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文字数 866文字

 円グラフの周りに文字が躍る。
 独身男性、既婚男性、独身女性、既婚女性。
「つまり、独り身の男性による犯罪が半数だというデータです。パートナーがいない男性がダントツで情緒不安定という心理的データ、統計は世にたくさんあります。が、ここにいる皆さんの大半が犯罪予備軍だなんてことが言いたいわけではないんです。かなり語弊がありますね、あはあは、あはは!」
 やはり笑い声を立てたのは内倉一人だった。この大会議室内で彼だけが、シュールで面白いジョークだった気でいるようだった。
 独身男を見たら泥棒と思え、といわんばかりの論法に、真白は思わず真っ赤に染めた唇を歪めた。成人男性の半数が生涯未婚で終わるこの時代にあっては、詭弁でしかないのではないだろうか。

 その時、例の袴姿の男が薄く目を開いた。少なくとも彼女には、そのように見えた。もっとも、内倉の場違いな笑いに眉をしかめただけかもしれない。
 彼の解説は、孤独が人の心を蝕む傾向があること、これがもとで情緒不安定になり疎外感や被害妄想等を抱くケースが多々観察されること、そしてそれらの人間のうち一定の割合でテロリズムに侵されていくことにまで及んだ。
 犯罪予備軍とされる層の人間に、当局からプレッシャーを与え、大きな犯罪を抑止する必要がある、と内倉は結論づけた。

「加害者天国と長年いわれていた我が国では、事件が起きるまで対応しない警察への批判が多かったのですが、須波市では犯罪を未然に防ぐ対策を打つこととします。新たな被害者をできる限り生まないための取り組みを、ここにいる皆さんにお願いしたい。この街で構築された安全モデルが成功すると、それが日本全国の自治体へとフィードバックされていくことになります」

 内倉氏は演台に左手を置いて前のめりになって、眼鏡の奥の目を大きく見開いた。「皆さんは、いわば時代の先駆者、パイオニアです」
 全体ブリーフィングは小一時間ほどで終了した。
 各チームのメンバーが、所定の待機場所に戻るべく席を立つ。
 それまで静まり返っていた大会議室は、さまざまな話し声で渦を巻いた。
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