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文字数 755文字

「何をした!」
 一兵のスマホを持つ手に力がこもった。
 嗄れ声がヒヒヒ、と笑う。
「指を一本ずつハンマーで潰してやってるのよう」
「何でそんなことを!」
 ギタリストの命である指を損壊させる鬼畜な行いに、一兵は怒声を上げた。
 兄の大いなる危機が続いていることに真白は、失望した。彼女の左右の瞳が涙でにじむ。

「早く来ねえと、さらにもう一本、やっちまうよ。どうすんの?」
 電話の向こうで、複数の下卑た笑い声がする。
 憤りと恐怖がないまぜになった彼女の歯が、震えて音を立てる。
「お、お兄ちゃん……」

 一兵のスマホがその声を拾ったのだろう。短い口笛がした。
「おっと、あの女はそこにいたのか」
「ちょうどいいや。その男と一緒に来いよ」
「オレ達と気持ちいいことやろうぜ」
 男たちはそれぞれに言葉を発した。
「てめえよう、警察に電話したら、こいつがどうなるか分かっているだろうな、ヒヒヒ」
 そこへ再び、省吾の声が割って入る。
「一兵! 俺のことはいいから絶対ここへ来んなよ! その代わり真白のこと頼む! ……んぎゃ!」
「省吾!」
 一兵が叫ぶと同時に通話は途切れた。

「ちくしょう!」
 一兵は左の拳を、ぎりぎりと握りしめた。意を決して手近なジャケットに手を伸ばして玄関を出ようとすると、真白が彼を後ろから抱きとめた。
「ま、待って! 向こうは、男が三人もいるんだよ? 一兵くん一人じゃどうにもならないよ!」
「あいつのアパートへ向かう途中で警察に電話するから。もちろん、それが連中に見つかったらショーゴがヤバいって説明はする」

 自分が部屋を出たらすぐにドアの鍵を掛けて、戻ってくるまでは絶対に開けるなと真白に一方的に言い置いて、一兵はスマホと、玄関に掛けてある鍵を尻ポケットに押し込むなりマンションを飛び出した。
 真白は、彼を見送ると鍵を閉めた。



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