。そんな自分(じぶん)がなんだか鬱陶(うっとう)しかった。


「………(べつ)に。なにもないけど」


()(かく)しなのかなんなのか、(われ)ながら不器用(ぶきよう)だと(おも)いつつぶっきらぼうに(こた)えると、


「………よかった。ちょこっと、つき()ってくれない?」


(なに)に?と()こうとした(とき)にはすでに、(うで)をつかまれ()っぱられていた。


彼女(かのじょ)はそのまま(わた)廊下(ろうか)(とお)()ぎ、(なが)回廊(かいろう)()自室(じしつ)まで(もど)ると、





(すこ)しの(あいだ)ここで()っててね!」


とだけ()げてロジオンを一人廊下(ひとりろうか)(のこ)し、自分(じぶん)部屋(へや)(なか)()っこんでしまった。


(いったいなにをする()なんだ??)


(なが)時間(じかん)だった。


ひょっとすると(みじか)かったのかもしれないが、ロジオンは(おも)わず廊下(ろうか)でうたた()をしてしまいそうになった。


「お・()・た・せ♪これなんてどう?」


とつじょ(はず)んだ(こえ)同時(どうじ)(とびら)(ひら)かれると、くらくらするような(あま)(かお)りとともに、(はな)やかなドレスをまとったアナベルが(あらわ)れた。


薄桃色(ピンクいろ)のシフォン生地(きじ)(うえ)から豪華(ごうか)なレース()がおおっている。


二枚(にまい)布地(ぬのじ)(もち)いたエレガントで可愛(かわい)らしい衣装(いしょう)だ。


(すそ)はふんわりとした優美(ゆうび)曲線(きょくせん)(えが)いて足首(あしくび)まで(ひろ)がっていた。


きゅっと()まったウエストには幅広(はばびろ)(くろ)いリボンが()かれ、魅力的(みりょくてき)なアクセントになっている。


ロジオンがなにも()えずに沈黙(ちんもく)していると、()()らないと判断(はんだん)したのか、アナベルはもう一着(いっちゃく)()()して(かれ)()せた。


「それともこっちのほうがいいかしら?」


「………ど、どっちでも似合(にあ)うんじゃない?」


香水(こうすい)のかけすぎなんじゃないかという疑問(ぎもん)はぐっとのみこんで、少年(しょうねん)戸惑(とまど)いながらも(こえ)をしぼりだした。


しかし、その疑問符(ぎもんふ)(たい)してアナベルはカチンときたようだった。


「だから、どっちがいいか()められないから、より似合(にあ)うほうはどっちかって()いてるんじゃない!」


「なんだ。そういうこと………」


拍子抜(ひょうしぬ)けしたようにロジオンはつぶやいた。


(だったら最初(さいしょ)からそう()けばいいのに………これだから(おんな)()って面倒(めんどう)くさいんだ。()たされるほうの()にもなってくれよ………)


ロジオンは内心(ないしん)(くち)()したら猛反撃(もうはんげき)されそうな不満(ふまん)をぼやきつつも、あらためて冷静(れいせい)にアナベルの姿(すがた)()た。


すると、とたんに(ほお)紅潮(こうちょう)してゆくのが自分(じぶん)でもわかった。


(お色直(いろなお)作戦成功(さくせんせいこう)!ロジオンったらドレス姿(すがた)のあたしに見惚(みと)れてるわ)


自信満々(じしんまんまん)なだけあって、衣装(いしょう)大胆(だいたん)にも背中(せなか)胸元(むなもと)()いたやや(いろ)っぽいデザインだった。


アナベルの露出(ろしゅつ)したきめ(こま)やかな(しろ)(はだ)と、首筋(くびすじ)から鎖骨(さこつ)をたどってさらに(した)(つづ)魅惑的(みわくてき)曲線(きょくせん)に、自然(しぜん)()()()せられて純情(じゅんじょう)(かれ)はあわてて視線(しせん)をそらせた。


(ぼく)としたことが………。まずいな。なんかいろいろと()のやり()(こま)る………)


(おとこ)本音(ほんね)としてうれしくないといったら(うそ)になるが、それはそれ。


外出(がいしゅつ)間中(あいだじゅう)(はじ)まりから()わりまで、視線(しせん)()(どころ)考慮(こうりょ)しなければならないのは正直苦痛(しょうじきくつう)だった。


「………そ、その………綺麗(きれい)だよ。(きみ)似合(にあ)ってる……。でも、さ。今日(きょう)(そと)がほこりっぽいから、せっかくのドレスが(よご)れて台無(だいな)しになってしまうかもしれないよ?」


(かれ)はさりげなく(べつ)衣装(いしょう)()がえるようアナベルをうながした。


「そう?じゃあもっと身軽(みがる)(うご)きやすいワンピースのほうがいいかしら」


アナベルの()いかけに、ロジオンが無言(むごん)でうなずく。


(なにが不服(ふふく)なのかしら?(おとこ)(ひと)って露出(ろしゅつ)(おお)いかわいい(ふく)(この)みなんじゃないの??)


怪訝(けげん)なようすのアナベルをよそに、(かれ)はクローゼットに()かった衣装(いしょう)物色(ぶっしょく)する。


「………そうだね。これなんてどう?」


ロジオンは()()まった衣装(いしょう)をすすめながら、ほっと(むね)をなでおろした。


しかし若干(じゃっかん)()しいような気持(きも)ちがかすめたことも(いな)めない。


故郷(こきょう)では遠巻(とおま)きに(わか)(むすめ)たちから(あつ)視線(しせん)をそそがれていても、かんじんの実体験(じったいけん)にとぼしい(かれ)は、そっちのほうはいまだ奥手(おくて)なのであった。


その()、ミントグリーン(いろ)可憐(かれん)なワンピースに()がえたアナベルは、姿見(すがたみ)(まえ)でくるりと(まわ)った。


ひるがえったスカートの(すそ)膝下丈(ひざしたたけ)(うご)きやすそうな印象(いんしょう)(あた)える。


しかしデザインが清楚(せいそ)でひかえめな(ぶん)(さき)ほどのドレスと(くら)べるとどうしても見劣(みおと)りする。


「もしかして()()らなかった?(ぼく)はいいなと(おも)ったんだけどな」


「………そう?」


(もり)妖精(ようせい)みたいでかわいいよ」


(すこ)不機嫌(ふきげん)そうな彼女(かのじょ)だったが、ロジオンに()められるととたんに上機嫌(じょうきげん)になった。


「それじゃあ、さっそく出発(しゅっぱつ)しましょう♪」


「………どこに??」


(まち)()くのよ」


「………なんのために???」


「デートに()まってるじゃない」


(なさ)けないかなアナベルに()きずられるままに、ロジオンは屋敷(やしき)(あと)にした。



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