(やっぱりやっぱりやっぱりぃぃっ!
夢の
中の
王子様にうりふたつだわ!)
初対面の
少女に
凝視され、
戸惑い
気味のロジオンだったが、
勇気をふるって
声をしぼりだした。
「あの………どこかでお
逢いしたことありましたっけ?」
『はいっ、
夢の
中で!』
思わずそう
受け
答えそうになり、アナベルは
必死に
口をつぐんだ。
第一印象をよりによって【
変な
娘】で、
恋する
男の
脳内にインプットするわけにはいかない。
「………あたし、アナベルっていいます。あなたのお
名前は?」
「………
僕?
僕は………」
そう
言いかけて、ロジオンは
大変なことを
忘れていたのに
気がついた。
「あっ!しまった………
魔法しくじったこと
忘れてた。………
合成獣はどうなった?」
「
合成獣なら
見違えるほどしおらしくなったぜ。そちらのお
嬢さんみたいにな」
皮肉たっぷりにラグシードが
応酬すると、アナベルは
頬をふくらませて
彼 を
睨みつけた。
事情がのみこめないロジオンは、
二人のやりとりをきょとんとした
表情で
見守っていた。
「なら、よかった………。
自己紹介が
遅れたけど、
僕はロジオン。
諸国を
旅して、
魔法の
知識を
収集しています。アナベルさんだったよね。
君はどうしてここに?」
「お
嬢さんはレストランのオーナーのご
令嬢だってよ」
「ひっ!?こ、これは………
僕はとんでもないことを………???すみませんすみませんっ!
必ずべ、
弁償しますからっ!」
とたんに
顔面蒼白になったロジオンは、
狼狽のあまり
何度も
頭を
下げた。
「
落ち
着け、ロジオン。おまえが
気を
失ってる
間に、すでに
話の
決着はついてるんだ。おまえはレストランを
破壊した
極悪人どころか、
救世主あつかいだぞ?」
「へ?」
「あなたたちにぜひお
礼がしたいの。だからうちの
屋敷に
来てもらえませんか?」
まるで
神に
祈りをささげるように、
少女は
胸の
前で手を
組み
瞳をうるませ
懇願している。
(なんなんだ?この
状況………。よくわからないけど、
断りづらそうな
感じだよな?)
ロジオンは
自信のなさそうな
表情を
浮かべ、ちらりと
相棒のほうを
見た。
俺は
別にかまわないけど?
といったようすで
静かにうなずく。
「では、ご
好意に
甘えて」
アナベルに
向かってぎこちなく
微笑み
返すと、
少女はかすかに
頬を
赤らめたようだった。
「にしても、やっぱり
失敗したんだな、
魔法。このままじゃいつまで
経っても、フォルトナの
魔法円は
未熟なままか」
合成獣は
静めることができたとはいえ、
魔法の
制御にしくじって、
意識をうしなって
気絶していたのだ。
情けないにもほどがある。
瓦礫の
屑を
服から
払い
落としながら、ロジオンは
心の
底からため
息をこぼした。
しかしそれとは
対照的に、ラグシードは
面白がっているようなふしさえ
見受けられる。
彼はくいっと
親指と
人差し
指を立てると、
狙いを
定めるように
前方にかざした。
「いや、
乙女さえ見つければなんとかなるんだろ?
俺、い~い、
予感がするんだけどな」
その
瞬間、
天井の
穴から
射しこんだ
太陽の
光が、
偶然アナベルをとらえて
照らしだした。
一瞬、ロジオンは
瞳をうたがった。
少女の
瞳は、あの
可憐な
花びらと
同じ
紫色をしていた。
彼と
目が
合うと
彼女は
笑顔を
返した。まるでエレプシアの
花の
精が
微笑んだようだった。
ロジオンは
瞳をこらして、
何度もまばたきした。
するとアナベルを
包んでいた
光のベールはすっかり
取りはらわれ、
魔法は
解けてしまった。
そこには、ごく
普通の
人間の
少女がたたずんでいるだけだった。
(
気のせいか………。きっとあの
呪文を
使ったからひどく
疲れているんだ)
そう
自分を
納得させると、
無意識に
今見た
幻影を
追いはらおうとして
頭をふった。