21.初デート!彼女はガールフレンド?

文字数 2,247文字




二人(ふたり)馬車(ばしゃ)()りこみ、やがて噴水(ふんすい)がある中央(ちゅうおう)広場(ひろば)(とお)りかかった。


「へぇ、にぎやかだな。ずいぶん活気(かっき)があるんだね」


「アトゥーアンは旅商人(たびしょうにん)休憩地(きゅうけいち)だもの。観光業(かんこうぎょう)だって(さか)んよ」


()(もの)屋台(やたい)から、(こう)ばしい
(にお)
いが(ただよ)ってくる。


市場(いちば)がちかいから、ここで()りましょう」


(とお)りは荷車(にぐるま)()()い、()物目当(ものめあ)ての観光客(かんこうきゃく)であふれている。


「あのさ、アナベルに案内(あんない)してほしい(ところ)があるんだけど。この界隈(かいわい)(しな)ぞろえが豊富(ほうふ)魔法道具店(まほうどうぐてん)ってあるかな?」


「なんだ、魔法(まほう)道具(どうぐ)(さが)してるの?それならマインスター商会(しょうかい)でも一通(ひととお)りあつかっているから、すぐにでも屋敷(やしき)(もの)手配(てはい)して調達(ちょうたつ)できるわ。そんなことより!ねぇねぇ。これ()て!」


アナベルがここぞとばかりにロジオンの(ふく)のそでをつかんで()っぱった。


()るとアクセサリーなどの装飾品(そうしょくひん)()っている屋台(やたい)(まえ)で、彼女(かのじょ)はらんらんと(ひとみ)(かがや)かせている。


………(いや)予感(よかん)がした。


「これ、すっごくかわいいと(おも)わない?」


彼女(かのじょ)指差(ゆびさ)した(さき)には、小鳥(ことり)植物(しょくぶつ)繊細(せんさい)()りこまれた(きん)指輪(ゆびわ)があった。


どうも小鳥(ことり)がデザインされた(もの)(よわ)いらしい。そういえば部屋(へや)にも(とり)置物(おきもの)(かざ)られていた。


貴族(きぞく)はみんな金持(かねも)ちだとでも(おも)ってんのかな。いや(おも)ってるよな………)


「い、いくらですか………?」


()()りそうな(こえ)店主(てんしゅ)(たず)ねると、予想(よそう)より(はる)かに上乗(うわの)せされた金額(きんがく)提示(ていじ)された。


一万(いちまん)クォーツだね」


その指輪(ゆびわ)職人芸(しょくにんげい)(かん)じさせる一品(いっぴん)だけあって、地味(じみ)なわりには綺麗(きれい)(いし)指輪(ゆびわ)などよりかえって(たか)い。


嬢様(じょうさま)だけあってお()(たか)いのだ。


(いちまんくぉーつ?こんな華奢(きゃしゃ)装飾品(そうしょくひん)にいちまんって………でも、アナベルの(いえ)には世話(せわ)になってるし、もしかしたらエレプシア………いや、よそう。彼女(かのじょ)過剰(かじょう)期待(きたい)をするのは間違(まちが)ってる。もちろん下心(したごころ)なしにプレゼントしたいけど。だけどだけど………ええいっ!)


ロジオンは(おも)いきって、財布(さいふ)から(くろ)(かわ)のカードを()()した。


(とう)さんごめん………)


(おや)のすねをかじらなければ(おんな)()にプレゼントの(ひと)つも()ってやれないのかと、ロジオンは(なさ)けない気持(きも)ちになった。

        ☆

太陽(たいよう)(はる)頭上(ずじょう)にのぼるころ。


露店(ろてん)でサンドイッチを()うと、二人(ふたり)中央広場(ちゅうおう)噴水(ふんすい)のふちに(こし)をかけてそれをほおばった。


もちろんロジオンのおごりである。


屋敷(やしき)でふるまわれる料理(りょうり)比較(ひかく)すればなんてことのない出費(しゅっぴ)ではあった。


だが、(さき)ほどの指輪(ゆびわ)想像(そうぞう)()えた金額(きんがく)だったため、(かれ)のふところ具合(ぐあい)はかなり(さむ)状態(じょうたい)にあった。


