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文字数 705文字

 二人は見送るように車道のそばまで行って並んで立ち、急カーブの向こうに消えていく車の赤いブレーキランプを眺めていた。
 けたたましいエンジンの咆哮が遠ざかっていくと、静かな波音が滑り込んできた。これから母の住む街に身を寄せることや、兄の脱出のことに真白は思いを巡らせる。

 ふと彼女がBBに目をやると、それまで淡々としていた彼が、その瞳にあふれんばかりの涙をたたえていた。
「BBさん」
「僕は、もうBBじゃない。滝川裕丈という男に戻ったんです」
 そこにいるのは、もはや悠然とした侍風情の男性ではなく、猫背気味のややひ弱そうな中年男だった。
 返す言葉に困り、真白は逡巡を重ねた。

 いくつもの波が寄せては返す音がしたあと、BBがぼそりといった。
「僕は」
「ん?」
「この海に来たことがあるんですよね、沙織と」
 BBは、海の方に顔を向けた。
「まだ付き合う前のことです。初めて会って、少し仲良くなったころ。彼女が、一緒にご飯食べていたときだったかな、突然海に行きたいと言い出したことがあって。それで、そのカフェを出たあと、そのままレンタカーを借りて僕らはここへ来ました。今と同じオレンジ色の夕陽と海原を彼女は飽きることなく、ずっといつまでも肩を寄せ合い、黙って眺めていました。……その日のことが、一番美しかった沙織との思い出です」
「そう」
 真白も、澄み切った空と、それが映った海を見た。
「それからまもなく付き合い始めました。世間的にはだいぶ遅いんですけど、僕にとっては初めてできた交際相手でした。僕には大して何もないのに、彼女はずっと僕といてくれた。だから僕は、彼女が笑顔になることなら、何でもしたかった。彼女は僕の全てだった」
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