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文字数 774文字

 川の向こうに小高い山が見えてくる。トザキは、それを指さした。
「この山を越えたら、県境はすぐそこだぜ」
「いや、車が通れるような道がないなら無理して越えなくていい」
 マーシーは、すかさず釘を刺した。まだ声の出ない真白は、首を大きく振って激しく同意する。
 それをルームミラーで見たトザキは、渋い顔をした。

 結局、山沿いの農道を進んだが、もはや追手らしきものは見えなかった。真白は、さらなる乱暴な運転にさらされることなく県外脱出の目処がついたことに安堵した。
 山を回り込むように走り抜けると、やがて海が開けた。夕方のオレンジの光が空一面に輝いている。
 舗装された小道に変わり、道路案内板によると、それは港の跡地につながっているようだった。

 海沿いの鄙びた街並みが見えてきたころ、いつのまにか顔を上げていたBBがいった。
「あのう、この辺りで降ろしてもらえないでしょうか」
「へ?」
 マーシーが、BBの唐突な願いに面食らったようだった。
「トイレにでも行きたくなったのか?」
 BBは、苦笑いを浮かべた。「まあ、そんなところですね」
 トザキがアクセルを緩めながら、マーシーに耳打ちした。「ちょうどこの先にコンビニがあるぜ。そこまで行こう」
 穏やかに波打つ海が、真白のささくれた胸にあるものを優しく包み込むようだった。
 やがて、トザキは減速させるとコンビニの駐車場の前でハンドルを切り、ゆっくりと車を乗り入れた。

 用を済ませて店から戻ってきたBBは、車のドアを開けた。
「少し迷ったんですが、やっぱり、僕はここで君たちと別れようと思います。いけませんか?」
 トザキが黙ってマーシーを見た。マーシーは、サングラスの奥で細かく瞬いた。
「……いや」
 BBは頷くと真白に顎先を向けた。
「ジェーンさんでしたっけ? 君はどこまで行くんですか?」
 彼女は目を泳がせる。
「どこって?」
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