12.恋の楽園

文字数 1,455文字




(やっぱりやっぱりやっぱりぃぃっ!(ゆめ)(なか)王子様(おうじさま)にうりふたつだわ!)


初対面(しょたいめん)少女(しょうじょ)凝視(ぎょうし)され、戸惑(とまど)気味(ぎみ)のロジオンだったが、勇気(ゆうき)をふるって(こえ)をしぼりだした。


「あの………どこかでお()いしたことありましたっけ?」


『はいっ、(ゆめ)(なか)で!』


(おも)わずそう()(こた)えそうになり、アナベルは必死(ひっし)(くち)をつぐんだ。


第一印象(だいいちいんしょう)をよりによって【(へん)()】で、(こい)する(おとこ)脳内(のうない)にインプットするわけにはいかない。


「………あたし、アナベルっていいます。あなたのお名前(なまえ)は?」


「………(ぼく)(ぼく)は………」


そう()いかけて、ロジオンは大変(たいへん)なことを(わす)れていたのに()がついた。


「あっ!しまった………魔法(まほう)しくじったこと(わす)れてた。………合成獣(キメラ)はどうなった?」


合成獣(キメラ)なら見違(みちが)えるほどしおらしくなったぜ。そちらのお(じょう)さんみたいにな」


皮肉(ひにく)たっぷりにラグシードが応酬(おうしゅう)すると、アナベルは(ほお)をふくらませて(かれ)(にら)みつけた。


事情(じじょう)がのみこめないロジオンは、二人(ふたり)のやりとりをきょとんとした表情(ひょうじょう)見守(みまも)っていた。


「なら、よかった………。自己紹介(じこしょうかい)(おく)れたけど、(ぼく)はロジオン。諸国(しょこく)(たび)して、魔法(まほう)知識(ちしき)収集(しゅうしゅう)しています。アナベルさんだったよね。(きみ)はどうしてここに?」


「お(じょう)さんはレストランのオーナーのご令嬢(れいじょう)だってよ」


「ひっ!?こ、これは………(ぼく)はとんでもないことを………???すみませんすみませんっ!(かなら)ずべ、弁償(べんしょう)しますからっ!」


とたんに顔面蒼白(がんめんそうはく)になったロジオンは、狼狽(ろうばい)のあまり何度(なんど)(あたま)()げた。


()()け、ロジオン。おまえが()(うしな)ってる(あいだ)に、すでに(はなし)決着(けっちゃく)はついてるんだ。おまえはレストランを破壊(はかい)した極悪人(ごくあくにん)どころか、救世主(きゅうせいしゅ)あつかいだぞ?」


「へ?」


「あなたたちにぜひお(れい)がしたいの。だからうちの屋敷(やしき)()てもらえませんか?」


まるで(かみ)(いの)りをささげるように、少女(しょうじょ)(むね)(まえ)で手を()(ひとみ)をうるませ懇願(こんがん)している。


(なんなんだ?この状況(じょうきょう)………。よくわからないけど、(ことわ)りづらそうな(かん)じだよな?)


ロジオンは自信(じしん)のなさそうな表情(ひょうじょう)()かべ、ちらりと相棒(あいぼう)のほうを()た。


(おれ)(べつ)にかまわないけど?
といったようすで(しず)かにうなずく。


「では、ご好意(こうい)(あま)えて」


アナベルに()かってぎこちなく微笑(ほほえ)(かえ)すと、少女(しょうじょ)はかすかに(ほお)(あか)らめたようだった。


「にしても、やっぱり失敗(しっぱい)したんだな、魔法(まほう)。このままじゃいつまで()っても、フォルトナの魔法円(まほうえん)未熟(みじゅく)なままか」


合成獣(キメラ)(しず)めることができたとはいえ、魔法(まほう)制御(せいぎょ)にしくじって、意識(いしき)をうしなって気絶(きぜつ)していたのだ。


(なさ)けないにもほどがある。


瓦礫(がれき)(くず)(ふく)から(はら)()としながら、ロジオンは(こころ)(そこ)からため(いき)をこぼした。


しかしそれとは対照的(たいしょうてき)に、ラグシードは面白(おもしろ)がっているようなふしさえ見受(みう)けられる。


(かれ)はくいっと親指(おやゆび)人差(ひとさ)(ゆび)を立てると、(ねら)いを(さだ)めるように前方(ぜんぽう)にかざした。


「いや、乙女(おとめ)さえ見つければなんとかなるんだろ?(おれ)、い~い、予感(よかん)がするんだけどな」


その瞬間(しゅんかん)天井(てんじょう)(あな)から()しこんだ太陽(たいよう)(ひかり)が、偶然(ぐうぜん)アナベルをとらえて()らしだした。


一瞬(いっしゅん)、ロジオンは()をうたがった。


少女(しょうじょ)(ひとみ)は、あの可憐(かれん)(はな)びらと(おな)紫色(むらさきいろ)をしていた。


(かれ)()()うと彼女(かのじょ)笑顔(えがお)(かえ)した。まるでエレプシアの(はな)(せい)微笑(ほほえ)んだようだった。


ロジオンは()をこらして、何度(なんど)もまばたきした。


するとアナベルを(つつ)んでいた(ひかり)のベールはすっかり()りはらわれ、魔法(まほう)()けてしまった。


そこには、ごく普通(ふつう)人間(にんげん)少女(しょうじょ)がたたずんでいるだけだった。


()のせいか………。きっとあの呪文(じゅもん)使(つか)ったからひどく(つか)れているんだ)


そう自分(じぶん)納得(なっとく)させると、無意識(むいしき)今見(いまみ)幻影(げんえい)()いはらおうとして(かぶり)をふった。



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