もちろんそんなことは彼女(かのじょ)()えやしない。


(かれ)自尊心(プライド)問題(もんだい)だ。


ひと(とお)(かる)昼食(ちょうしょく)をすませると、アナベルはさっきロジオンに()ってもらった指輪(ゆびわ)を、(はこ)から大事(だいじ)そうに()()した。


金色(きんいろ)(かがや)くリングを()(ひら)にのせると、いつくしむようなまぶしげな表情(ひょうじょう)(なが)めている。


その姿(すがた)()つめているだけで、(かれ)はなんだか()だまりの(なか)にいるような、(こころ)(おく)(あたた)かな気持(きも)ちで()たされるのだった。


(こんな気持(きも)ち………。しばらく(わす)れてたな)


(かれ)(なが)放浪生活(ほうろうせいかつ)(あいだ)自分(じぶん)(こころ)がどれだけ(すさ)んでいたかを(おも)()らされたのだった。


「ロジオン、どうかした?」


どうやらぼうっとしてしまっていたらしい。アナベルが心配(しんぱい)そうに(かれ)見上(みあ)げている。


少年(しょうねん)大丈夫(だいじょうぶ)だよとでもいうように微笑(ほほえ)むと、(やさ)しく少女(しょうじょ)()()った。


(ぼく)がつけてあげるよ。どの(ゆび)がいい?」


()づいた(とき)には(おどろ)くほどなめらかにその言葉(ことば)(はっ)していた。


それこそ(ふか)意味(いみ)(かんが)えずに、だ。


突然(とつぜん)(もう)()にアナベルも(あき)らかに戸惑(とまど)っていた。


偶然(ぐうぜん)にもロジオンが()()ったのは左手(ひだりて)だったので、本音(ほんね)薬指(くすりゆび)に………。


()いたいところだったが、冗談(じょうだん)とはいえ婚約(こんやく)のまねごとをさせられては、相手(あいて)もさすがに困惑(こんわく)するだろうとためらったのだ。


普段(ふだん)積極的(せっきょくてき)彼女(かのじょ)も、ふいうちを()らうのには()れていない。


ロジオンの(おも)いがけない言動(げんどう)()れてしまったためか、(かれ)(かお)もまぶしく(かん)じられてまともに()られないのだった。





なんとなくいい雰囲気(ふんいき)になったちょうどその時刻(じこく)


大聖堂(だいせいどう)(かね)(たか)らかに()りひびき、数十羽(すうじゅっぱ)(しろ)(はと)がいっせいに()()った。


それが礼拝(れいはい)終了(しゅうりょう)()げる合図(あいず)だった。


(おごそ)かに()ざされた聖堂(せいどう)(とびら)(ひら)き、大勢(おおぜい)人々(ひとびと)一同(いちどう)広場(ひろば)にあふれ()てきた。


「………(ぼっ)ちゃん?ロジオン(ぼっ)ちゃんじゃあないですか!?」


(あた)りをはばからぬ(おお)きな(こえ)にふり(かえ)ると、愛嬌(あいきょう)あふれる小太(こぶと)りの中年男(ちゅうねんおとこ)()()ってきた。


「………ハッシュか!(ひさ)しぶりだなぁ。でもなんでこんな(ところ)に?てっきり屋敷(やしき)にいるのかと(おも)ってたよ」


ロジオンは思わず相好(そうごう)をくずした。


故郷(こきょう)デルスブルクで、(かれ)世話係(せわがかり)(つと)めていた(おとこ)だった。


(ぼっ)ちゃんこそ、ガールフレンドとデートのまっ最中(さいちゅう)ですか」


「デッ………!?」


思わず赤面(せきめん)言葉(ことば)をつまらせると、ここぞとばかりにハッシュが(たた)みかけた。


(ぼっ)ちゃんもすみに()けませんなぁ。さすがは色男(いろおとこ)。こんなに可愛(かわい)らしいお(じょう)さんとごいっしょだとは」


おだてられて()いあがったアナベルは、急遽(きゅうきょ)ロジオンを()しのけて会話(かいわ)()りこんできた。


「ガールフレンドだなんてそんな………。(かれ)とは()()ったばかりで、この(まち)案内(あんない)をしていたところなんですよ。(もう)(おく)れましたが、(わたし)はアナベル。マインスター()(むすめ)です」


うわべでは謙遜(けんそん)しつつも、(あき)らかにまんざらでもないようすで彼女(かのじょ)(こた)えた。


ついでにちゃっかり良家(りょうけ)子女(しじょ)であることもアピールしている。


「マインスター()というと、あの豪商(ごうしょう)マインスター()のご令嬢(れいじょう)ですか!?」


さも関心(かんしん)したというように()()はってハッシュが歓声(かんせい)をあげた。


「ところでおまえはどうしてこの(まち)に?」



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