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文字数 810文字

「須波市は、実は以前からこのように有刺鉄線のついた、高さ三メートルほどのフェンスや壁で囲まれています」
 夜間の報道番組では、その映像と共に女性リポーターの声が流れた。

 まるで刑務所等の世間とは隔絶された施設を思わせるような仕切りが、視界の届く限り延々と続いている。
「市長狙撃事件の実行犯は未だに市内に潜伏しているものと見られています。警察と治安維持チームは合同捜査の手を進めていますが、このように区域を閉鎖し、検問により市境の出入りを管理するとしています」
「既に市道の検問所では、マイナンバーカードのスキャンを経てからでないと、市境を出入りすることはできなくなっています」
「車での通行の場合、乗員全員のマイナンバーカードの提示及び代表者のスキャンが必要で、通勤や配送業者等の車両で、各方面で大渋滞が発生しています。市当局は、渋滞解消のためにも非常事態宣言中の不要不急の外出は控えるよう、市民に呼び掛けています」

 須波市は、日本全国でも初めての取り組みで、市立の小中高大の一貫校が設置されており、就学する未成年者が日常的に市外に出る必要がない教育システムとなっていた。
加えて、市の一定基準を満たした優良企業の誘致といった施策も奏功し、市内で就職する者が、市の就労人口の実に95%以上を占めていた。それも今回の非常事態宣言では効果を発揮しているといえた。
 鉄道駅や船舶の港はなく、市外へ延びる道路もわずかに東方面と南西方面へ延びる二本きりだった。そのある種いびつな都市構造が、普段からの市外へのアクセスに難がある地域となっていた。

 開発当初から周りを丘や山で囲まれたコンパクトな地方都市を標榜していたため、道路封鎖による通行制限や検問の設置が容易となっている。
 それは都市設計のミスだと指摘する向きもあったが、従来から近代的な技術やサービスの導入には積極的な市政のため、少なくとも県内では過ごしやすい街として評価されていた。
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