プロローグ 2

文字数 817文字

 あいつは、コール音2回きっかりで電話に出た。懐かしい声がする。

「やあ、マーシー、久しぶりだな。元気か?」
 電話越しに、あいつの感情が高揚しているのが伝わってくる。それはオレも同じだ。

「ふふふ。オレら、いつ以来だっけか?」
「十年かな……そう、最後は大学出て間もなくだったから、間違いない。ちょうど十年だよ。でも突然、どうして?」
「ルイがクニから出てきて、今は須波にいると聞いた」
「あれ? 誰かにこのこと話したっけな?」
「風の噂さ」
「風? それ、誰のことだ?」
「いや、まあいい。独り言だ」
「で、マーシーは最近、どうしているんだ?」
「ビジネスを始めた」

 それを聞いたあいつは、急に白けた声になる。
「そっか。マルチビジネスなら、よそを当たってくれ」
「オレたちゃ朋友だろ? マルチなんかじゃねえから、お前に掛けたんだ」
「じゃあ、何を?」
「ふふふ。朋友の証に、オレのサービスの会員証をメールで送るよ。画面表示でサービスが受けられるやつだ。お前以外でも、お前の信じられる相手なら、紹介客として扱う。メールにはサービス内容と、そうだな、一応規約も添付する」

 どんなビジネスで、どんなサービスを提供しているのか、ルイは見当もつかないはずだ。あいつは黙っているが、それでは口を挟もうにも挟めないだろう。

「オレの勘が正しければ、須波もそうなる。だからオレもここへやって来た」
「マーシーも市内にいるのか。なるほど、そうだな。多分同じ意味のことだろうけど、僕もそう思う。来てみて、そう感じた」
「オレのサービスは、いざというときのセイフティネットだと思っていてくれ。そういう事態にならないことを祈っているが、な」
「よくわからないが、ありがとう。メールは確かめるよ」
「それじゃ、また」

 オレは通話を切ると、煙草をくわえた。マッチを擦るとリンの香りが漂った。火をつけるなり深く息を吸い込み、一旦煙を胸に溜めてから吐き出した。
 いつも、この一口目がたまらなく美味い。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み