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文字数 628文字

「お主たち、今はここで何を?」
 裕丈が問うと、ジャンは通りの一角に目をやった。
「待機中だ。新プロジェクトで、他のチームが連行してくる人間を車に乗せて移送し、取調べ官に引き渡すのが本日の我々の役目だ。連行する人数によっては、何度も車をピストンさせなくてはならないが、捜査規模は我々も詳しくは知らされていない。要は、犯罪者及び犯罪予備軍とされる人間どもが、この界隈で実際にどのくらい存在するのかによるな」
「この閑静な住宅街に、でござるか」
 ジャンは、頷いた。

(誰一人も出てこないこともあり得るだろうな)
 平和そのものの街並みに見える裕丈には、どうも解せない作戦である。
 とりあえず、互いに連絡が取り合えるように、裕丈は自分のチームナンバーが1025であることを伝え、同時に305を自分のスマホアプリに登録した。治安維持チームに加入してから職員に提供された専用アプリには、チームナンバーを打ち込むと電話等の連絡が取れる機能がついていた。

「一旦、この一角を歩いて見て回るでござる」
 彼は頭を下げると、歩いてその場を離れた。
 他のチームが、各戸を当たっているらしいが、とっさにそれらしき姿は見えない。
 プロジェクト開始早々にこのようなエリアを選定したということは、つまり犯罪者の潜伏先情報でも手に入ったのだろうか。

 人気もほとんどない、このさわやかな春の週末の午前中に、捕り物が始まるとは彼にはとても思えなかった。その半信半疑の思いが、かえって不気味さを引き立てる。
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