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文字数 619文字

「おらおら! 無駄口聞いてると、舌を噛むぜ!」

 そこでまた車全体が大きく上下に揺れた。トザキに突っかかろうとしていたマーシーは天井に頭をぶつけて「うぐ!」と声を上げたきり言葉が出なくなってしまった。
 真白も頭を下げて両手で覆っていたが、隣を見るとBBも背中を丸めて、運転席の背凭れに頭を押し付けていた。
 車は大波に飲まれそうになった小舟のように、上へ大きく跳ねると下へ落ちることを延々と繰り返した。
 踏ん張っている足が幾度となく浮いてくる。真白は必死で前席のシートとドアの手すりを握る手に力を込めた。
 絶え間なく全身に衝撃が加えられる。そのように脳震とうを起こしそうになる状況で、彼女はもはや感情が吹き飛んでいた。
 ただ、この時間が速やかに過ぎ去っていくことだけを願った。

 わめき散らすエンジン音に紛れて後方に聞こえていたパトカーのサイレン音が徐々に遠ざかっていく。警官たちは、パトカーを畑に乗り入れて追うわけにもいかないのだろう。
 トザキの運転するミニバンはそのまま広大な畑をまっすぐ突っ切って進み、小さな川の堤まで来ると、それに沿って伸びている砂利道に入った。
 平面の走行に変わって、真白はようやく息をついた。
「おいこら、トザキ! 他人様の土地を荒らすなよ!」
 フレームの曲がったサングラスを掛けているマーシーが、トザキの耳元で怒鳴る。
「感謝してもらいてぇもんだ! 耕してやったんだよ!」
「あちゃー?! かの国ばりの詭弁だな、それ!」
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