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文字数 588文字

(あの白壁のアパート……?)
 足がすくむ。

(……でも、行かなきゃ! 絶対、まともでない何かが起きている!)

 アパートの階段下まで来ると、迷いなく二階へ上がった。そこには、通路半ばに開け放したままのドアがある。
 足音を鳴らさないように駆け寄り、そっと覗いた。
 おそらくBBだと思われる袴姿の背中が見える。
 同時に、ほとんど反射的に真白の眉間にしわが寄った。

(この匂いはあの時の!)
 独特の汗と何かが混じった、むっとした強烈な異臭が、部屋の外まで漂ってきている。あの夜、須磨兄妹を襲った暴漢の三人組の発していたものと、明らかに同じだった。
(間違いない! あいつらが、ここにいる!)
 真白は腰にぶら下げていた伸縮式の警棒を伸ばすと右手に握った。
(何というめぐり合わせ! いよいよその時が来たんだ!)
 おのずと手が汗ばむ。

「なぜ、この男がここへ?」
 焦りを含んだ男のうめき声がした。
「やはり、貴様らか。ここで会うたが百年目。外道め。神妙にしろ」
 そういったBBが、左の腰に差しているバットに右手を掛けるのが見える。
 するとその奥で、しゃがれた笑い声がした。「ブンブン侍だっけ? えらく威勢がいいな」

(やはり、あの時の男!)
その独特の声は忘れていない。
 真白の頭に省吾の腫れた横顔がよぎる。
(絶対許さない!)
警棒を握り直すと彼女は、まさに一触即発の状況である部屋の中へ踏み込んでいった。
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