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文字数 622文字

 扉の向こうで、複数の人間が重たい足取りで動くのが聞こえた。他のチームの出動か、任務からの戻りか、真白はそれに一瞬気を取られる。が、ジャンは関心を示さなかった。

「私がかの国に忠誠を尽くしているように、君も自分の国を思って道を選べばいい。そうして、平和ボケ、加害者天国という汚名を返上してみせろ」
 マイケルが薄く目を開いた。
「かつて世界の中心でありながら、歴史の中で長く翻弄されてきたかの国を堅固な国家へと変貌せしめたのは、復興そして強国への情熱に他ならない。我々は再び世界の中心となる。これからは国境など大した意味はない。かの国における辺境にすぎん」
「ジェーン」マイケルが目を伏せたまま、いった。
「ジャンの言った意味、分かるかい?」

(?)
 真白は、ジャンの誇大妄想的な感覚にあ然としていたところで、マイケルの意こそ分からなかった。
「端的に言うとだ、君たち日本人自身が統治できないなら、この須波市そしてやがて日本全体は、僕らが完全に取り仕切る。つまり、かの国の支配下、領土になるということだよ」
 マイケルは高校で級友に、やや手の込んだ数学の難題をどういった公式で解いていけばいいのか教えるように、あたかも知っていれば何ということもない当然のごとき理屈だと言いたげに、真白にさらりと話し聞かせた。

 ジャンは、仮眠を取ってこのまま何もなければ帰宅するようにと指示を残し、明日明後日の休み明けにプロジェクト初日を迎えることになるといって部屋を後にした。
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