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文字数 544文字
包みから野球のヘルメットを取り出して被ると、バットケースを左手に持った。ケースの口を開け、覗いている柄の部分をそのまま親指で押し出した。
息を殺して、そっとドアレバーに空いている右手を掛ける。
倒して少し引いてみると、そのままドアが開く。鍵は開いたままのようだった。
音を出さないように、なるべくゆっくりと引いた。
電灯がついていないようで、中は暗い。彼は、袴の裾を擦らないようにして音を立てずに、その暗がりの中に滑り込んだ。
男の荒い息遣いと共に、若い女のすすり泣く声がする。おのずと、そちらへ意識が向く。
奥の部屋の窓からわずかに月明りが入り込んでいた。目が慣れるにしたがい、倒れた椅子と四角いテーブルの向こう側にぼんやりとした黒い影が見えてくる。
そして、一心に腰を振る男の白い尻が見えた。
(……沙織……?)
裕丈は、あの夜彼女の身に起きた凄惨な出来事をありありと脳裏に描いた。
そして、自分があの場に居合わせながら助けることのできなかった悔恨で、改めて胸をえぐられる思いがした。
(……沙織……!)
彼の両の目から熱いものが噴き出してくる。
視界が、大きく歪んだ。
そのときである。とても人間のものとは思えない、化け物じみた叫び声が彼の耳をつんざいた。
「ふ、ふ、ふぎゃうおおう!」
息を殺して、そっとドアレバーに空いている右手を掛ける。
倒して少し引いてみると、そのままドアが開く。鍵は開いたままのようだった。
音を出さないように、なるべくゆっくりと引いた。
電灯がついていないようで、中は暗い。彼は、袴の裾を擦らないようにして音を立てずに、その暗がりの中に滑り込んだ。
男の荒い息遣いと共に、若い女のすすり泣く声がする。おのずと、そちらへ意識が向く。
奥の部屋の窓からわずかに月明りが入り込んでいた。目が慣れるにしたがい、倒れた椅子と四角いテーブルの向こう側にぼんやりとした黒い影が見えてくる。
そして、一心に腰を振る男の白い尻が見えた。
(……沙織……?)
裕丈は、あの夜彼女の身に起きた凄惨な出来事をありありと脳裏に描いた。
そして、自分があの場に居合わせながら助けることのできなかった悔恨で、改めて胸をえぐられる思いがした。
(……沙織……!)
彼の両の目から熱いものが噴き出してくる。
視界が、大きく歪んだ。
そのときである。とても人間のものとは思えない、化け物じみた叫び声が彼の耳をつんざいた。
「ふ、ふ、ふぎゃうおおう!」